どれが本物?
2026.10.18 改訂
日もすっかり沈んで暗くなってきたところで、クレアはルークから夕飯に誘われた。
いい場所を知っているということで、クレアは一緒に食べることにした。
『さすらいの商店街』を歩いてきた道を戻り、フレンティアの中心部の噴水まで行く。
中心部は身なりからして中流階級以上の人が出歩いていて、取り扱う商品も品質が高いものに変わっている。
そのまま噴水を中心に何本も伸びている道のうち、右に伸びる時計塔のあるほう──貴族街に行くかと思われたが、ルークは左に伸びる古びた教会がある方へ歩いていく。
先ほどとは打って変わり、歩く人々は新調したくてもできないくたびれた服をまとっている。
「ルークさん…道、合ってますか?」
今までの通ってきた場所と比べたクレアは道を間違えたのではないかとルークに問う。
先導していたルークはクレアの方を向くと、少しだけ傷ついた顔をしたように見えた。
貼り付いていた王子様スマイルが剥がれたのはこれが二度目だった。
ルークは黙ったまま、また前を向いて歩き始めた。クレアも何か聞いてはいけない気がしてついていく。
そうして、噴水から左の道をまっすぐ歩き続け、見えていた古びた教会までたどり着いた。
教会が古びているというだけで、周りの草は綺麗に刈り取られている。
ルークはノックもせずに教会の扉を開けた。
「……あ!ルークだ!みんな、ルーク帰ってきたよー!!」
「え」
扉を開けた先にいた男の子がルークを指差してそう叫ぶと、鳴りをひそめていた他の子供たちが一斉にルークに飛びついた。
飛びつかれた本人はいきなり現れた子供たちをしっかりと受け止める。
ルークは子供たちに好き放題にしがみつかれたり腕を引っ張られたりするものの、怒る気配はない。
むしろ、嬉しそうだ。
「……お前ら~~~っ!!今日も元気だな!」
やがて抑えられなくなったのか、ルークはクレアと話していたときとは反対の、砕けた口調で子供と接しはじめた。
子供たちの頭をくしゃくしゃに撫でたり肩車をしたりして、無邪気に相手し始める。
その顔は先ほどの悲しそうな顔でも案内のときの胡散臭い王子スマイルでもない、少年っぽさが残る優しい顔だった。
クレアはこの顔が素だとすぐにわかった。
一歩後ろでルークの姿を見ていたクレアは、奥にある扉から出てきたシスターと目が合った。
白髪の進み具合や手の様子から七十歳ほどだと思われる、物腰柔らかそうなシスターだ。
シスターはクレアとルークたちを見ると、状況を察して大きな声を出した。
「ルーク!子供たちと遊ぶのはいいけど、やることをちゃんとやってからにしなさい!昔から何度も何度も言っているではありませんか!子供のときからあなたは変わりませんね……」
優しそうな顔からは想像できなかった、般若のような怒り顔にその場にいたみんなで固まる。
ルークもシスターの怒りに子供たちとじゃれ合う手を止め、頭をかき苦笑いをしながらシスターと向き合った。
「あ、あぁー。シスター、ごめん。久しぶりだったからつい……」
「つい、じゃありません」
「はい……」
王子様のように完璧に見えたルークがシスターに怒られてしおれているのを見ると、本当の親子のように仲睦まじいようだ。
クレアが二人のやりとりにくすりと笑うと、足元に何かが当たる感触がした。
下を見ると、さっきまでルークとじゃれ合っていた子供たちだった。
ルークが怒られているせいで遊ぶ相手を変えにきたのだろうか。
子供たちはひっつき虫のようにクレアの周りを取り囲んだ。
「なあ、ねーちゃんはルークの友だち?」
「あ、ルークさんは……」
「ばか、ちがうだろ。こんなきれいなねーちゃん、ルークと友だちなわけねーよ」
「はぁ?」
「えっと、」
「おねえさんは、ルークの『こいびと』でしょ?」
「えー!?わたし、ルークのおよめさんなのに……」
「あの………」
子供たちはクレアのことお構いなしにルークとの関係を勝手に話していく。
クレアは年下の子供と接する機会がこれまでなかったため、どのように話せばいいのか分からず、しどろもどろする。
そうして、クレアは困りに困った末、買ったばかりのローブのフードをかぶって固まった。
ようやくルークを説教し終えたシスターが子どもたちを散らすまで、クレアは石のように固まって動かないでいた。




