「エピソード14 中世編:余白という詐欺!! 『メーテール学院』」
さてと……困ったな。
作者は、まず手詰まり感を覚えた。
うむ──まだ、学校名を決めていなかったのだ。
この頓珍漢は未だに、主人公を学校に行かせようとしている。
しかし、その予定場所は、まったく決まっていない。
自室の南と西にある窓辺に佇んでいると、
精霊たちが「その時が来た」と告げてきた。
うーん……とりあえず、振ってみるか。
直観ダイス。
画して、ナーレの序盤──学校への道程、
そこでのイベント、場所を含めたエトセトラ──を思いつくまま書き連ねる。
その間、神妙にして奇天烈なことを、彼は平然と仕出でかした。
『予定はない! 旅程はある。』
運行経路も運航計画もないトロッコに、乗客を乗せて。
作者は、走りだした──全身で未来を抱きしめるように。
ナーレは自室の南と西の窓辺に立ち、精霊たちの声を耳にした──
「その時が来た」
(雄鶏か……こんなレトリック、今時のファンタジーじゃ使わねぇな)
南と西の四つの窓からは、小麦畑が広がっているのが見える。
さらに視線を遠くに伸ばすと、砂浜が続き、海が煌めいていた。
※実際、ナーレの目線からは全て見えない。
しかし俯瞰的視点を挟むことで、読者に世界の広がりを伝える。
──微睡んだ太陽が、
青い帳の向こうからぼんやりと顔をのぞかせはじめる、
どこか遠く回りこんだ光。
実際、この窓辺から身を乗り出せば、ほんの少しだけだが確かに見える。
海面から昇る太陽の光を。
東から昇った朝日は、建物に遮られながらも、
世界を少しずつ色づかせ、目覚めを告げる。
私は窓を開け、ゆっくりと、
秋と雨が混じった朝の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
(なんだか肌寒いけど、まあ、なんとかなるかしら)
「はぁー」と口から息を吐いてみたけど、
息は白くならず、透明なまま空気に溶けていった。
そんな彼女の様子を見て、私は思わず心配になった。
(おいおい、遅刻するぞ……)
作者は腕時計を確認する。
時刻は7:50になりかけていた。
どうも、中世の人々は時間にルーズなのかもしれない、と私はどこかで思っていた。
「ナーレ! いつまでも朝日を見ていないで、支度なさい!」
「はーい、今すぐ行くわ!」
ナーレは自室を飛び出し、朝ごはんが並んでいるであろうテーブルへ向かった。
テーブルの上には、確かに朝ごはんが置かれていた。
固くて丸いパンと、ナーレ家名物のブイオンスープ。
パチパチと音を立て、暖と光をもたらす暖炉。
テーブルのまわりには三つの座椅子が並ぶ。
【あぁ、寒い寒い。暖炉、暖炉……】
作者はアイルランドの気候に馴染みがなかったため、暖炉が唯一の避難場所だった。
すると──
ナーレは暖炉の近くの席に陣取った。
彼女の「指定席」である。
【Oh……】
作者は鼻をズビズビさせながら、ナーレから見て左の席に座った。
ナーレのお母さんが食卓に朝食を並べ終えていた。
現時点ではまだ名前は登場させないため、
ここでは描写を省略し、すでに用意されている状態として表現した。
「また固いパンなの?」
ナーレはパンを千切ろうと奮闘したけど、まったく歯が立たない様だ。
物は試し、私はそのパンをそのまま齧った。
【ナーレ? この黒パン、固すぎるよ……】
日本で一般的な黒パンは柔らかいことを知っている。
しかし、これは全く歯が立たなかった。
仕方なく、ナーレはパンの端をブイオンスープに浸し、
数日間同じスープに具材だけ足したような煮汁を口に運び始める。
私も見様見真似で、スープを口にしてみた。
【まっず!! うっす!!】
まるで、味噌を入れ忘れた味噌汁のようだ。
素材の味がそのまま主張している。
いや、煮汁──その言葉が、紛れもなく正しい表現だった。
作者は恐る恐る、スプーンでスープをすくってみた。
小間切れの肉の断片らしきものがある。
【固い、かたっ!!】
明らかに塩気がある。これは……。
紛れもない、干し肉だった。
【えっ? 何?
これで味を整えるの?】
いくら味わっても、塩気すら感じられない。
現代人の口には、まるで味がしなかった。
「仕方ないのよ、また税金が上がったんだから」
お母さんは、まるで首が回らないわと言いたげに、部屋をぐるりと見渡す。
「今年から銅貨五枚が十枚になったの。根菜類を買うのも一苦労よ」
ナーレのお母さんはキッチンで、火の番──というか鍋の番をしていた。
お玉でコンコンと鍋を叩く。
──たとえそうでも、鍋底が透けるほど澄んだこのスープを、
ブイオンスープと呼ぶのはちょっと酷だと思う。
【そうだ! 言ってやれ。
せめて塩を入れてくれ】
風味のほとんどは、かさ増しのために入れた小麦ポリッジだもの。
根菜の香りなんて、ほとんど感じられない。
「もう食べ終わったなら、早く行きなさい」
お母さんは腰に手を当て、ボウルと木皿を片付ける。
しかし、作者は異様に食べるのが遅かった。
【いや、おばさん! 俺はまだ食ってんだけど。】
半分の工程すら終えておらず、仕方なく黒パンだけ服に忍ばせる始末だった。
「はぁーい。早く着替えるよ。修道長様を怒らせるのはイヤだもん」
ナーレはしぶしぶ、修道女服を手に取る。
その後、ナーレはいきなり着替え始めた。
【おいおい──いきなり着替えるなよ。こっちは準備してないぞ。】
作者は困惑し、未成熟でも女性なのだからと、ずっと鍋を見つめることにした。
「せめて、これが真っ黒な鴉色じゃなければな──
羊みたいに白とか、狼みたいに灰色ならよかったのに。」
赤茶色の長い髪は、黒い修道女服とはどうにも合わない気がする。
私は髪をひとつにまとめ、胸元にかかるように束ねる。
それが私──ナーレのトレードマーク。
けれど、修道女服を着ると、
この鴉色が余計に浮いて見える。
【とりあえず、彼女がエッヘン!!ってやるのは良いのだ。】
作者は鼻をすすりつつも、未成熟な身体には目もくれず、
むしろ修道女の服装のデザインや構図に目を奪われる。
何故なら、作者は女性ではない。
つまり、男性の目線として、女性服をどのように着こなすのか──純粋に興味が湧くのだ。
服装のデザインや体の通し方が気になるのである。
男であれば、女性服を身に通すことなどまずないのだから。
(なんだか私、闇に浮かぶ箒みたい……)
(いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。急がなきゃ!)
取りあえず、出かけるらしい。
私は黒パンを千切りながら口に運びつつ、ナーレについていくことにした。
──うわぁ、玄関前に水たまりがいくつかできてる。
絶対に踏みたくない。
確かに水溜まりはある。
だが、そこまで気にするレベルではない。数センチ程度の浅さだ。
とくに右足だけは、どうしても濡らせない。
この右足の靴、ほんの少しの水でも浸水しちゃうのよ。
実は、私ってほとんど毎日遅刻してるようなものなの。
みんなからは「遅刻魔」って呼ばれてるし、
だから右足には、あるものを隠しておく場所を作ってある。
それが原因で、靴底に穴があいて、水が染み込んじゃうってわけ。
【あん? なんだこの子……】
作者は急に不安になった。
【──アレか? もしかして、アレなのか?
君、悪い子なん?】
まあ、その話はまた後で。どうせそのうち使うことになるだろうし。
「お母さん、行ってきます!」
私は「メーテール学院」へ向かって走り出した。
【一気に作者は不安になる。
このまま穏便には済まない──そんな予感が、犇々と胸に湧いてきた。】
作者はのそのそとナーレについていく。
「メーテール学院」は、この区画で唯一の学院で、丘の高い場所にある。
昔は「神聖学院」と「普通学院」が別々に存在していたけど、
現国王が財政赤字の対策として、全領土に統合の命令を出したの。
【どうやら、その学校が「メーテール学院」らしい。
それにしても、専門学校みたいだな】
ナーレは全速で駆けているが、作者は宙をのそのそ歩くだけで、なんとかついていく。
その結果、今では二つの科がある。
一つは「普通科」。普通の学校で学ぶような勉強をするところ。
もう一つは「神聖科」。こちらは宗教的な学びが中心らしい。
【らしいって......君、本当に学生なのか?
ちょっと別のベクトルで不安になってきたぞ。】
でも、「神聖科」に進むには、十二か十三の歳で「選別の儀」を受け、その試験に合格しなければならない。
この話は、友人のアヴェーラから聞いたもの。
あの子、いつも夢の中にいるみたいで……
たまに話すと、よく分からない夢の内容ばかりを話してくるのよね。
【えっと? つまり、「神聖科」の話をしているのね?
それが『らしい』ってことか。なんだか分かりづらいな。】
アヴェーラは悪い子じゃないけど──
なんていうか、夢見る少女って感じ。
もう一人の友人は──
丘の向こうで、誰かが手を振っている。
作者には、そう見えた。
「おーい! ナーレ
早くしないと、修道長様にまたどやされるよ!」
【なんだ、男の子か。】
作者は声質と口調で、そう判断した。
メーテール学院が目の前に見え始めた丘の上で、
一人の少女が私に手を振って、早く来いと急かしている。
【──!?】
(あ──フィーネだ! もう説明不要って感じね)
私はフィーネに向かって走り出し、声をかける。
「フィーネ、あなたも遅刻寸前ってことね?」
「ああ、そうなんだけど、のんきに挨拶してる場合じゃない!
あと三分で門が閉まるのよ!」
【魂消たなぁ、本当に女の子だわ。
驚かせやがって。】
作者はやっと、ナーレの友人であるフィーネに出会う。
彼女はそう、男の子っぽい感じだ。
良くも悪くも。
その膨らみが無ければ勘違いするくらいには、
ベリーショートな髪型と口調。
遠目では男の子にしか見えなかった。
フィーネはイライラしながらナーレの腕をつかみ、走り出した。
「待ってってば! フィーネ! 泥まみれになっちゃうー!」
そんなナーレの叫びも、彼女にはまったく届かない様子だった。
正義感が強くて、ルールを守ることに命をかけてる彼女に、
私の理屈なんて通じない。
まるで風に向かって肌着を投げるようなもので、
やがてその肌着は私にまとわりついてくるのだ。
【そんな様子に、作者は感じた。
フィーネというこの子……学級委員長みたいな感じだなぁ。】
「どーでもいいから! 修道長様のお小言に一時間耐えるのは、昨日だけで充分!」
フィーネの声をかき消すように、ゴーン、ゴーンと鐘の音が響く。
学院の尖塔についている鐘の音だ。
(そういえば、メーテール学院って昔は時計塔の役割もしてたんだっけ……)
作者は時間を確認する。
現在時刻、8:15。
宗教的な時間感覚からすれば、この時刻に鐘が鳴るのはおかしい描写だ。
多分、学校独自の始業前の最後通牒のようなものだろう、と作者は感じ取った。
「しまった……また怒られる」
フィーネがしょんぼりした声で言った時、五回目の鐘の音が重なった。
その瞬間、彼女の希望は霧のように消えていった。
「これは……いつもの“アレ”をやるしかないわね」
ナーレは、霧散した希望をかき集めるようにして、フィーネに提案し始める。
【おっ──】
作者は彼女たちの輪に入り込む。
フィーネは目をキョロキョロさせながら、不安そうな表情を浮かべた。
「私はアレはしたくない。ルール違反だし、ナーレだけで使いなよ。
私は一時間のお小言を受ける覚悟でいる」
フィーネは堅物なところがあるようで、
どうもナーレの提案に嫌がっている様子だった。
(──その意思は尊重したいけど、今日も遅刻したとなると、
お小言だけじゃ済まないかもしれない。)
「でも、お昼ごはんは“ハーブスープ”に“ハーブサラダ”よ?」
(遅刻を三回すると罰として、昼食が“ハーブ料理”になるのが通例。
──まともな味がしない料理たち。)
「正直言って、あれを食べるくらいなら、家のブイオンスープの方がマシよ」
【……マジですか?
あれよりマズイのがあるのか……。】
実際、宗派にはハーブだけの昼食という行事がある。
史実準拠であることを盾に、作者はこの行事を挟み込んだ。
その言葉が効いたのか、フィーネから小さな呻き声が聞こえた。
「うぐぐ……」
そして、ぽつりと「ブイオンスープ……」とつぶやく。
【おや? どういうセリフ回しだ?
その──『うぐぐ……』、『ブイオンスープ……』とは?】
このことは、長い長い時間の後で回収される伏線であることを、
今の読者たちは知らない。
そう──これから“アレ”をやるのよ。
誰にも見つからないように、裏門からこっそり入るの!
【やっぱり! この子、悪い子だわ!!】
作者はナーレの大胆さに、思わず舌を巻いたのである。
皆様、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
『第十四話 「メーテール学院」』のプロットや進行のプロセスは、ご理解いただけたでしょうか。
そう、フィーネはこの話数の中で急に生まれたキャラクターなんです。
彼女を登場させることで、ナーレというキャラクターをより厚みのあるものにしようとしたわけです。
流石に、学校設定で友人が全くいないのは不自然ですからね。
ですので、悪い子なナーレとの対比として、フィーネを召喚しました。
ナーレ以上に常識人だからこそ、その対比が際立つのです。
第十四話のフィーネの台詞からも、
彼女自身、ナーレの家に『ごやっかい』になっているという伏線が示されていました。
そうでなければ、『ブイオンスープ』で「うぐぐ」となるリアクションは起こらなかったでしょう。
ただし、彼女自身──ナーレ家の特注品があそこまで薄味になることや、
あそこまで青天井の味になることまでは知らなかったのです。
つまり、第十四話時点では、
ナーレ家特注品『ブイオンスープ』の話をしていた、ということになります。
──そう、発信の準備は整った。
エースパイロットとしての私は、これからのオペレーションに向けて、
エンジンを温め、AFの準備を万端にしている。
果たして──『裏門からの闖入者』は無事に進入できるのか?
緊張と期待が入り混じる中、物語は再び動き始める。
地上1500m。
時速3200km──それはもはや風を切る音さえ超える速度。
空中戦が、今、幕を開ける。
エースパイロットとしての私の視界には、裏門に向かう敵影──
いや、闖入者の気配がちらつく。
AFの準備は完璧だ。回転、加速、そして射線の確保。
『V1!! 回転‼!』
発信と同時に機体が応答する。
鋭いGが身体を押し付ける。
戦いは、もう、始まっているのだ──。




