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悪魔聖女の神隠し  作者: おでこ


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第01章 白い広場で、記憶が遡る

数ある作品の中から開いていただきありがとうございます(^^♪


よろしければ、最後までお付き合いいただければ嬉しいです(*‘ω‘ *)/


民の目が、私を見ていた。



何千という目が、ただ私一点に向けられていた。


怒りでも憐れみでもない。


もっと冷たい、品定めをするような目だった。


値踏みをするような、それでいて既に答えを出しているような目だった。


私は壇の上に立ち、その視線を全身に受けながら、不思議なほど静かな気持ちでいた。


怖くないのではなかった。


ただ、怖さを感じる前に、別のことを考えていた。


——なぜ、こうなったのだろうか……


秋の朝の空気は薄く冷えていた。

王宮の広場に設えられた高い壇の上、私はひとり立っていた。


白い聖女の礼服が秋風に揺れた。その白さが、今日は眩しかった。


着任した日、この服を初めて受け取ったとき、私は神殿の倉庫の奥で一人でそっと袖を通してみた。


大きすぎた。


でも侍女たちが丁寧に直してくれて、仕立て直されて、やがてこの服は私の形に合うようになった。


それと同じように、私はこの国に馴染もうとした。馴染もうとして、馴染もうとして、馴染めたと思っていたのに——こうなった。


誰かが、広場の端で子供を抱き上げた。


子供が私を指さして「あのお姉さん、どうして壇の上にいるの」と言った。


母親が慌てて子供の口を塞いだ。


その仕草が、胸に刺さった。あの子は何も悪くない。


ただ、疑問に思ったから、声に出しただけだ。なぜ私は壇の上にいるのか。


私自身が一番、その問いの答えを知りたかった。


「マリベル・エスタヴィアは、聖女の名を騙り、この王国に近づいた悪魔である!」


レナード殿下の声が、広場全体に響いた。


「その祈りは奇跡ではなく、国土の魔力を少しずつ吸い取るための術であった。三年にわたって、この王国の力を食い荒らし、土地を痩せさせた。全ての元凶は汝にある」


婚約者のレナード殿下。

婚約の儀式で私の指に金の指輪をはめた、あの手と同じ人間の声だった。低く、落ち着いていて、感情の揺れをほとんど感じさせない声。


民がざわめいた。


「本当に?」

「聖女様が悪魔?」

「あの方が?」

「確かに、衰退していく一方だったしな……」


驚きと疑惑と、どこかで期待するような声が混じり合って、広場の空気が揺れた。


「——違います、私は祈り続けて——」


レナード殿下の声が、そのまま続いた。


「マリベルにある魔法をかける。この魔法は、無実の者には何の効力も持たない」


レナード殿下は続けた。声には一切の迷いがなかった。


「しかし——悪魔であれば、聖なる光によって消滅する。これは公正な試みだ。マリベルが本当に人間であれば、何も起きない。民よ、見ていてくれ」


「公正だ」

「ならば試せばいい」

「本当に人間なら怖くないはずだ」


民の声が、それぞれに賛同へと傾いていった。


私は唇を開こうとした。


——待ってください。それは公正ではありません。


でも、声が出なかった。


何千という目が、私を見ていた。

その目の中に、私の言葉を待っているものは、ひとつもなかった。答えはもう、最初から決まっていた。私が何を言っても、今日の結末は変わらない。そのことが、骨の髄まで伝わってきた。


「魔法は、この方に唱えていただく!」


壇の横に立っていたシャルネ・ヴェルトワが、一歩前に出た。


金色の巻き毛が、秋の光を受けて輝いた。彼女は美しかった。整った顔立ち、澄んだ青の瞳、柔らかな物腰。両手をゆっくりと天に向けて広げ、深く息を吸い込むように目を閉じ、それから——掌から、白い光が溢れた。


柔らかく、清らかで、美しい光だった。


民がどよめいた。


「シャルネ様だ!」

「あの方こそ、本当の聖女のようだ……」


歓声が波のように広がった。子供が指さして笑い、老人が涙を拭った。


私はその光を見ながら、弁明しようと口を開いた。


「——私は」


その瞬間、シャルネと目が合った。


「準備はいいかしら、マリベルさん?」


シャルネが、ほんのわずかに微笑んだ。


——逃げなきゃ。そう本能が警鐘を鳴らした。


「私は、悪魔なんかじゃ————」


次の瞬間。


世界が白くなった。


体の芯から何かがもぎ取られるような感覚。引っ張られるのではなく、押し出されるような、暴力的な感覚だった。


足の裏から地面が消えていく。体の輪郭が溶けていく。


レナード殿下の声が、ひどく遠くなった。


「——悪魔の脅威は去った!」


民の歓声が、遠ざかっていく。


「でも……あんなに優しかった方が……」


神殿の石床の温もりが——指先から、消えていく。


待って。


私はまだ、ここに——



   ◆



意識が、暗転した。


広場の端に、見知った顔が見えた気がした。神殿の若い神官だった。


着任したばかりの頃、枯れ井戸に水が戻ったと知らせに来てくれた、あの神官だ。


今は顔を伏せていた。


私の目が向いたことに気づいて、さらに深く伏せた。


その仕草に、何かが込み上げた。


あの神官は悪くない。


今ここにいる誰もが——何も知らないのだから。


暗闇の中で、私は考えていた。



——いつから、こうなったのだろう……



記憶が、遡っていく。


三年前の春に向かって。『奇跡』と呼ばれた日々に向かって。全てが、まだ温かかった頃に向かって。



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!


続きが気になる!と少しでも思っていただけたなら、

評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やリアクションで応援いただけると、本当に飛び上がって喜びます!


また次回でも、お会いできることを楽しみにしております(*‘ω‘ *)/

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