暴露 (ゼルナside)
2026.10.18 改訂
すべてを言い切ったメイウェル伯爵は、クレアさんの手を掴んだ。
「私は全部言ったぞ!だからっ、早くアレをどうにかしてくれ!!」
解放される安堵と、アメリア嬢が治る喜びとが混ざり合って、メイウェル伯爵の表情はこれ以上ないほどに綻んでいた。
正直言ってあまり近づかないでほしいくらい気持ち悪い。
クレアさんはヒルゼ様のほうを向いて、
「案内してください」
とお願いした。
一連の流れを近くで、黙って見ていたヒルゼ様は、クレアさんを複雑な表情で見つめた。
そして、どうにもならないと考えることを止めるように息を吐いて、取り調べ室を出た。
「全知全能だぁっ!!」
地獄絵図だった。
アメリア嬢を軟禁していた部屋で、アメリア嬢は例のポーズをしながら意味のわからないことをずっと言っていた。
聞くところによると、軟禁してからずっと今までこの状態らしい。
様子を一目見に来たメイウェル伯爵は、娘の変わり果てた姿に一層顔面を青くして、クレアさんにすがりつこうとする。
すんでのところでヒルゼ様が止めてくれたけど……、メイウェル伯爵はプライドがないのだろうか。
黙ってアメリア嬢を見ていたクレアさんは、静かに部屋の中へ入った。
突然のことで、誰もクレアさんを止められなかった。
扉と反対側にある窓に顔を向けて、例のポーズのまま叫んでいるアメリア嬢は、クレアさんが入ってきたのもわかってないようだった。
クレアさんはアメリア嬢の視界に映るように、目の前まで歩いて、止まった。
アメリア嬢は目の前に立つクレアさんを見て、クレアさんを指さして「あぁぁぁぁっ!!!」と叫んだ。
こちらからではアメリア嬢の顔は見えない。
一体何が起きたんだろうか。
クレアさんが何か言おうとしたのと被せるように、アメリア嬢が口を開いた。
「お、お前!『銀の魔法使い』!!知ってる、知ってるぞ!!」
しん………と静まり返った部屋の中で、アメリア嬢だけが、僕たちの方を向いてクレアさんを指さし、騒ぎ立てて、その言葉が周りにいる全員に届く。
「お前のせいでたくさん死んだ!!なのにガイアの、ガイアの慈悲を馬鹿にした!!」
「知ってる、知ってるぞ!お前の名前も、お前の過去も、全部全部全部!!!ガイアが教えてくれた!!!」
「欲しい!!!差し出せ!!!」
「ははは!怖いのか?さっきから動いてないぞ!」
「お前はあの日クレアを───ッ」
『閉じろ』
罵倒され続けていたクレアさんが最初に発したのは、魔法だった。
アメリア令嬢の口は閉ざされ、喋ろうと思っても口を開けないでいる。
「後悔しない日はない。私のせいで、みんな苦しむ」
俯いているクレアさんの顔は見えない。
でも、声が傷ついているみたいだ。
後ろに立つクレアさんはアメリア嬢に近づいて頭に手を置いた。
アメリア嬢は触れられたくないらしく、とんでもなく暴れるが、クレアさんはお構いなしに魔法でアメリア嬢を縛り上げた。
そして、もう一度頭に手を置いた。
『解呪』
クレアさんのひと言で、あたりは黄金色に包まれて何も見えなくなる。
眩しくて、きゅっと目を瞑り、次に目を開けたときには、クレアさんの腕の中で脱力したアメリア嬢がいた。
そして、数秒してアメリア嬢が目を覚ました。
「あら……ここは?貴方は……?」
先ほどとは打って変わって清楚なアメリア嬢に、僕を含めた皆で目を白黒させた。
貴族と関わることは平民の僕たちには少ないことだから、アメリア嬢の本来の性格を知らなかったことが多分原因だ。
あたりを見回して、なぜここにいるのかわからないでいるアメリア嬢に、メイウェル伯爵が駆け寄った。
クレアさんを押し退けて。
「アメリア……ッ!本当に、よかった……!」
「お、お父様?一体何が……」
ここだけ切り取れば、娘の完治を喜ぶ家族想いな伯爵だ。
でも、クレアさんを押し退けたことが、すべてを無に帰している。
メイウェル伯爵はクレアさんを一瞥した。
「化け物め」
娘の恩人になんてことを言っているのだろう。
化け物?
どうして、こんなに恩知らずなんだ。
僕は思わず怒りに震えた。
クレアさんがこんなことを言われる筋合いはないのにどうして彼女に、しかも15歳の、歳下の少女に酷いことが言えるんだ。
傷ついているのではないかと、クレアさんの顔を伺うと、クレアさんは蔑みのこもった瞳を向けて微笑んでいた。
「……治ったら駆け寄るんですね」
クレアさんはそれだけ言って、部屋を出て行った。
部屋には、クレアさんを無礼だと非難するメイウェル伯爵と、状況を掴めていないアメリア嬢、そしてギャラリーの警備員たちが残り、空気は最悪を極めてしまった。
クレアさんの話が本当なのかとざわめき出した。
居心地が悪くなった僕は、クレアさんが気になって、すぐに後を追った。




