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第1話


俺は、この日を境に「空気」でいられなくなった。


学年トップの美少女――神城香かみしろかおり

通称「氷姫様ひめさま」。


その彼女に――なぜか、目を付けられたからだ。


……理由は、分からない。

ただ一つ確かなのは、あの瞬間から、すべてが狂い始めたということだけだった。



ハナミズキの花びらが、静かに――そして無慈悲なほど鮮やかに、舞い落ちていた。


春は、終わりかけている。

なのに、俺の時間だけが、あの日からずっと止まったままだ。


「……二度と話しかけないでよ。相変わらずキモいんだから」


今朝、偶然会った幼馴染――沢渡結衣さわたりゆいの言葉が、まだ耳の奥にこびりついて離れない。


怒りは、湧かなかった。

悲しみも、感じる資格がないと思った。


(……ああ。やっぱり、そうだよな)


胸の奥を錐で抉られるような痛みを、俺は「当然」という名前で押し殺す。


あの日。

俺は、人生で一番の勇気を振り絞って、彼女に想いを伝えた。


オタク趣味も、喋り方も、全部矯正して。

“普通の男子”を、必死に演じて。


――結果は、これだ。


『無理してるの、見ててキツいんだよね。正直、一緒にいると私の価値まで下がる気がする』


あの瞬間、理解した。


俺は、誰かの隣に立っていい存在じゃない。


(……なら、最初から存在しない方がいい)


それが、一番迷惑をかけない方法だ。


視界の端で、結衣の背中が遠ざかっていく。

俺は、それをただ見送ることしかできなかった。


引き止める理由も、資格も、ない。


(これからは、空気になろう)


誰の目にも映らない。

誰の記憶にも残らない。


ただの背景として、生きる。それが、俺に許された唯一の生き方だ。


――そう、決めたはずだった。


「……は?」


掲示板の前で、思わず声が漏れる。クラス分け。

その中に――見慣れた名前があった。


沢渡結衣。


そして――


神城香。


学年トップ。

容姿端麗。

誰もが認める“上の世界の人間”。


……本来、俺とは無関係な存在のはずだった。


(――なのに、どうして)


まだ、この時の俺は知らなかった。


あの「氷姫様」が、

まっすぐ俺の名前を呼ぶことになるなんて。


しかも――まるで、最初から知っていたかのように。


読んで下さりありがとうございます。


久しぶりに書いています。

今回は、普通の恋愛ものにチャレンジしています。


・面白かった、楽しかった

・続きが気になる

と少しでも思ってくださった方は、画面下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援して下さると嬉しいです。

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