10◇高ランク冒険者
10◇高ランク冒険者
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それから数日経ち、俺は再び冒険者組合を訪れた。
今回は組合のドアを開けた瞬間にカウンターからリアーナ姐さんの声が飛ぶ。
「ルーカス!こっち来て!」
いきなり呼ばれて組合の丸テーブルの荒くれどもがどよめく。
皆組合内をキョロキョロするが、まさか呼ばれたのが貧相な俺とは思わず、俺の上を連中の目が滑る。
俺はおっかなびっくり腰を屈めて荒くれどもの中を目立たない様に通り過ぎ、サッと横からカウンターの向こうに滑り込む。
待ち構えていたリアーナは二人の若い受付嬢を伴って俺の腕を引っ張って組合長室に行く。
「連れて来たわよ。ルーカスに関わることは全部俺を通せ、だったわよね。関係ありそうなジュリアとサマンサも連れて来たからここで話してもいいよね?」
うわー、リアーナ姐さん、組合長にえらい強気だな。
これが年の功という奴...あわわ
「さて、あれから何日か経ったので受付嬢も情報を集めてくれた。俺も聞いているからここで話してくれ。」
組合長は応接セットに座れと言って、紙とペンを持って来た。
受付嬢3人が並んで座り、その対面に俺と組合長が座る。
まずリアーナが口火を切る。
「前回も言ったけど、ランクAのドラゴンスラッシャーのダンカンが受けている依頼は10日以上かかる場合もかなりあるの。その場合、途中の町や村で補給するんだけど、行く場所によってはそれが無くて狩猟で現地調達や持って来た塩漬けの物を食べないとならなくて、チームのやる気がかなり削がれるって嘆いていたわ。輸送手段は収納魔法があるから単身でも行けるんだけど、収納魔法でも中の時間経過はあるでしょう?一般の魔法レベルならせいぜい2倍か3倍程度しか長持ちしないらしいんで、生ものを入れてもすぐ腐るんだとかね。」
次にジュリアと紹介されたお姉さんが話す。
「私の担当しているランクBのヒュドラバスターのブルドンさんはやはり10日以上は持つ食料が欲しいと言ってましたね。収納魔法で最大3倍程度までは延ばせるみたいですが、やはり新鮮なものが食べたいとか。」
次のサマンサと紹介されたお姉さんは眠そうな目でちょっとちょっと口ごもりながら話す。
「私の担当は秘密が多いランクBのフェンリルクロウのカーチスさんです。寡黙な人で、あまり要望もして来ないので聞き出すのに苦労しました。しゃべっている内容もあまりはっきりと聞き取れなかったのでちょっと曖昧なところがありますが、やはり食料の保存問題が一番大きいそうです。お金がかかってもいいからいつもステーキが食べたいなんて言ってましたね。」
そりゃ無理だろう。
俺の収納魔法なら保存期間に特化する様にパラメータをいじれば時間遅延が最大1万倍くらいになるからほぼ無限に近いが、そんなことを収納魔法に特化していない人がやったら一瞬で魔力が尽きる。
魔道具にしても前回納入した目玉くらいの大きさの魔石が要るしな。
あ、ちなみにウチの商会で商品に付けてる魔石は使い捨てだよ。
魔力が切れたらバラバラに割れる。
無理して目一杯魔力を注ぎ込んでいるんで放出は1回が限度なんだよね。
かと言って、もっと大きな魔石は詰め込める魔力量が膨大なんで、ウチの親父でも目玉大の魔石は10分の1も満たせない。
第一、コストが見合わないし。
込める魔力も何でも良いって訳ではなく、装備や食料の特性や保存性を伸ばすのに特化した魔法なんで、これは各商会で秘中の秘としている。だからウチのじいちゃんが開発した魔法は今のところ親父しか引き継げていないって訳だ。
俺も15になるまでは親父に教えて貰ってたりしたがどうも難しくて習得出来なかった。
まぁ今じゃ見ただけで分かっちゃったけどね。
さて、高ランク冒険者の要望は聞けたが、やはり人間の生きていくうちで必須の食料が最優先だな。
それも高ランク冒険者は舌が肥えているから新鮮な食材をお望みだ。
ならば答えよう。
我がマーセッキ商会の真髄を。
って金次第っすけどね。
「ありがとうございます。やはり新鮮な食料が第一みたいですね。それでは、仮にこちらで少し高めの値付けをさせていただきますので、その内容を高ランク冒険者さん達に聞いてみていただけないでしょうか。」
俺は組合長の紙とペンを借り、一覧表を作る。
・生肉10キラル(10kg)を10日間食あたりせず食べられる様な魔石をセット。
・生野菜20キラル(20kg)を10日間食あたりせず食べられる様な魔石をセット。
・白パン30個6キラル分(6kg)を10日間食あたりせず食べられる様な魔石をセット。
「まず、これくらいを基本単位としてそれぞれ食料持ち込みでその場で魔石とセットにして処理した時の代金としましょう。食料を持ち込みにしたのは私の商会では高ランク冒険者さんの普段食べている様な高級食材を入手することが困難だからですね。在庫していてもそのまま魔石が消費するだけですし。」
「確かに。高ランクの連中は普段から旨いもん食ってるからなぁ。遠征してもその思いは変わらんだろうから、お前の示したリストを見るとよだれを垂らしそうだな。で、いくらにするんだ?」
「そうですね。私自身がやればほぼタダみたいなもんですが、それでは市場の経済が回りませんものね。私以外の者が技術を習得し、保有魔力で無理なく魔石に付与出来ることを前提に、魔石は先日購入した1個300ラスクの魔石を1件当たり3個使いますので900ラスク。これに私が作ってウチの商会の者に習得させる魔法で魔力を付与する手間が1件当たり1000ラスク頂戴出来ればと。」
「1件当たり合計1900ラスク(1万9千円)か。これに魔石にも利益を乗せると2500ラスクってとこだな。」
「そうですね。魔石を仕入れているのを忘れてました。仕入れ値そのままで売るなんて商人失格ですね。これ、ウチの親父の魔力量からしたら3件やったら魔力切れになりますね。ただ、俺が取って来た少し大き目の魔石に魔力を込めてペンダントにし、親父の首から下げさせて自動で魔力供給する様な仕組みを作ったんで、これなら一日100件でもイケますね。あれ、どうしました?」
そこに居る俺以外の全員が黙ったままお互いの顔を見比べている。
組合長が両手で顔を覆ってごしごしと擦り、天井を向いて何やらぶつぶつ言っている。
受付嬢の3人も何やら聞いてはいけないものを聞いた様な居心地の悪い表情をしているな。
「あれ、もしかしてやっちゃいました?」
「ああ、聞いたからには俺たちは一蓮托生だ。いいか、この事は絶対に口外するなよ。たとえ家族にでもだ。ルーカス、お前もだ。親父さん以外にはしゃべってないだろうな。」
「あー、その時お袋も妹も見てました。他人には言ってないと思いますが、後で確認しときます。」
またもや組合長は頭を抱え、机の引き出しから新規魔法開発申請書を出して俺の前に置いた。
「これを書け。今お前が言った魔法は新規魔法に当たる。広く普及させる時に開発者に利用料として儲けの1割が入る様なしくみが王国にはあるのだ。これは王国法で決められたことなんで俺でも誤魔化せない。さぁ、この紙に方法を書くんだ。」
「えー、俺の魔法はちょっと特殊でしてね、前にも言ったかもしれませんが、突然脳裏に浮かんでだいたいこうやったらというのが分かるんですよ。ただ、全部感覚的なものなので文書化出来ないっすねぇ。」
「それは素養のある者に教えても習得出来ないということか?」
「多分そうなると思います。」
なにせ俺の魔法習得は「スキル:神々の悪戯」に依存してるから、やってる俺自身にもさっぱり原理が分からないんだよ。
こんなこっといいな、でっきたっらいいなと思ったら「はい、〇〇こぷたー!」みたいに勝手に使える様になってるし。
ほら、また訳の分からない「〇〇こぷたー」みたいな単語が出てくる。
そう説明すると組合長は諦め、この部屋に要る全員に改めて部外秘を強要するのだった。




