最終話
夜。
部屋。
静かだ。
隣には、神城がいる。
ベッドの上。
距離は近い。
最初は違和感があった。
でも、今は違う。
(……普通だな)
そう思える。
神城が、こちらを見る。
「ねえ、恵くん」
「なんだよ」
「今、幸せ?」
不意の質問。
少しだけ考える。
でも。
答えは、すぐ出る。
「……まあな」
本音だった。
神城は、少しだけ微笑む。
「そっか」
それだけ。
安心したように。
ゆっくりと、寄りかかってくる。
重みが伝わる。
温もりがある。
(……悪くない)
むしろ。
これでいいと思っている。
その時。
ふと、思い出す。
昔のこと。
一人だった時間。
誰もいなかった日々。
(……あれ、いらねえな)
もう戻りたいとは思わない。
それが答えだった。
神城が、静かに呟く。
「……やっとだね」
小さな声。
「全部、私のもの」
聞こえた。
でも。
否定しない。
できない。
しようとも思わない。
代わりに。
「……離れるなよ」
自分でも驚く言葉。
神城の動きが止まる。
そして。
ゆっくりと、笑った。
「うん」
即答。
迷いなく。
「絶対に離れない」
その言葉。
重いはずなのに。
(……安心する)
そう感じている自分がいる。
神城の手が、こちらの手を握る。
強く。
逃がさないように。
でも。
もう、逃げる気はなかった。
「……恵くん」
「なんだよ」
「大好き」
静かな声。
(……ああ)
答えは、もう決まっている。
「……俺もだ」
嘘じゃない。
それがすべて。
窓の外。
夜は静かだった。
誰もいない。
何もない。
でも。
ここには、ある。
代わりのないものが。
――それが檻だとしても。
もう、外に出る理由はなかった。




