表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/62

第21話 第四章・2 鑑定士、姫騎士様の成功を祝う

再び現れた賢者。果たしてその正体とは――?

さらに、オルタも大活躍!


次回の更新は5月25日の18:00を予定しています。

 突然俺達の目の前に現れた賢者は、しかし何ら言葉を発しようとはしなかった。

 ただ俺を――そう、あの時と同じように()()()()まっすぐに見つめ、それから不意に背を向けると、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。

 まるで、俺をどこかへ導こうとするかのように。

「追うぞ」

 俺はオルタ達に小声で告げると、賢者の背中を追って、進み出した。

「……大丈夫なのか?」

 キクノが心配そうに訊ねる。確かに、得体の知れない存在に行く先を委ねるのは、リスクが高い。そう考えるのが普通だろう。

 だが、すでに俺の中には、確信めいたものがあった。この賢者に付いていけば間違いない――。そんな確信が。

「確か……あの時は、上の階層に続くゲートの方へ向かっていましたね」

 オルタが前回の遭遇を思い起こし、それを口にする。俺は頷く。

 そう、以前第十一階層で遭遇したあの「賢者」は、俺を見つめた後、すぐに第十二階層へ向かい、姿を消した。後から思えば、あれは、俺を次の階層へ導こうとしていたのではないか。

 ……いったい何のために?

 さて、そこまでは分からないが――。少なくとも一つ言えるのは、今この状況下で「どこかへ導こうとしている存在」に出会えたのなら、それを活用しない手はないってことだ。

 たとえ行く先に待っているのが、安全な場所であれ、危険な罠であれ、一つのゴールに辿り着けることには違いない。もしそこに厄介な何かがあるなら――そうだな、俺が()()()()()()いいだけだからな。

「……ちょっといいか? さっきから訊きたかったのだが――」

 ふと、ドーリスが口を開いた。さっきキクノに叱咤されたのが応えてか、普段の尊大さは、だいぶトーンダウンしているが。

「あの娘は……賢者なのか?」

「賢者以外の何に見える?」

 キクノが静かに返す。ドーリスは口籠る。

 ……いや、やつの疑問は分かる。何しろ伝説の賢者が、()()()()()姿()で、今ここにいるわけだからな。

 記録によれば、賢者アステリオの年齢は、《終焉大戦》の時点で二十代半ばだったという。一方、俺達が追っている娘は、歳の頃なら十二、三。……ただし顔立ちは、肖像画として残っているアステリオの少女時代そのままだ。

 一見不可解な状況だ。しかし――答えは案外簡単だろう。この《ロストミュージア》の性質を踏まえれば、な。

「もしかして……()()()()、ですか?」

 オルタがハッとした顔で指摘した。鋭い。

「そういうことだろうな」

 俺は全面的に肯定しておく。

 そう、このロストミュージアでは、旧冒険者時代に存在していた様々なものが、レプリカとして出土する。ならば、「若き日の賢者」が()()()()()()()()()()()()()としても、おかしくない。

「ば、馬鹿な! 人間の形をしたレリックなど、聞いたことがない!」

 ドーリスが声を荒げる。だがそれを、ロミィが冷めた調子で返す。

「……モンスターの形をしたレリックがいるんだから、人の形をしたレリックがいたって不思議じゃないでしょ」

 そう、矛盾など何一つない。

 あの賢者は――要するに、「失われし徘徊者(ロストワンダー)」の一種なのだ。

 ……ただし、「サーチ」は一切効かないがな。

 俺は、そんな唯一の疑問を前に、心の中で答えを模索する。

 俺が持つ「サーチ」の力は、対象となる相手の感情を読み、あるいはそれがレリックであれば本質アニムを見抜く。つまり、あの「賢者」がレリックである可能性が高い以上、本来ならばアニムが見えるはずなのだ。

 ……なのに、それが見えない。

 ということは――アニムが、()()

 そう結論づけざるを得ない。こいつは前例のない、極めてレアなケースだ。

 俺は――ふと思い立ち、そっと、()()()()()()

「…………」

「リューク、どうしたのです?」

 オルタが俺の目蓋の動きに気づき、囁きかけてくる。俺は左目を閉じたまま、小さく微笑んだ。

「何でもない。……ちょっと()()()()だけだ」

「確かめた?」

「ああ。あの『賢者』がレリックだという確証を得るためにな」

 どういう意味かは――今は語るべきタイミングじゃない。俺は多くは説明せず、その話を終えた。

 ……俺達の会話をよそに、賢者アステリオは黙々と、遺跡の通路を行く。大規模な異変ですっかり別物となった地図を、まるで熟知しているかのように。

 ――まったく、頼もしい案内役だ。

 俺は油断を途切れさせることなく、しかし静かに笑った。


 賢者の姿が見えなくなったのは、それからすぐのことだ。

 通路の角をいくつか曲がったその向こうで、俺達が後に続くより先に、不意に姿を晦ませてしまった。

 とは言え、相手は実体のあるレリックだ。消えたとなれば、何らかの方法があるはず。

「ここに扉があるよ」

 ロミィが目ざとく、そいつを見つける。確かに、角を曲がってすぐの壁に、扉が一つ設けられている。もっとも、こいつが開閉された形跡はないが――。

「……そうか、瞬間移動魔法だな」

 俺はすぐに、その結論に至った。賢者は魔法を使って消えた。……では、なぜか。

 ――おそらく、道案内がひとまず終わったからだ。

「どうやらこの扉が、賢者の示したゴールらしいな」

 俺はそう言うと、慎重に扉に手をかけた。

 同時に、トラップの微かな作動音が鳴る。俺はとっさに扉を視界に入れ、「デリート」を行使する。

 トラップはあっさりと解除され、不発に終わる。

「……おい、今のは何だ? なぜトラップが働かない?」

 俺の能力を知らないドーリスが疑問の声を上げる。俺は無視し、扉を押し開いた。

 奥には部屋が続いていた。だが、まだ踏み入るのは早いようだ。なぜなら――。

「ワンダーか!」

 キクノが刀を抜いて身構えた。開かれた扉の先には、例によってフォリスが一体。

 しかし俺は、そいつを見てフッとほくそ笑むと、オルタに小声で囁いた。

「ちょうどいい。オルタ、あんたが倒してくれ」

「わ、私が?」

「俺が陰からサポートする。あんたはただ、剣でやつを叩っ切りさえすればいい」

 もちろんこの程度の敵なら、キクノに任せても大丈夫だろうが――。しかし、俺はさっきから少々出しゃばりすぎている。今一度オルタの陰に隠れるためにも、そろそろ()()()()に戻した方がいい。幸い彼女の剣の修理も済んでいることだしな。

 俺はオルタに頷いてみせると、すぐにフォリスを視界に収めた。

 やつのアニムはすでに見抜いている。あまりにも他愛のない代物――《(たきぎ)》だ。顕在化度は7パーセントだが、こいつを上昇させてやれば、やつは完全に無力と化す。

オープン!」

 オルタが剣を手に走ったのを合図に、俺は密かに鑑定魔術を行使した。

 フォリスが呻く。俺の力がやつの体に干渉し、その身を瞬く間にアニムが蝕む。

 所詮薪だ。薪は動けず、ただ刃物で叩き切られるのみ――。

「でぇぇぇいっ!」

 オルタが叫び、剣を振るった。

 カッ! と小気味よい音を立て、刃がフォリスの胴にめり込む。オルタがさらに腕を振り回すと、剣に圧力が加わり、フォリスはメリメリと乾いた音を立てて、真っ二つに裂け、滅びた。

 あっさりと終わったか。まあ、妥当な結果だろう。

「や、やりました!」

「さすがオルタ姫……。やはりあなたの実力は本物だ」

 喜ぶオルタを、キクノが素直に称賛する。

 一方でドーリスが面白くなさそうな顔をしているのは――ああ、そうだったな。こいつはもともと、オルタを自分より格下に見ていた。つまり、新米姫騎士様の活躍を認めることなんてできない、ってわけだ。

 俺が苦笑していると、オルタが戻ってきて、俺に囁いた。

「ありがとうございます、リューク。……でも、そろそろあなたの功績を知らしめてもいいのでは?」

「あんたが知ってくれてさえいれば、それでいいさ」

 悪戯っぽく言うオルタに、俺は笑って答えた。途端にオルタの顔がパッと赤らむ。……やれやれ、少々誤解させる言い回しをしてしまったか。

「リュークぅ?」

「どうした、ロミィ?」

「何でもないよ?」

 ニヤニヤ笑いに目だけを尖らせ、ロミィは何やら含みのある物言いを残し、すぐに部屋の中へ入っていった。

 ……軽い嫉妬、か。まあ、「懐かれている」ってことで済ませておこう。

 俺は溜め息交じりの苦笑とともに、続いて部屋に入った。

 中には、これと言って目ぼしいものはない。今倒したフォリスの残骸と、その奥に置かれた――ああ、()()以外にはな。

「おお、レリックだ!」

 ドーリスが嬉々とした声を上げた。まったく、この状況で欲深いやつだ。

 だがそんなドーリスを、すかさずキクノが(たしな)める。

「ドーリス殿、それはオルタ姫に譲るのが筋というものだ」

「チッ……」

 舌打ちを一つ鳴らし、ドーリスはしぶしぶ傍らに退いた。

 入れ替わりでオルタが宝箱の前に立つ。それから軽く俺の方を振り返る。

「私でよいのでしょうか」

「いいんじゃないか? ああ、もっともトラップブレイカーの用意は忘れずに――」

「……あ」

 おいおい、なぜ言うそばからノーガードで開ける?

 いや、呆れている暇はない。俺はすぐに右目を見開き、「デリート」を仕掛ける。

 だが――その時だった。


 開いた宝箱の中から、青白い炎が噴き出した。

 炎は瞬く間に腕の形を取り、オルタの顔をつかもうとする。

 《魂封印ソウル・シーリング》――。冥界の手が対象者の魂をつかみ出し、強制的に仮死状態にしてしまうという、即死トラップの一種だ。

 つまり、もし俺が「デリート」を行使しなければ、ここでオルタは倒れる――。

 ……はずだったのだが。

「ひゃぁっ」

 刹那、オルタの素っ頓狂な悲鳴が上がった。

 そして――彼女が()()()

 いや違う。跳んだのだ。目の前のトラップから離れるため、あらぬ方向に、強制的に。

 結果、腕は虚空をつかむに留まり、そのまま何もできずに掻き消える。一方、適当に跳躍する形になったオルタは、ものの見事に部屋の壁に、ベチャッと激突する。

「うぅ……痛いです! 今のは何ですか?」

「おいおい、自分のスキルを忘れちまったのか?」

 俺は苦笑した。

 ――そう、《罠回避》だ。まさか、このタイミングで成功するとはな。どうやら今回ばかりは、俺の助けは必要なかったようだ。

「何と……。オルタ姫は罠を克服されたのか。めきめき成長している……」

 キクノが驚愕のあまり目を見開いている。まあ、回避できたのはこれが初めてだが――それは言わぬが花ってやつだろう。

 それよりも肝心なのは、宝箱の中身だ。

「何か、ずいぶんと豪華なものが出てきたね」

 転がり出てきたレリックを見下ろし、ロミィが目を丸くした。

 それは、一振りの剣だった。黄金の鞘と柄にいくつもの宝石があしらわれた、いわゆる「宝剣」というやつだ。俺はそいつを両手で丁寧に抱え上げ、オルタに差し出した。

「取っときな。こいつはあんたのものだ」

「こ、これが……。凄いです! 凄いじゃないですか!」

「ああ、見事なまでの悪運の強さだよ」

「ちなみに、この剣のアニムは?」

「顕在化度43パーセントの《岩》だ」

「岩……」

 オルタの興奮が一気に引いていくのが見えた。無理もないか。どう考えてもアイテム(Dランク)止まりだしな。

「ちなみに43パーセントの顕在化ということは、材質も普通の石に近い。まあ、きちんと研げば武器にはなるが、換金しても大した額にはならないだろうな」

 俺はダメ押しでそんな説明をしながら、空になった宝箱を拾い上げる。さっきの冥界の腕は、オルタの魂を捕らえ損ねて、引っ込んだままだ。

「ちょうどいい。この箱は俺がもらっておこう」

「そのような箱、何に使うのです?」

「まあ、ちょっとした趣味ってやつだ。気にするな」

 俺は適当に答えると、宝箱の蓋をしっかりと閉め、手袋パンドラの中に片づけた。

 さて――。

 賢者のお導きがあった部屋だ。これでおしまいってことはないはずだ。

 俺は注意深く目を凝らす。

「……オルタ、あんたがぶつかった壁が、少し凹んでいるな」

「私、そんなに重くないはずです!」

「そうじゃない。()()()だ」

 そう言ってオルタをどかせる。石の壁に生じた凹みは、だいたい大人一人分ほどの面積がある。間違いない。さっそく手で押す。

 ゴロゴロと石の擦れる音が鳴った。壁が奥へとずれ、案の定、そこに新しい通路が現れる。

「こいつは間違いなくオルタの功績だな」

「そう言われても、全然活躍している気がしないのですが……」

 そんなやり取りを交わしながら、俺はオルタとともに、さっそく通路へ入っていく。ロミィ達が後に続く。


 こうして、ようやく道は開けた。

 ……もっともこの時点で、俺は本能的に予感していた。

 もしあの賢者が、俺の「望む道」を知り、示しているのだとすれば――。

 おそらくこの先で、俺は巡り合うはずだ。

 ――そう、次の邪神と、きっとな。

隠し通路の先には、思わぬ光景が?

そしてリューク達の前に、再び「あいつ」が現れる!


お読みいただきありがとうございました。

次回の更新は5月25日の18:00を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ