19◇ダンジョンコア
19◇ダンジョンコア
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さて、2階層目の探索を開始するが、見渡す限りの草原で所々にポツポツと低木が生えている程度だ。
魔物は殆ど居らず、時々草の間から小型の鹿の様な縞模様が見える程度だった。
その鹿もどきも俺たちが近づくと一目散に逃げるので、捕まえるのは不可能であった。
まぁ俺なら魔力の網を被せれば一発なんだろうけど。
おかしい。
4時間は歩いているのにフロアの端に着かない。
草原なんで歩きやすく、時速5km×4で20kmは歩いているはずだ。
天井?の太陽は午後4時くらいの位置にある。
草原は他に目印になる物が無いので方角が分からなくなって来るが、一応太陽の位置を信じて真っ直ぐ歩いて来たはずだ。
これ、ひょっとしてVRか?
無限軌道歩道で実際には歩いても前に進まず、地面はプロジェクションマッピングで進んでいる様に見せているのか?
低い立木や鹿もどきはホログラム映像か。
俺はアンチ光学擬装魔法を展開し、力任せにぐいっと全周に広げる。
するといきなり直径500mくらいの岩肌の半球状の洞窟に変わった。
天井には半円形のレールがあり、太陽と思っていた照明ランプがはっきり見える。
俺たちの居た中央付近には直径10mくらいの円盤があり、表面は細かいローラーが敷き詰められた様になっていた。
意識せずに歩くと、絶妙な抵抗感で実際に歩いている気にさせる。
重力魔法も併用している様で、適度に疲労する様にもなっていた。
「なにしちゃってくれてるんですか!せっかくの草原のフロアが台無しじゃぁないですか!責任取ってくださいよ!」
突然天井中央から拡声器を通したかの様な甲高い声が響き、ステータスウィンドウくらいの大きさの光の枠が目の前に現れた。
「どうして出来たばっかりの施設にそんな破壊行動が出来るんですか!あなたがたには良識というものがないんですか!」
うわ、画面の中で頭に短い角が2本生えた女子中学生?くらいの年齢の女が喚いている。
後ろで先がハート型をした細い尻尾がゆらゆらしている。
テンプレどおりの魔族だな。
ということは、ダンジョンって魔族の施設なのか?
さっき自分で施設って言ってたしな。
獲物や宝箱などの美味しそうなエサで人間の冒険者を釣り、レベルに応じて進める階層にすることで殺しすぎない様に収支のバランスを取る。
たまに最下層まで踏破されるのはそこの管理者が鈍臭いだけってことだろうな。
しかしこの設備はドン引きなんですが。
異世界前世のハイテクアミューメントパークそっくりだし。
まぁ魔法で実現しているのでかろうじてこの世界風ではあるが。
「どうもー、冒険者でぇっす。最下層まで一気に踏破させてもらいますね。」
俺がそう言うと女子中学生魔族はパニックになった様になって、叫びながら画面を残したままどこかに行ってしまった。
数分待っていると、眼鏡を掛けてシチサンに分けた上司みたいな魔族を連れて帰って来た。
「お客様ぁ、ちょっとレベルが高いからって無茶をしてもらっては困りますねぇ。え?レベル表示を見てみろって?」
よく見ると画面の下に俺達の名前とレベルの一覧があった。
ダンカン:レベル 214
エリック:レベル 186
オニール:レベル 173
ウォルト:レベル 156
ロバート:レベル 286
「アハハ、イヤだなぁお客さん、ここは初心者用の訓練施設ですよ。あなた方の様なベテラン様が楽しめる所じゃないですって。無理に踏破されたらここら辺の生態系が乱れてスタンピードなんかが起こっちゃいますよ。それでもいいんですか?」
「ということは、今まで起きたスタンピードはおめえらの不始末ってことか?自分で抑えきれないからって手抜きをして俺らに迷惑かけて知らんぷりか?あ“?」
ダンカンが吠える。
他の面子も魔族ズを睨んでいた。
俺も合わせて睨んでおく。
「それに人間の生息域に勝手にダンジョン作りやがって。それでこっちがちょっとちょっかいかけたらキャンキャン騒ぎやがって。当然見つかったらどうなるか覚悟は出来てるんだろうな。」
「いやー、ご迷惑をかけているつもりはないんですがねぇ。この森に入って来なければ襲われることも無いんだし。」
「それがあるんだよ。この森から魔獣が溢れて周囲の農地が荒らされてるし。襲われた農民もかなりいるそうだぞ。」
「え?クロコ、どうなってるんだ?運営は順調だって言ってたじゃないか?」
「あのー、順調なんですが、ちょぉーっとだけ溢れているのは誤差だと思ってたんですよね。そんなに騒ぐことのもんじゃないと思うんですが。」
「馬鹿野郎!現にこうやって高位冒険者様に迷惑をかけてるじゃないか!こんな中途半端なダンジョンなんぞあのレベルで攻められたら10日で踏破されるぞ!」
へぇ、10日もかかるんだ。
俺はこっそり自分に存在隠蔽魔法と魔力可視化魔法、重力低減魔法をかけ、その場を離れて下りの階段を探す。
魔力の流れで動線がはっきりと分かり、一直線に最下層を目指す。
魔獣の間をすり抜け、ドアは収納魔法応用でくりぬき、奈落は重力低減魔法併用でパルクール的に壁を走って遠心力で螺旋状に降りていく。
10分ほどで10階層分降りて最下層に着き、存在隠蔽魔法を解く。
「おーい、ここが最下層か?なんかダンジョンコアみたいなでっかい石が浮いているんだが。これ取ったらどうなる?」
たぶんさっきの魔族の管制室?には遠隔で監視する為のカメラ?みたいなものがあるらしく、俺がダンジョンコアをペタペタ触っているのが見えたんだろな。
2人とも言葉にならない悲鳴をあげてどこかに走り出していた。
3分後くらいに息咳切って俺のいる最下層の部屋に飛び込んで来た。
何も無い様に見える壁の一部が開いて奥には階段が見えた。
管理用の通路なんだろな。
「どどどどうしていきなり最下層まで行けるんですかぁぁぁ!!!コアに触ると魔力を一瞬で吸い取られてミイラに、ってあれ?生きてる?」
「そんなことが、あああ失礼しましたぁーっ!あなた様は魔王様でしたかっ!ほらっ、お前も土下座せんかいっ!」
シチサン眼鏡が女子中学生の頭を押さえつけて俺の目の前に這いつくばっている。
え?
魔王ってそんなにレベルが低いのかって思ったけど、魔王ってくらいなら部下の抜き打ち検査のためにレベル擬装くらいはするか。
「いや、俺は魔王ではないぞ。ただの人間だ。ちょおーっと隠していることはあるが。」
「いえいえ、ご冗談ですよね?ダンジョンコアに直接触れても耐えられるのは魔王様くらいしかおられませんよ?そんなに気軽に触ってらっしゃるということは、あなた様が魔王様の証。」
どうしよっかなー。
古い文献によるとかつて北の魔王と戦った勇者のレベルが400くらい。
そうなると、魔王のレベルもそれくらいだろうな。
勇者チームは集団で魔王をボコるからそれにしばらく耐える魔王は500くらいはあるのかもしれない。
いずれにしても俺から見れば誤差だな。
いっそのこと、このダンジョン貰おうかな?
「それじゃ魔王でいいからこのダンジョン貰うね。あ、管理は任せるから運営方針だけ決めさせてもらうよ。」
「ははぁー!承知致しました。あなた様がコアに触った時点で管理権があなた様に移っておりますので、私達はそれに従います!」
やった!
ダンジョンマスターだよ。
ここは初心者用の訓練施設とか言ってたからサバイバルアミューズメントパークにでもするかな?
生きるか死ぬかの状況を安全に体験できてドキドキハラハラの連続!
日常のつまらない繰り返しから解放される魔物倒し放題でストレス解消!
スリル満点、おみやげどっさりでみんなニコニコ。
お近くの街まで送迎魔車で2時間の便利アクセス。
なんてことを話すと魔族の2人の顔が引きつっていた。
いくら安全と言っても施設の決まりを守らないゴロツキまで安全にする必要はないよ。
何せ奴らは初心者の冒険者を襲うんだからと言うと、妙に納得した顔をしていた。
「じ、じゃぁゴロツキ?と判断したら施設のセーフティを外してもいいってことですか?」
「そうだね。その判断は任せるけど、やり過ぎなければ好きにしていいよ。そうすればより安全という評判が上がって、初心者もゴロツキも訪れる人数が増えるだろうしね。」
初心者は安全という評判で通う様になり、ゴロツキは安全なら俺達がダンジョンの奥でこっそり殺ってもバレないだろと集まるだろう。
そのゴロツキをまとめてダンジョンの養分にすれば収支は合うんじゃないかな?
と提案すると2人は目を輝かせて頷いていた。
「ロバート、本気でダンジョンを持つつもりか?」
おっと遠隔スクリーンは双方向みたいで、ダンカン達の前にあるスクリーンと最下層の女子中学生が持っている手持ちのスクリーンと繋がったままだった様だ。
今の話をまるっと聞かれたな。
こりゃ面倒なことになりそうだ。




