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第24話 第四章・5 鑑定士、《魔導の大要塞》に挑む

エルマンと対峙するオルタは、徐々に不利な状況へと追い込まれていく。

だがその裏で、すでにリュークとロミィは動き出していた――!


次回の更新は5月31日の18:00を予定しています。


※23話の修正を受けて、オルタとエルマンのやり取りを微調整しました。(2019.8.2)

「キクノ、しっかりしてください!」

 オルタが叫び、俺の腕を離れて、キクノのもとに駆け寄った。

 エルマンの邪眼を受けて倒れた女武士は、どんなに呼びかけても、一切の反応を見せない。

 だが――とりあえず安心していい。一命は取り留めたはずだ。

「落ち着け、オルタ。キクノは生きている」

 俺はそう言って彼女のそばに寄ると、傍らに落ちた「それ」を拾い上げた。

 俺のダガー「アルゴス」だ。《瞳》を本質アニムに持つこいつを、ただし今回俺は、普通にダガーとして使わせてもらった。

 ……そう。キクノがエルマンに斬りかかろうとしたのを見た俺は、とっさの一手に打って出た。それが、このダガーだ。

 こいつを投げ、キクノの背中に当てた。もちろん皮膚にはダメージを与えず、あくまで防具を傷つけるだけで済むよう、緻密(ちみつ)な力の加減が必要だったが――まあ、そこは問題ない。

 ダガーに背中を突かれたキクノは、さすがに背後から攻撃を受けたことに気づき、一瞬足を止めた。そして振り返ろうとしたところで、邪眼を食らった――。

 つまり顔の角度が動いた分、「直視」は免れた。おかげで死に至らず、昏倒だけで済んだというわけだ。

「……鑑定士、貴様、今何をした」

 エルマンの苛立った声が、さっそく俺に向けられる。そりゃそうだ。明らかに俺が手出ししたことが、バレバレだからな。

 さてと、こいつをどう誤魔化すか――。

「悪い、ちょっと手が滑っちまった」

「何?」

「いや、キクノがあんたに斬り込むのを見て、完全にビビっちまってさ。俺も身を守らなきゃと思って、とっさに武器になりそうなものをつかんだら、手が滑って飛んでって、キクノの背中に――」

「ふん、Fランク風情が、ダガー一つで身を守れるものか! 貴様はおとなしくオルタの子守でもしていろ!」

 おいおい、まさか今の雑な言い訳を信じたのか? チョロいな。

 さて、それよりも――と俺は後ろを振り返る。

 辺りの冒険者は皆、建て物の陰に引っ込んだまま出てこない。ミアが倒れた時は総出で助けにきたんだが……。なるほど。キクノを助けてエルマンに「睨まれ」ちゃ敵わないってわけか。

 仕方ない。だったら俺も、この「人目が少ない」状況を利用させてもらうまでさ。

 素早く方針を固め、俺は近くにいたロミィに声をかけた。

「ロミィ、キクノを安全な場所に運んでくれ」

「はいはい。ていうかリュークも手伝ってよ。一人じゃ運べないんだから」

 ロミィがキクノの上体を抱き起こしながら、不満げに言う。

 ……ああ、こいつはもちろん演技だ。さすがロミィ。俺の狙いがきちんと分かっている。

 俺は頷き、ロミィと二人で、キクノを両サイドから担ぎ上げる。もっとも俺達の背丈が違いすぎるせいで、キクノが斜めになっちまってるが――まあ、ここは我慢してもらおう。

「オルタ、頼みがある」

「何でしょう」

「俺達がキクノを回復させている間、エルマンに事情を説明して、ビヨンドの命を奪う必要がないことを分からせてやってほしい。ただし、くれぐれもエルマンの目を見ないようにな」

「分かりました!」

 オルタが頷く。……もっともここまでは、周りに聞かせるためのやり取りだ。

 俺はさらに小声で、オルタに囁いた。

「――時間を稼いでくれ。その間に、()()()()()

「……リューク?」

 オルタがハッとする。俺は軽く笑顔で応えると、ロミィを促して、すぐさまキクノを建て物の陰に連れていった。

 ひとまず仰向けに寝かせる。幸い、他の冒険者の目が届かない位置だ。さて、何とかするとは言ったが……とりあえず介抱が先だな。

「ロミィ、任せた」

「あたし回復魔法とか使えないんだけど?」

「邪眼にやられただけだからな。むしろロミィの得意分野じゃないか」

「うん、知ってた。じゃあ、はい。《純邪ピュア・イービル》」

 ロミィがしゃがみ、キクノの額に手をかざす。相手の体を侵している邪悪な力を、()()()()()()で追い払うというこの魔法は、冒険者のスキルには存在しない特殊なものだ。

「それでいい。ロミィ様様だな」

()()様様、でしょ? はい終わりっと。そのうち目が覚めるよ」

 ものの一秒ほどであっさり治療を済ませ、ロミィが立ち上がる。俺はそいつを目の端で見届けつつ、すぐに建て物の陰を伝って、広場とは反対側へと向かう。

「行くぞ、ロミィ」

「あたしも?」

「壁が必要だからな」

「何かこう、もっと他に言い様はないの? 可愛いロミィちゃんのスーパーマジカルパワーが必要だから一緒に来てください、とか」

「かわいいろみぃちゃんのすーぱー何とかがひつようだからいっしょにきてください」

「うわ、めっちゃ棒読み……。やれやれ、仕方ない。行ってやるとするか」

「俺の真似はしなくていい」

 そんな軽口を叩き合いながら――俺とロミィは、ただしとっくに走り出していた。

 建て物の裏手から、人目のない道を縫って、目指すは岩の向こう。

 そう、ビヨンドのもとへ。


   *


「つまり――アクセサリーを外せば、あの男は邪神の支配から解放される。どうあっても貴様は、そう主張するのだな、オルタ?」

「はい、さっきも言ったとおり、間違いありません! 現に、キクノはそれで助かりました!」

 エルマンの問いかけに、オルタはしっかりと頷いた。

 ビヨンドの命を取らずとも、邪神の呪縛を解く方法はある――。それを理解させるためにも、さっきまでキクノが同じ状況に陥っていたことも添えて、改めて説明した。

 ……もっとも、エルマンが素直に納得することはなかったが。

「助かったと言うが、あの女武士は私に刀を向けたな。あれは邪神の意志が残っていたからではないのか? 私も急だったので、とっさに迎え撃ってしまったが――」

 ――とっさに?

 ――とっさにという理由だけで、殺し返そうとした?

 思わずそう問い詰めたくなる。だが、いや、ここで相手の神経を逆撫でしてはいけない。争わずにじっくり対話を重ねるのは、こちらが有利な状況を作り上げるまでの時間稼ぎでもある――。父から学んだ外交のノウハウを頭に思い起こしながら、オルタはあくまで問われたことに答える。

「キクノも、とっさだったのでしょう。本来なら助かるはずのビヨンドを、あなたに殺されかけたのですから。彼女が頭に血を上らせたこと、どうか大目に見てください」

「ふん、まあいい。……おい、そこの――ドーリスと言ったな?」

「は、はい!」

「貴様はついさっきまで、オルタと一緒にいたようだな。オルタの言ったことは本当か?」

「はい、そ、それは間違いなく……」

 ドーリスが青ざめながら頷く。おそらく、すべての元凶が自分にあるからこその焦りだろう。もしあの誤鑑定が発端だという事実をこの場で暴露されれば、ここにいる全員の怒りがドーリスに向きかねない。

 もっとも、そう仕向けるつもりは、オルタにはない。

「とにかく――助かるのです。ビヨンドは」

 そう、今はただ、それを主張するのみだ。

「――では訊こう」

 エルマンが改めて、オルタを睨んだ。こういう時、相手の目を見返せないのが、歯痒くて堪らない。

「アクセサリーを外すと言ったな。……()()()()()だ?」

「それは……」

 オルタは答えに窮した。あの鉄壁の砦に囲まれたビヨンドから、アクセサリーを外す方法――。それを言葉にできるのは、おそらくリュークだけだ。

 オルタに答えられないと知り、エルマンがニヤリと笑った。

「私ならば、できない方法を探るよりも、確実な手段を採る」

「確実な手段……?」

「あの『邪神』を退治する。私にとっては造作もないことだ」

「それは――なりません!」

「愚かな! 確実さを否定すれば、この場に集う何十人もの冒険者の命が危険に晒されるのだ! 貴様はそれでいいのか!」

「うぐ……」

 突然の思わぬ正論に、オルタが言葉を呑む。同時にエルマンは、このやり取りを制するのが自分だと悟ったか、改めて声高に叫んだ。

「冒険者諸君! 私に意を示せ! あの鋼鉄に覆われた『邪神』の体からアクセサリーを外す方法を延々と考えるか、それとも――私の力で、一瞬にしてやつを倒すか。お前達の支持する方に、私は従おう!」

 ――この言葉を受けてなお、冒険者がオルタを支持するとすれば、それは二つの意味を持つことになる。

 一つ。確実な方法に背を向け、あくまで難しいやり方を選択するという、不合理さ。

 一つ。エルマンに逆らい怒りを買うという、無謀さ。

 ……そう、エルマンが一度圧倒的な力を誇示した以上、他の冒険者がオルタに味方する可能性は、限りなく低くなる。

 その証拠に、彼らのひそひそ声が、絶え間なく聞こえてくる。

 ――ビヨンドを助ける?

 ――それより、俺が助かる方が大事だ。

 ――それに、エルマンに逆らったら、あの女武士みたいに……。

「皆さん、惑わされてはなりません!」

 オルタは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。

「私達は冒険者です! 勇気を持ってください! 正義を貫いてください! エルマン、あなたも!」

「私は正義だ。……これが、私の正義だ」

 オルタの言葉に、エルマンが厳しい声で返す。

 ……ただし、もしこの会話をリュークが聞いていれば、すぐに見抜いただろう。

 エルマンの心には正義などなく、ただ「ある欲望」に支配されているだけだ、と。


 いずれにしても、オルタには不利な状況だ。

 それでも、彼女が折れることは、決してない。

 なぜなら――もちろん、リュークがいるからだ。

(こうしている間にも、リュークが戦ってくれているのです。その結果を信じて待つのが、今の私の務めです!)

 改めてそう胸に誓い、オルタはエルマンと対峙し続ける。

 正義の冒険者として。


   *


 オルタにエルマンの相手をしてもらっている間、俺とロミィは、すでに岩壁の向こうへ回り込んでいた。

 辺りに余計な人影はない。対するはビヨンド、ただ一人のみ。

 そのビヨンドは相変わらず「砦」に囲われ、こちらに背を向けた姿で佇んでいる。やつの正面に(そび)える岩壁は、雷撃の嵐によってひび割れ、いつ崩壊してもおかしくない状況だ。

 ……おそらくあと一手。ビヨンドが次の攻撃を仕掛けた時点で、その崩壊は訪れる。

 だが今、俺の右目で捉えた限り、やつの感情は静かだ。理由は――そうか、マナを回復しているところか。

 だったら、どうやら今がベストタイミングだ。

「ビヨンド、いや、『邪神』と呼んだ方がいいか?」

 さっそく《英雄の紋章》を外しつつ――俺は、やつの背中に向かって呼びかけた。

「魂が欲しいって言うから来てやった。もちろん、諦めさせるためにな」

「くくっ、(たわ)けたことを!」

 俺の声にビヨンドが瞑想を中断する。次いで「砦」の背中側に、赤い宝玉のような球体が浮かび上がった。おそらく魔法で生成された「目」だ。背後を視界に収めるための、な。

 そして、ビヨンドが俺を視界に捉えたとなれば――やることは一つしかない。

「ボルテック・ミサイル!」

 もちろん攻撃だ。しかも、背後への。

 だが――。

「はい楽勝!」

 ロミィが叫び、すかさず俺の前に躍り出た。例によって、魔法壁を伴って。

 彼女が展開させるこの半透明の壁は、あらゆるものを遮断する力を持つ。故に雷撃は無効。俺目がけて飛んできた無数の雷は、魔法壁によってすべて受け止められ、派手に火花を散らしながらも、呆気なく消滅した。

 ガードは完璧。しかし問題は、こちらの「攻め手」だ。

 ビヨンドに死角はない。たとえ俺がどの方向から攻めたとしても、やつは確実に迎撃してくるはずだ。

 まさに《魔導の大要塞》。ただし――付け入る手段はある。

 俺はほくそ笑み、ロミィに新たな指示を出した。

「ロミィ、魔法壁だ」

 ……これだけなら、今までと何も変わらない。しかし壁ってのは、何もガードするだけが使い道じゃない。

 俺は続けざまに、もう一つの指示を口にした。

()()()()。俺とビヨンドを、な」

ついにビヨンドに挑むリューク。

ロミィとの連携が《魔導の大要塞》を追い詰める!


お読みいただきありがとうございました。

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