再会⑨
ドラゴンは、実の入った箱の中を覗くように見るとそれを咥え、上を向いてパクリと食べた。
「へぇ、本当に食べるんだな」
「燃やす手間が省けたわね」
すると、目的を達成したためドラゴンは、飛び上がる素振りを見せる。
「まずい······!」
そう口にしたミーナは丸薬を飲むと、その巨体を覆い尽くすように土を操る。そのまま土の中に収まれば、と思った彼女だが、やはりその考えは甘かった。
横に回転するように暴れたドラゴンは、魔法の押さえる力よりも強大な力で土を払い飛ばし、視界を確保する。
ジャック達の元へつぶてが飛んでくる。各々それを腕でガードし、目を守る。やがてそれが止むと彼らは腕を下ろし、ドラゴンのほうを見る。
ドラゴンは瞳孔を開き、四人のほうを意識し始めていた。だがそれよりも先に敵がより注意を向けたのは、荒野の入り口に置かれた、橋の上の大砲だった。
大きなダメージはなかったとはいえ、つい先日その兵器に攻撃されていたドラゴンはそれを破壊するため、四人を飛び越え、そちらへと滑空していく。
四人は、その巨体が起こした陣風によってくらりと倒れそうになる。
「······っ! くそっ、軽く見やがって」
足を踏ん張ったジャックが後ろを見ながら、大声で指示を送る。
「ミーナ! 俺を飛ばしてくれ!」
「わかったわ!」
まだ薬の効果は切れてないため、ミーナはそのまますぐ彼に触れ、魔力を溜める。
「いくわよ! しっかり踏ん張りなさい——」
直後、彼女が手を当てた背中に光が瞬き、勢いよくジャックは一直線に弾け飛ぶ。あまりの勢いに、彼の身体中にGがかかる。
「······っ!」
ジャックは前を見るのがやっとだった。だが、その速さのおかげで、一気にドラゴンとの距離も詰まっていく。
大砲の前にいた兵士達はジャックらが前線にいた為、撃つのをためらい、混乱に包まれていた。
そんな人の群れにドラゴンが辿り着く。という所で、ジャックの身体は追いついた。
剣に手を掛け、腕に魔力を集中する。
空中にいるジャックは、ミーナに吹き飛ばされた勢いまま、尻尾にあった物に狙いを定める。
そう。ジャックが幾月前に刺した――あの刺さったままのナイフである。
そしてナイフを通り過ぎる瞬間、ジャックは、抜刀と共にそれを強く、高く、鋭く、弾き飛ばした。
——ギャオオオオオォ!!
滑空を止めたドラゴンは大気が割れるような雄叫びを上げる。あまりに甲高く大きい鳴き声に、剣を持つジャックは歯を食いしばってそれを耐えていた。側にいた兵士達も耳を塞いで、頭を屈めている。
······やがて、その声は止んだ。
ドラゴンは、魔法で引っ張られ後ろに着地していたジャックのほうを見る。
ナイフを弾き飛ばされた際に生まれた痛みで、ドラゴンはあの日の記憶を完全に取り戻していた。
――目の前にいるのが、あの日の、銀髪の少年であることを。
その少年は、滑空を止め、大地に足を着けたドラゴンから目を逸らさず、敵の向こうへと大声を上げた。
「一旦街に下がってくれ! 作戦はそのまま実行する! そう伝えてくれ!」
ミーナと『コンタクト』を使っていた彼は、彼女からの伝令も担っていた。
それを聞いた兵士達は、一斉に撤退を始める。
後ろの様子が変わった事に気付いたドラゴンはその場で回転し、尻尾を振り回す。橋の上に備えられていた重厚な黒の大砲が弾き飛ばされ、川の中へと次々に落とされていく。
顔の横をそれがかすめる者もいたが、幸い、巻き込まれる人間は一人もいなかった。
大砲を片付けたドラゴンは、再びジャックのほうを見る。尻尾からはポタッ、ポタッ、と赤黒い血が滴っている。
「あぁ、貴重な血なのになぁ······」
ジャックはそんな事を呟きながら長剣をしまい、双剣へと持ち変えていた。