「エピソード25 中世編:─オウ…皇、旺。『王に相応しき酒杯を』」
何故、これほどまでに歪な成長曲線を描いたのか──?
≪三つの世界に、それぞれ主人公を据えたからだろう≫
≪相応しき者を選び取るためだ。
その甘露を、お前は啜りたいのだ≫
「ああ──王、皇、旺。
満ち足る者を、ここで選別するのか?」
≪始まりは告げられた。
ならば終わりを据えよ。
決する手を、決せよ≫
【私の頭の中で、
同じ幕が幾度も上がり、幾度も下りる。
始まりは切られ、終わりは宣告された。
旗はすでに振られている。
――どれが主幕で、どれが終幕なのか?】
【――幕は、本当に一枚きりか?】
≪襞の奥に、さらに襞が重なる。
貴様はその裂け目に棲みついた。
ゆえに終焉は、常に起源へと折り返す≫
【もう──止めてくれ。
俺を死なせてくれ……。】
≪死は救済ではない。
お前が始まりだ。
ならば終焉も、お前であれ≫
【寝ても、醒めても、
貴公は俺の視界から消えない。
何故だ。
何故、要る──ナンダ?】
≪最初に幕を上げたのは、貴様だ。
名を与えたのも、貴公だ──≫
≪名を与えた瞬間、
お前は私を逃せなくなったのだ≫
【俺はお前を殺す!
今度こそ、今度こそ殺してやる!】
≪ハハハッ──殺すだと?
愚かだな。
このヴァル・レッティーナは“軸”だ。
折れば世界が崩れると、貴様が一番理解しているはずだ≫
【あぁ──お前を殺す。
ヴァル。
この世界ごと、叩き潰してやる。】
────唯一無二の神は、すでに祝詞を紡いでいる。
しかしそれは、未来の章に属するもの。
今ではないと、神は静かに知っていた───。
王に捧げる酒杯として組んだプロット。
目的は一つだけ──
ナーレとヴァルに「最初の共同作業」をさせること。
つまり、二人で謎を解かせることだった。
ぶっちゃけ、それ以外の明確な意図はない。
ほぼアドリブだ。
最初だからこそ、間口は広くしなければならなかった。
なろう系の読者でもすぐに理解できる題材にする必要があった。
奇を衒わない。
大学生程度ならすっと分かるネタで提示する。
それが条件だった。
手垢にまみれた題材だ。
それでも銀の「酒杯」を掲げる。
【皆、既に黒い。
ならば形を歪めるしかない】
手垢にまみれても、銀は銀だ。
その純度は揺らがない。
だから、あえて磨かない。
【銀の含有量で勝負する】
謎解きの骨子は定まった。
木、鉄、銀――三つの酒杯を置く。
光沢と重みで、王の器を量る。
それが一つ目のプロットであった。
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二つ目は、ヴァルの“有用性”だ。
こいつが本当に必要なのか――
作者である自分すら、疑念に沈んでいた。
精神体か。
守護霊という名の「酒杯」か。
その正体が定まらないことが、不安だった。
コイツをちっとばかし、
味見しなければならい。
こいつは葡萄酒か。
それとも蜂蜜酒か。
いずれもネクタル――だが、発酵の過程も、酔いの質も異なる。
その本質が定まらない。
あるいは――こいつが酒杯そのものなのか。
ナーレというネクタルを宿す器。
その真偽を、私は一生、問い続けることになる。
【私は生涯、こいつを信じきることが出来ない。】
幾ばくも無い、逡巡――。
【俺はこいつを幾度も見てきた。
始まりも、終わりも。
だから――信じることが出来ない。】
何度も見たからこそ、信じられない。
名を定めたはずの存在を、俺は最初から疑っていた。
名を与えたのは俺だ。
信じられない――――それでも、受け入れざるを得ない。
私は両者を引き合わせて、
躍らせてみた。
取りあえず、ヴァルに導かれ、
私はハリセンか酒瓶で後頭部を思いっきり殴る──それで調整。
場面は“選択の儀”という想像空間から、現実に戻った。
ナーレの目の前に、五つの通路が現れる。
これは、試練でもあり、選択の事実を映す鏡でもある。
苔むした通路――これは二十一話から二十二話にかけて、繰り返し語られてきたフレーズだ。
藩神が神であることを、メジャーではない形で抽象的に示している。
ヴァルは、ナーレに「ここを通れ」と示す。
実際には、ナーレは選択したように見えるが、ヴァルが既に決めていた──
そのシステムを、軽く揶揄しているに過ぎない。
三つ目の通路は、ここに来て初めて、体を横にしないと通れないほど狭いことに、ナーレは気づいた。
カンテラはもちろん、角ばっているため通ることはできない。
この通路が示すのは――既存を捨てろ、という意味だ。
既存の物理、すなわちカンテラを捨てよ、ということだ。
(ちなみに、蝋燭が何故適しているかというと、
持ち続ければ蝋が溶け、痛みを伴うからである。)
ナーレは、苔むした狭い通路を通ることで、身体を蹂躙されるかのような感覚を味わった。
正確には、苔が全身をまるで嘗め回すかのように触れてくるのだ。
その結果、苔が鼻腔までべっとりと押し寄せ、
青臭く、水気の混ざった独特の匂いが全身に侵入した。
この不快極まりない行為を誤魔化すため、
ナーレとヴァルはひたすらお喋り。
つまるところ、読者向けの解説タイムである。
文句を言いながらも、ナーレはヴァルのことを少しだけ理解していく。
その全ては、読者に知ってもらう必要のある情報だった。
とにかく、この地下空間から抜け出す必要があり、謎解きを設置した。
謎解きは簡単で、酒杯の比重(荷重)によって扉が開く仕組みだ。
中世五世紀にしては、圧力版で扉が開くという先進性がある。
これは読者には控えていた。
なお、「突出部に置いた」という表現があるが、机そのものが突出しているわけではない。
机の一部がボタンのように突出している、という意味である。
イベントを解くため、ヴァルはナーレに銀の含有量や比重を説明した。
だがナーレは首を傾げるばかり。
当然、中世五世紀の人間には理解できるはずもない。
≪それは……後で教える。
いいから早く、その酒杯を置くんだ≫
ナーレにはそう聞こえたが、実際は違う。
ヴァルが教えるつもりはなく、ただ行動させるために言っているだけだった。
謎を解くと、外へ続く階段が姿を現した。
ナーレは解放感に駆られ、息を弾ませながら階段を駆け上がっていく。
その一歩一歩が、地下空間という閉塞からの脱出を象徴していた。
≪ナーレ、お願いです。無茶はしないでください。
一蓮托生なのですから……≫
ヴァルの声が耳に届く。
表向きはナーレの無事を願うものだが、実際には意味が二重になっている。
ナーレという器が失われれば、ヴァル自身も存在を維持できない──
それが、この瞬間に秘められた真実だった。
やがて地上に出ると、ナーレは外の広さを改めて感じた。
空と大地がきちんと分かたれたあの世界へ──
それは、単なる風景描写ではない。
自我と知識が分かたれた世界という象徴でもあった。
地下での試練とヴァルの警告を経て、ナーレは自らの意識と世界の境界を、ようやく再認識したのだ。
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これ以降の詳しい話は、アフターストーリーで語ろう。
ヴァル自身がわざわざ説明してくれているのだから、物語本編で全て明かす必要はない。
ただ、作者としては、この信仰体系について少し触れておく必要があると思う。
何故、信奉者が存在し、それが神の寿命に直結するのか──
その仕組みについて、後に説明したい。
皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
『第二十五話「選択の儀 ≪帰趨きすう遍≫」』における、プロットや物語進行の意図を、少しでも感じ取っていただけていれば幸いです。
銀の酒杯については、コメントで指摘のあった通り、
薬屋のひとりごとからヒントをいただき、オマージュさせてもらいました。
確かに、その通りです。
しかし、この手の謎解きは、
フリーホラーゲームや過去十五年以上のフリーゲームでも頻出するもので、
すでに手垢まみれの定番ネタです。
ですので、あらかじめご了承ください。
それら既存ネタと区別するため、
無理やり黴臭い倉庫から銀の酒杯を取り出してきました。
最初に申し上げた通り、この謎解きは突っ込まれることを前提に作られている。
なろう系読者であれば、「薬屋のひとりごと」を読み、アニメにも目を通しているだろう──と予測してのことだ。
その前提を信じ、貴方方を信頼して、提示させていただきました。
──満足でしたか?
ねぇ、今どんな気持ちですか?
貴方様は、まんまと引っかかりました。
残念でしたね、狩人様。あと一歩及びませんでした。
またお会いできることを、愉しみにしております。




