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誘拐

維心が龍の宮へ降り立つと、兆加と義心が待ち構えていて膝をついて頭を下げた。維心は、抱いていた維月を下ろして、二人を見た。

「…状況を申せ。」

いつもなら、居間へ戻ってから聞くと言うのに、維心は到着口でそう言った。義心が、言った。

「はい。今朝、明輪から宮へと明蓮が居らぬと連絡が参りました。我が急ぎ屋敷へ参って調べて参りましたが、明蓮の部屋はもぬけの殻、誰の気配もありませぬ。気の残照もございませんでした。明輪の結界も破られた形跡もなく。明輪の屋敷の結界外には刺し殺された乳母の遺体がございました。瑠維様は昨夜確かに明蓮がそこで休むのを見届けたとおっしゃっており、その後のことではないかと思われまする。」

維月が、涙をこらえてそれを聞いている。維心は眉を寄せたまま言った。

「我の結界も、破られた形跡はない。我は月の宮へ行っておる時はこちらの結界の中までは見ておらぬしの。宮の結界の中はいつでも意識の端に見ておるが、領地の中まではな。警備の者達は何と申しておる。」

義心は、それにも淡々と答えた。

「は。昨夜はいつものように領地境を四方に分かれて巡回しておりましたが、誰かを見咎めた事はありませぬ。つまりは、入った形跡もなければ出て参った形跡もありませぬ。」

維心は、義心をちらと見た。

「主は宮の方の護りであったな。宮には?」

義心は、頷いた。

「は。王がご不在でしたので宮の回りの警備を強化しておりましたが、おかしな気が流れる様子もありませんでしたし、見える影もありませんでした。領地境の者達の気も探っておりましたが、あれらの気が乱れることもなく、何かあったということは無いと思われまする。ですので、確かにあれらには、何も気取れなかったと思われまする。」

維月は、義心がかなりの広範囲に渡って警戒しているのだと感心した。それでも、賊を見つけることが出来なかったのだ。

維心は、頷いて歩き出した。

「ならばまだ結界内ぞ。」維月が仰天していると、維心は言った。「維月、主は奥へ。我は軍神を指揮して領地内を探る。主は十六夜と月から話し、玲の仙術の対抗策が出来ておるか聞いて参れ。報せが来たら、すぐに兆加に知らせよ。分かったの。」

維月は、頷いて維心に頭を下げた。

「はい。おっしゃる通りに。」

維心は頷き返して、義心を伴って歩き出した。

「義心!帝羽!将を集めよ。結界内をしらみつぶしに探す。」

「は!」

二人が、維心に従って見る見る小さくなって行く。維月がそれを見送って、奥へと足を向けると、兆加が頭を下げた。

「王妃様。お供致しまする。王が仰った件、我が王にお伝えせねばなりませぬゆえ。」

維月は頷いて、先に立って歩き出した。

兆加もその後ろをついて急いで奥宮居間へと向かったのだった。


「まだなんだよ、十六夜。」玲は、学校の図書室のパソコンの前で、寝ていないようで目をしばしばさせながら言った。「無効化の仙術を無効化なんだから、結構面倒なんだって。我だって急いでるんだけど、対抗仙術を作ることにしたよ。でないと、とてもじゃないが仙術返しの仙術を編み出すのなんて短期間で無理だ。」

新月が、そんな二人をじっと黙って見ていた。十六夜は、イライラと玲の脇に立って言った。

「お前に無理言ってるのは分かってるが、お前しか無理なんだから仕方ねぇんだって。瑠維の子だぞ?龍王の結界も抜けるってことだろうが。このままじゃヤバい。月の結界だって新月の時抜けてるんだから、こっちだってヤバいじゃねぇか。結界無効は神世の常識を覆しちまうほどヤバイんだからな!」

玲は、目をごしごしとこすりながら頷いた。

「分かってるって。もうちょっと待ってくれ。」

すると新月が、口を開いた。

「…ちょっと待て十六夜。もしかしたら、月の結界は抜けておらぬやもしれぬ。」

十六夜は、え、と新月を振り返った。

「だってお前、侍女に連れられて出てったろうが。」

新月は、首を振った。

「思い出せ。我は申したの。結界を抜けたのは、我の父上からもらった陽の月の力ぞ。侍女と我を包んで、ここを出た。だからこそ、主には気取れなかったのだ。それに、侍女は始めから月の宮に居った小菊。結界を破って入って来る必要など無かった。」

玲は、それを聞いて目を丸くした。

「言われてみればそうですね。新月様は、騙されて手を貸しておられたからこそ月の結界は抜けられた。」だが、そこで顔をしかめた。「…でも、この魔法陣は無効化の魔法陣なので、気を使うような結界はどれも皆抜けるはずなんですよ。月にも仙術は有効です。なので、一概にそうとは言えません。」

しかし、新月はじっと画面に映る公青が持って来た魔法陣を見つめた。

「…だが、見よ。」と、魔法陣の形の中にある、模様の一部を指した。「主の解説をさっきから聞いておったが、これは神の気を意味しておったの。結界を破壊するのに特化した魔法陣とは違い、これは神の気全般に対して広く影響を与えるものであろう?仙術は、魔法陣となるとそこまで細かく指定して何かに影響を与えるのは無理であるから、神の気に特化しておるなら、神の気だけなのだ。月の気は神の気とは種類が違う。もしかして、これは月には影響が無いのではないのか。」

十六夜と玲は、顔を見合わせた。そういえば…。

「…確かにな。もしかして、月には無効なのか。言われてみれば小菊を騙してわざわざ新月を連れ出させたのも、中へ入って来れなかったからじゃないのか。明玄は、外でお前達に会ったんだろう。」

新月は、頷いた。

「そうだ。それに、我の腕にあったあの気の色を変える魔法陣も、何度か書き換えておったな。上から上からいろいろと試しておったようぞ。一度抑えても、すぐに月の気がほんのりと出て参るゆえ、明玄は我の気を常探っては、現れたら消そうと警戒しておったぐらいで。」と、何かを思い出すように、遠い目をした。「それに…あの当時、明玄達は結界を無効にするような魔法陣は知らなんだと思われる。いろいろと危険な任務を言い渡されておったが、結界を破ることは出来なかったゆえ相手が外へ出て来るのを待つしかなかったしの。なので、最近に編み出された仙術ではないのか。」

玲は、じっと画面を睨みつけた。

「では…神が仙術を学んで編み出したものやもしれませぬ。更に厄介なことになりそうです。」

新月は、険しい顔のまま、頷いた。

「神が仙術などを使っておるのなら、確かに面倒ぞ。西の島なら、伯父上に気取られることもないゆえ、もしやあちらで試しておったやもと思うの。」

十六夜は、顔色を変えた。確かにそうだ。維心なら、気取ってすぐに消しにかかるから、あっちで試してから、こっちで…。

「…ヤバいじゃねぇか。」十六夜は、切羽詰まった顔で玲を見た。「玲!急げマジでヤバいぞ!こっちで使い始めたってことは、維心に気取られない自信が出たってことだろうが!お前、頭いいだろうが、負けるな!」

玲は、俄然闘志が湧いて来たようで、鋭い目で頷いた。

「もちろん、我は軍神を目指してたんだからな。頭で戦うなら、負けはしない。」

玲は、先ほどよりしっかりした目になって、画面に向かい合った。

それを見ながらも、十六夜は気が気でなかった…仙術には、これまで本当に大変な目に合わされて来たのだ。なのに今回は、その仙術に頼らないと対抗出来ない敵がどこかに居るのかと思うと、落ち着いては居られなかった。

新月は、それを見守りながらも、自分でも考えていた。自分をさらい、そして700年経った今再びあちこちの皇子や軍神の子などをさらおうとする輩…。伯父に恨みを持つというなら、なぜこのように回りくどいことをする。もしも定士、今は定利の手の者だとしたら、北へ逃れた自分を、なぜ探そうとしなかった。明玄達軍神の気は多く、探せば恐らく見つかった。だがそれをしなかった。事実を知って戻れば、誰の仕業か自分の口から龍王知れるのは分かったはずなのだ。

新月は、何か言いようのない不安のようなものを、身の内に感じた。しかし、それが何なのか分からなかった。

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