21話 年越し
24日が終業式でクリスマス。25日に母方の実家にお邪魔して、26日に太志や隆明から必勝祈願のお守りをもらい、夕方には京都に到着した。
27日は麓の拠点まで行き、28日は宮内兄妹のお出迎え。そんで29日は京都の迷人と実際に戦ってみて、巻島家と神崎家にも挨拶を済ませた。
30日は合流した2人と京都での映世活動に付き合う。
中々に過密なスケジュールでしたが、得たものは多かった。
お正月というのもあって、以後2日はお休みにさせてもらう予定です。
高橋さん以外は。あの人、ホント毎日活動してるんだよな。
今日は奈良に行くと言ってました。あそこも一部が大昔の町並みになっているけど、そこに出現する敵は現代の京都で迷人になった存命者。
数値はマイナス10ほどだって聞いている。
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年越しはお蕎麦を食べさせてもらい、その後はホテルの談話室で、ささやかながら皆と過ごしていた。
ちなみに各自個室が用意されています。ご夫婦は同じ部屋だったりもするけどね。
巻島さんは時計を見て。
「0時過ぎは混むだろうし、そろそろ行くかね?」
「もうちょっとぉ、あと一周させてぇ」
ゲームに夢中な神崎さん。
「まったく。とりあえずお母さんたちに連絡入れとくから、それ終わったら行くよ」
初詣とのことだったけど。
「本当に行かないんですか」
「へい。この通り、必勝祈願も貰ってますんで」
誘ってくれる美玖ちゃんには申し訳ないけど、なんか気分が乗らなかった。
「アタシも合格祈願のお守り買わんと」
「そだねぇ」
ゲームをしながら返事をする神崎さんに、呆れた様子の巻島さん。
「受験生の癖にこの子は。これで私よりも成績良いんだから」
「勉強もちゃんとしてるよぉ。ただ、来年はあんま活動できないかなぁ」
もし救出作戦に失敗した場合。来年は1月という時期は避けると三好さんは言っていた。封鎖するにしても、年末はなにかと難しいって話だ。
「お父さんのポーション用意するのに活動は続けるけど、やっぱ今年ほどには難しいかな。来年はバイトも辞めるよう言われてるしさ」
「それは俺もっすね。これでも一応は進学希望ですんで」
最近はAIの進化が目覚ましく、職種によっては将来が危ぶまれるものも多い。
経理とかまさに心配ではあるんだけど。
特に三好さん、その分野強そうだし。ドローンとAIとか繋がり深いじゃん。
なんかいくつも特許持ってるとかどうとか。
俺プログラムとかまったく分からんのだけど、覚えた方が良いんだろうか。ITってなんだ。
そんな上級生を見て。
「私は2年生ですし、来年も参加したいと考えてます」
「ありがとうね。夏ころに映世の雪が強まらなきゃ良いんだけど」
映世で活動可能な人は以前よりも増えているけど、全員が上級に挑戦できるレベルには達していない。
「9月のシルバーウィークって三好さんが言ってたな」
「26年のは大型連休になるんだっけ?」
「5連だそうっすよ」
「ふへぇ、そうなんだぁ」
その頃になれば参加できる数も増えるだろうけど、この3人が不参加とあれば戦力の低下はどうしても出てくるか。
「姉ちゃん達もシーズンに移ってレベル1になるんで、どんだけ強化が進むかもあるっすね」
高橋さん並に活動できりゃ問題もないんだけど、大学生だって何かと忙しいだろ。
宮内は俺らを見渡して。
「今回で成功させよう」
「っすね」
「がんばろー」
初詣にはいかないけど、ロビーまではお見送りさせてもらう。
各自親御さんたちと合流するとのことだったけど。
「あれ、お父さんは?」
「三好さんと盛り上がっちゃってねえ」
そういえば同じ病明けどうし、なんか意気投合していたか。
あと宮内のご両親は年明けてから来るとのことです。
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皆を見送ったのち、俺は許可をもらってロビーの鏡祭壇から映世へと移っていた。
活動するわけじゃない。
五重の塔から一歩出て、しばらく〖雪】を見上げる。
「綺麗ですよね」
振り返ると、そこには美玖ちゃんが立っていた。
「私もこっちにすることにしました」
俺の隣に並んで、一緒に空を見上げる。
「初詣ですか?」
「境内にも敵はでますんで、五重の塔からは離れませんよ」
少し不満そうにして。
「鐘鳴らしに行きましょうよ、せっかくですし」
「ダメですって」
タワー寺の敷地内は数値がマイナス7となっている。
美玖ちゃんも本気ではなかったようで、あっさりと諦めてくれたけれど。
「年越しは雫さんと同じ場所でってことなら、もしかしてお邪魔でしたか?」
また踏み込んでくるなぁ。
「その気持ちはあったけど、邪魔だなんて思いませんよ」
「なら良かった」
共に過ごせることを迷惑だなんて。
「私ね。あの娘と一番のお友達だったんです」
「青の護衛っすか」
なんとなく話は聞いていた。
美玖ちゃんは麓の拠点にて、助けに行かなきゃとそのまま雪原に向かおうとして、宮内や姉たちに止められたらしい。
「彼女も好きだったのかな。もしそうなら、私って本当に自分のことしか考えてなかったんだと思う」
たぶん雫さんじゃなくて、青の護衛について言ってんのだろう。
「貴方が病気で死んじゃったあと、私ずっとふさぎ込んじゃってて。そのあいだアクアは仲間たちと一緒に魔族と戦ってたんです」
魔族や魔物が出現した世界に、どこからか現れた救いの集団。
日本人を先祖にもつ勇者の村。
各国が協力して魔族と戦った。
ただ強大な敵はそれだけじゃない。他の魔獣王が単独の強い個体だったのに対して、主鹿は種族の垣根を越えた群れを率いていた。
火炎団。特に赤火は主鹿との戦いに置いて、重要な役割を担っていた。
赤火長はその中で猫型の魔獣と戦い、片腕を失ったんだったか。
降る雪に手を伸ばし。
「今も私、自分のことしか考えてないや」
「辛い時に動けなくなる人もいれば、なにかに没頭しないとやってられない人もいる」
高橋さんはハクスラに救われたって言ってたけど、たぶんそういう事だったんじゃねえかな。
「自分のために頑張るのは悪いことじゃないっすよ」
他人のためとか言う奴より、ずっと信用できる。
「誰かのためになるかどうかは、そのついでで良い。最優先すべきは自分です」
美玖ちゃんは苦笑いを浮かべ。
「そう言いながら、私のために人生を捧げてくれた人を知ってるんですけどね」
「自己犠牲に見えても、自分のタメだったんすよ。少なくとも俺は自分のため以外には動きません」
勇者の護衛も、光の騎士も、アニキって呼ばれてた奴も。たぶん傭兵司祭だってそうだったはず。
「私のため、か」
手の平に落ちた雪は体温で水になる。
ギュッと握りしめ。
「もし浦部さんの記憶がもどっても、浦部さんは浦部さんのままなんですか?」
「……」
少し前まで、ずっとそんな不安はあった。
「たぶん俺は消えませんよ。間違いなく残りはします」
京都に来てから得た色んな情報を察するに、自分が雫さんに向けていた感情も想像はできてきた。
少なくとも高校生になるまでの俺は、彼女から見ればお子ちゃまで、早く大人になって欲しいと言われていた。
いや、願われていた。
「この1年。本当にいろんなことがあったっすね」
「はい。私たぶん一生忘れないと思います」
今年の終わりは刻々と近づいていく。
手鏡の確認をしてから、メイスと籠手の調子を確かめて。
「除夜の鐘。鳴らしに行きますか」
「えっ 良いんですか!」
鈍器を一度振り。
「108回っすね」
「私最近そればっかりなんで、煩悩を打ち消しましょう」
俺も美玖ちゃんも、悟りをひらくには程遠いな。




