境遇 (ゼルナside)
来た道を戻っていくと、クレアさんは警備舎のエントランスを出ようとしているところだった。
「クレアさんっ」
僕の呼びかけに、クレアさんは体を震わせてこちらを向いた。
口角は上がっているけれど、無理しているようにしか見えない。
こんな僕でもわかるくらいだ。
自覚しているはず。
まだ、15歳なのに。
僕はクレアさんが何も言わなかったことが嫌だったのかもしれない。
「怒っていいんですよ」
僕が少し強めの語気で言ったからなのか、クレアさんは少し驚いたように目を丸くした。
でも、すぐに力無く笑った。
「ありがとうございます。でも、慣れているので」
そう言って、クレアさんはまた顔を逸らした。
慣れていいはずがないのに、一体どんな生き方をしたらこんな風に諦めをつけてしまうのだろう。
(あ………そうか)
そこまで考えて、どうして気づかなかったんだろう。
僕は、故郷にいたころの扱いを忘れるはずがないのに、忘れてしまっていたんだ。
武力がすべての南部に生まれて、魔法に適性があるからという理由で、南部を出るまでずっと差別されてきた。
最初は、どうして僕だけこんな目に遭うのか、と人生を悲観して魔法を嫌った。
でも、僕と同じ境遇の仲間が南部にいて、差別を受けながら生きてきて。
仲間が自殺していって、何度も侮蔑されてきた。
ひとり残されて、僕も今のクレアさんのように慣れてしまっていた。
何も言わずに耐えることに。
ここに来なかったら僕はクレアさんと同じままだったのかもしれない。
でも、ここはあたたかい。
クレアさんもわかってると思う。
だからこそ、怖いんだろう。
迷惑をかけてしまわないかとか、気持ちが抑えられなくなるかもしれないとか。
僕が声をかけようと顔を上げたとき、クレアさんは僕を見ていた。
突然黙ってしまって心配だったのだろう。
本当に優しい人なんだ。
僕は自分の手に力を込めて、口を開いた。
「慣れていい痛みはない……と、昔ハース隊長が教えてくれました。自分の心を傷つけて抑え込んでしまうなら、誰でもいいから話せ、と。
その、僕じゃ頼れないかもしれないですし、本当に誰でも、ハース隊長でも、ヒルゼ様やセイエ様、それにルーク隊長でも、ここにいない貴方の大切な人でも誰でもいいので。
抑える前に誰かに話して、心を軽くしてください。
僕はハース隊長に言われてから、不満を言うようになって、ハース隊長が笑って背中を叩いてくれるのでちょっと心が軽くなりました」
途中で恥ずかしくなって少し笑ってしまったけど、言いたいことは言えたと思う。
僕の言葉でどうにかなるわけでもないかもしれないけど、いつか思い出してくれるときがあったらいいと思う。
クレアさんはまた驚いた顔をしたけれど、僕の思いを汲み取ったように笑ってくれた。




