第6話「光の先でまた会える」
あなたの指先は、次第に光の中へ溶けていった。
体が透き通り、少しずつ形を失い始めている。
「そんな……!」
エレノアの顔から笑顔が消えた。
「私、こんなつもりでは……!」
彼女が、慌ててあなたの手をつかもうとする。
あなたも手を伸ばした。
けれど、二人の指先が触れることはなかった。
見えない何かに遮られ、すぐ目の前にいるはずのエレノアが、急速に遠ざかっていく。
「お願い……行かないで……!!」
エレノアの声が震えた。
その瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、小さな手が必死にあなたを求めている。
あなたは悟った。
——この世界にいられる時間は、もうほとんど残されていないと。
言わなければ。
伝えたいことはいくつもあった。
出会えてよかった。
一緒に過ごせて楽しかった。
いつか、もう一度会いたい。
けれど、あなたが選んだ言葉は——。
「エレノア!」
あなたの声に、彼女が顔を上げる。
「エレノア、どうか幸せになって……!」
エレノアの瞳が大きく見開かれた。
その唇が、何かを伝えようと動く。
だけど、その声が届くより早く——。
あなたの世界は、真っ白な光に包まれた。
* * *
再び目を開けると、そこには見慣れた天井があった。
薄暗い部屋。
閉め切ったカーテン。
枕元には、画面の消えたスマートフォンが転がっていた。
身体を起こすと、ベッドの脇に置いていたコンビニの袋が、かさりと音を立てた。
「夢……?」
頬に触れてみる。
ねむぱんにつつかれた感触は、もう残っていない。
耳を澄ましても、にむしの大仰な声も、みっちゃんの優しい声も聞こえない。
もちろん、エレノアの笑い声も。
窓の外では、いつもと変わらない朝が始まっていた。
時計を見て、あなたは現実へ引き戻された。
「まずい……!」
もう家を出なければ、会社に間に合わない。
余韻に浸る時間もなく、あなたは慌てて身支度を整えると、部屋を後にした。
* * *
朝の通勤電車は、今日も混み合っていた。
あなたは人波に押されながら、車内のいつもの場所に立っている。
窓の外を、灰色の街並みが流れていく。
会社へ着けば、また昨日と同じ一日が始まるのだろう。
あなたはスマートフォンを取り出し、いつものようにXを開いた。
指先で画面を滑らせるたび、人々の呟きが流れていく。
——だが。
その中に現れた一枚の画像を見て、指が止まった。
『株クラRPGの新作タイピングゲーム——
「株クラTPG」本日公開!』
添えられた画像には、四人の小さな少女が並んでいた。
元気いっぱいに手を振る、ねむぱん。
得意げな顔で腕を組む、にむし。
優しく微笑んでいる、みっちゃん。
そして、右上には……
小さな王冠を載せた、うさぎの着ぐるみ姿の女王がいた。
(エレノア……!)
心の中で名前を呼ぶと、胸の奥に昨日の思い出が鮮やかによみがえった。
星空を映す湖。
水辺を舞う蛍。
あなたにすがる、小さな手の温かさ。
——夢だったのかもしれない。
疲れた心が見せた、都合のよい幻だったのかもしれない。
それでも、あの場所で過ごした時間を、あなたは確かに覚えていた。
投稿には、ゲームへ続くリンクが添えられている。
『株クラTPGをプレイする』
電車が駅へ到着し、扉が開いた。
たくさんの人が、あなたの横を通り過ぎていく。
けれど、あなたは画面の中で笑う四人を、もう一度見つめた。
エレノアも、こちらへ向かって手を振っている。
その笑顔は、湖で別れたときの泣き顔ではなかった。
あなたの大好きな、明るく朗らかな笑顔だった。
あなたは指先を伸ばすと、そっとリンクに触れた。
—終—
最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました!
『株クラTPG外伝 小さな女王と、思い出の欠片』
これにて完結です。
ここまで「あなた」と四人の少女たちの物語を見届けていただけたことを、とても嬉しく思います。
そして——
この物語を読んで、もう少しだけ彼女たちの世界に触れてみたいと思ってくださった方へ。
タイピングゲーム『株クラTPG』では、
女王たちと一緒に、実際にゲームの世界を冒険することができます!
無料で遊べますので、よろしければぜひ遊んでみてくださいね!
PC用ゲーム『株クラTPG』
https://kabukura-rpg.github.io/kabukura-rpg/?v=2
この物語が、皆さまの心に小さな「思い出の欠片」を残せていたら幸せです。
最後まで、本当にありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう!




