第八幕【ヒトの本性】
「‥‥では、ボスには私の方から直接渡しておきます。」
「‥‥宜しくね。」
病室にて、ある程度の会談を終わらせ、一息つく亜美羅。
「………敵から奪ったブツは渡した……。アレの中にはあの事件が関係してるってボスが言ってたけど……多分ガセね。」
火達磨水死体事件が起きてから月日は流れ、私はもう17歳だ。
「……真実を暴いて、犯人をあぶり出すんだ………私のこの手で………!」
私は両親を殺した犯人を、絶対に許しはしない。
破善笯と春緋の為にも、犯人を殺して、復讐を晴らす。そして、ハッピーエンドを迎えるんだ。
破善笯と春緋の為に…………二人が普通に生きられる様に。
「……そう言えば春緋、破善笯を探しに行ったけど……大丈夫かしら…?」
亜美羅の予想は的中していた。
「……ハァ、ハァ、ハァ……。」
「……ゼェ、ゼェ、ゼェ……。」
「…しんい……!」
二人の男は本気の殺し合いをしていた。
「…ハァ、…サッサとくたばれ塵蟲風情が……!」
「……ゼェ、その塵蟲をなんで一発で殺せてねぇんだ……?」
破善笯と新威のおかげで公園はぼろぼろ、まるで隕石が降って落ちてきたぐらいの有様になっている。
「てめぇは、口ばかりだったのか…?破善笯…。」
「洒落せぇ……。クソが……。」
破善笯は本気の力を出しきれていなかった。いや、出せなかったのだ。
亜美羅を助ける時、破善笯は特殊な能力を使った。
「打撃治癒」という変わった能力だった。
「打撃治癒」……それは、打撃を加えるとどんなに傷を負った身体でもたちまち良くなる不思議な能力だった。
然し、一度打撃治癒をすると体力の消耗に加え、失敗すると生命を落としかねない恐ろしい技であった。
その為に、亜美羅を助ける時に使った打撃治癒のせいで、力を出しきれなかったのだ。
「……破善笯…と、あの人は誰かしら………?」
木の上から様子を伺う春緋。破善笯を見つけたはいいものを、来た時には全てがボロボロで、近づけばすぐにでも吹っ飛ばされそうな感じだった。その為に、木の上から様子を伺っていた。
「……というか何で戦ってるわけ?理解不能なんですけどー……。」
「……お前がこねぇならこっちから行くぞ……!」
「……!」
新威は素早く破善笯に近付き、腹に拳を一発入れる。
「……っかはっ……!!」
「……どうした、お前はそんなもんだったのかよ‼︎」
「……チィッ‼︎」
よろめきながらも立っている破善笯。
「……………弱い犬ほどよく吠えるってやつか。」
「黙れよ……いますぐにでもその口、引き裂いて喋れなくしてやる…‼︎」
「こいよ、破善笯…‼︎」
2人の拳がぶつかり合おうとした、その時に一人の人間が破善笯と新威の前に立ち塞がった。
「……いい加減にしなさいよ?子供が見てるじゃん……。」
新威は拳を緩め、目を見開く。
「……?お前も、亜美羅に雰囲気が……。」
舌打ちをした後、鬱陶しそうに破善笯は言葉を吐き出す。
「…春緋…。邪魔すんなよ。」
「邪魔ァ⁉︎何言ってんのよ馬鹿兄貴‼︎亜美羅姉に言われて探しに来たらこのザマよ⁉︎止めに来てあげたのに⁉︎それを邪魔って、どういう神経してんのよ‼︎」
「……。」
破善笯には返す言葉が無かった。全て春緋の言う通りだったからだ。
「……あなたは…新威って言ったわね?私は九十九屋 春緋。兄の破善笯が失礼な事を…ごめんなさい。」
「…、春緋…ちゃん?春緋ちゃんと破善笯は兄妹なのか?」
「春緋でいいです。えぇ、兄妹ですが…?それがどうかしたんですか?」
「…………亜美羅とはどういった関係なんだ?」
春緋は少し間をおいてから口を開く。
「…はい。私達は九十九屋 亜美羅の家族………兄妹です。」
「……春緋たちは、いつ生まれた?」
「…1999年、12月31日です。」
「……⁉︎12月………31日………⁉︎」
「火達磨水死体事件の全てが起こった日に生まれたんだよ、俺らは。」
「……何だって……?」
それはおかしい。亜美羅は確か火達磨水死体事件があった時は一人っ子…兄妹なんて居なかったはずだ。幼なじみとしての記憶は間違っていない。
「…本当に……兄妹なのか?」
「……信じられませんか?無理もありません、私達、『普通』じゃないですから。」
春緋が口にする『普通じゃない』とはどういった意味だろうか。頭の中がこんがらがって来た。
「…まぁ、どうであれ、俺を亜美羅に会わせてくれ。用がある。」
「………それより、いいのか?お前。」
「…は?」
破善笯が何を言っていたのかが分かるのはほんの数秒後。
「……時雨がいねぇ…。」
新威は身体中から血の気が引いた。あの時雨の事だ、勝手に居なくなる程彼奴は馬鹿じゃない。考えられるとしたら、一つしかない。
「…誘拐………………。」
「…おい、お前顔青いぞ?大丈夫か?」
そのまま死んでくれたら有難いと思っている事は口に出さなかった。
「…大丈夫ですか?良かったら手伝いますよ⁇」
女神だ。ここに髪がオレンジ色の女神が舞い降りた。
「…悪りぃ、頼む。彼奴を……時雨を見つけてくれ…!」
「お安い御用ですよー‼︎さ、行きましょう!あ、破善笯はほっといてください!」
「……俺は亜美羅のとこに行く。お前ら、せいぜいがんばれよ。」
「…亜美羅姉に怒られないといいけどね〜」
ニコニコしながら喋る春緋を見て、破善笯は顔に青筋をたてる。
「……亜美羅、待ってろ。今行くからな。」
破善笯は全速力で病院へ向かった。
「………時雨ーーーー‼︎いたら返事しろぉぉぉぉお‼︎‼︎‼︎」
新威と春緋は薄暗い裏路地に来ていた。裏ルートとして有名で、人身売買もたまにしているという悪の場でもある。
「…いませんねぇ……。一体どこに……。」
不意に下を向く新威。
「…新威さん?」
「……血だ。」
「へ?」
新威の指差したところを見てみると、其処には血痕があった。まだ新しい。
「……時雨……‼︎…お前は今、何処にいる……⁉︎」
「……(新威さん。どうやら囲まれたみたいですよー?)」
ボソボソと小さい声で話す春緋。
「(…酷ぇお出迎えだな…春緋、行けるか…?)」
「(はい!なれてますから。)」
「上等…‼︎」
新威が言葉を言うが早いか、敵は新威たちに向けて攻撃を仕掛けてきた。
「ヒャッハァァァァアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎観音坂ァァァア‼︎‼︎‼︎ようやく見つけたゼェェェェェェエ‼︎‼︎」
「…誰だお前。」
「俺を忘れるとは…いい度胸してんじゃねぇーかよぉ〜‼︎」
奇声を発する男は、懐から何かを取り出す。
「ヒャハ、なら、俺のやり方で思い出させてやるゼェェェエ‼︎‼︎‼︎」
「…ありゃ……改造スタンガンじゃねぇか…‼︎チッ…‼︎」
避けようとする新威を捕まえた人物がいた。それは……
「……春緋…⁉︎何を…⁉︎」
「…ふふっ、ごめんなさい。これも仕事なんだ!…悪いけど、暫くの間は眠ってて?」
「何を……がっ‼︎」
バチバチッ
新威の腹に改造スタンガンが当てられた。
「……ッ、くそ…が。」
そのままうつ伏せに倒れる新威。
「ヒャハ♪ナイスだぜ、春緋ちゃん!いやー助かった、ありがとうな!」
「笹原さん程強くはありませんよ〜?それより、私もそのスタンガン、触ってみたいなぁ〜♡」
「おう、勿論だマイハニー!ほれ!」
「うわぁ〜!結構重いんですねぇ、スタンガンって!」
「だろ、だろ?」
「そうですねぇ!じゃあ…えい♡」
バチバチッ
「ぐふっ……ッ、は、ハニー、な、何を………。」
ペッ、と唾を吐き出し、笹原という男にこう言った。
「…笹原さん、ごめんなさい…♡ずーっと黙ってたんですけど……。」
「……へ?」
「おっさんの癖にキモイし。つかマイハニーとかないわー。ひくわー。……つー訳で死んじゃって下さい♡永遠に♡」
一通り言い終わった後、春緋は拳銃を取り出し、笹原に銃口を向けた。
「あ、や、やめて……。」
笹原の声が春緋に届くことは無かった。
そして、新威も限界だったのか、気を失ってしまった。




