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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
1章 商業都市フレンティア
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ある男の過去 (ルークside)

「クレア、そろそろ固まるのをやめてもいいですよ」

「………」

「クレア?」


俺は固まってしまったクレアから子供たちをシスターに任せて話しかけたが、全く返答がない。

今日俺がクレアに見繕った新しいローブのフードをかぶって俯いているせいで、俺からクレアの表情は見えない。

ただ、戸惑っているのはわかる。


(やっぱり、驚かせたか…)


俺はここにきてクレアを連れてきたのを少し後悔した。


俺は昼ごろ、クレアの旅の終点を聞いて自分で墓穴を掘ってしまった。

あのあと、クレアは誰もアナスタシア王国だと思うはずがないから仕方がないと言っていたが、彼女の表情は仕方がないで済まされないほど苦しそうだった。


わざわざ苦しそうな顔をしてまで行く理由や、旧国名のアナスタシア王国と言う理由、約束の内容。

聞きたいことは山ほどあるけど、クレアには質問できない圧を感じた。

15歳だと言っていたが、一体何があったらこんなに大人びた顔をするのか。はなはだ不思議でならなかった。


15歳で旅をしているのは珍しくないが、この歳で1人で旅をしていることは珍しかった。

城門でテッドを魔法で捕まえたと言っていたし、相当な魔法使いだとは思うが、危険すぎる。

15歳といえど、彼女はまだ子供だ。

うちの商人は売り込むのが仕事だから、テッドを捕まえてくれた恩人が何でもかんでも買わされていたら夢見が悪い。

だから、案内役を買って出た。


俺の外面が胡散臭かったのか、最初は嫌がられたが、俺の働きぶりで見直してくれたようだった。

時折見せる子供らしい表情もあって、まだ希望があると思えた。ちゃんと楽しむ心があるなら、きっとこの先の旅も大丈夫だろう、と。


図らずともクレアの旅の終点を聞いて、聞いていい境界線を踏み越えてしまった。

だからこそ、こちらも何か明かしたほうがフェアだと思ってここ____孤児院まで連れてきた。



俺はフレンティアで警備を担当していて、俺のことを知らない人は外面を見ただけで俺を『王子様』に位置付ける。

金髪で顔立ちも整っているほうだからなおさらそう思わされるのだろう。


でも、俺は生粋の商人だった親に商売の邪魔だと見捨てられた孤児で、ガキの頃は盗みなんてしょっちゅうだった。

そうでもしないと家なしの俺は何も凌ぐことができなかった。

顔がいいのを使って中流貴族に取り入って金目のものを盗むこともあった。そのせいで、よくない連中に目をつけられて集団リンチされることも多かった。



それで死にかけたときに、ここの孤児院に拾ってもらった。

盗みばっかで、人のことを信じきっていなかった俺に、シスターは『優しさの魔法』を教えてくれた。

礼儀正しく、毎日自分のことを自分でやり、間違えたときは素直に謝る。困っている人を助け、自分が困ったときは素直に助けられる。

今思えば俺に集団生活を身につけさせるためのもので、『魔法』でもなんでもなかったんだろうけど、

当時魔法に憧れていた俺はシスターの『魔法』を習得しようと必死になった。


おかげで盗みばっか働いてた俺は改心して、今まで盗んできた店に謝ることもした。

そんときの店の中にはルセの旦那の店もあった。

あの店は謝りにきた俺のことを笑顔で迎え入れて謝ったあとはアメをくれて、「またおいで」と言ってくれた。

他の店は謝りに行っても怒鳴られることが普通だったからそんときは不覚にも泣いてしまった。



だから、俺は『王子様』なんて言われるほどの綺麗な人間じゃない。地面を這いつくばって性懲りも無く生きてきた孤児だ。


クレアはこんな俺のことをわかってくれるだろうか。


そう思って孤児院に連れてきたが、ここに来る途中で

道を間違えていないか問われたときは、君も『王子様』だと思っているんだと落胆してしまった。

そんな風に思う資格もないし、今までその面しか見せていなかったから仕方がないのだろうけど、少し胸が痛んだ。


会ったばかりなのに信じきってしまうなんて、俺もぬるくなったと思ってしまった。

でも。



俺は目の前で固まっているクレアを見てふっと笑った。

そして、クレアをお姫様抱っこの要領で抱き抱えた。


「ここだと風邪をひきます。中へ入りましょう」

「………!〜〜〜〜っ!!!?」


俺は孤児院に来て、さっきクレアが笑ってくれたのを見たから、それだけで十分救われたんだ。


俺に抱き抱えられているのに気づきやっと我に返ったクレアは、驚きながら俺の胸を弱くたたいた。

俯いていた顔をのぞくと、少し顔が赤かった。




………まだまだ子供だなぁ。

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