暴露 (ゼルナside)
すべてを言い切ったメイウェル伯爵は、クレアさんの手を掴んだ。
「私は全部言ったぞ!だからっ、早くアレをどうにかしてくれ!!」
解放される安堵と、アメリア令嬢が治る喜びとが混ざり合って、メイウェル伯爵の表情はこれ以上ないほどに綻んでいた。
正直言ってあまり近づかないでほしいくらい気持ち悪い。
クレアさんはヒルゼ様のほうを向いて、
「案内してください」
とお願いした。
一連の流れを近くで、黙って見ていたヒルゼ様は、クレアさんを複雑な表情で見つめた。
そして、どうにもならないと考えることを止めるように息を吐いて、取り調べ室を出た。
「全知全能だぁっ!!」
「ふふふ、ガイアが世を正すんだ!!」
「早く、いかないと!!あぁ、ガイア!!」
地獄絵図だった。
アメリア令嬢を軟禁していた部屋で、アメリア令嬢は例のポーズをしながら意味のわからないことをずっと言っていた。
聞くところによると、軟禁してからずっと今までこの状態らしい。
様子を一目見に来たメイウェル伯爵は、娘の変わり果てた姿に一層顔面を青くして、クレアさんにすがりつこうとする。
すんでのところでヒルゼ様が止めてくれたけど……、メイウェル伯爵はプライドがないのだろうか。
黙ってアメリア令嬢を見ていたクレアさんは、静かに部屋の中へ入った。
突然のことで、誰もクレアさんを止められなかった。
扉と反対側にある窓に顔を向けて、例のポーズのまま叫んでいるアメリア令嬢は、クレアさんが入ってきたのもわかってないようだった。
クレアさんはアメリア令嬢の視界に映るように、目の前まで歩いて、止まった。
アメリア令嬢は目の前に立つクレアさんを見て、クレアさんを指さして「あぁぁぁぁっ!!!」と叫んだ。
こちらからではアメリア令嬢の顔は見えない。
一体何が起きたんだろうか。
クレアさんが何か言おうとしたのと被せるように、アメリア令嬢が口を開いた。
「お、お前!銀の魔法使い!!知ってる、知ってるぞ!!」
しん………と静まり返った部屋の中で、アメリア令嬢だけが、僕たちの方を向いてクレアさんを指さし、騒ぎ立てて、その言葉が周りにいる全員に届く。
「アナスタシア王国を追放された出来損ない!!ガイアの、ガイアの慈悲を馬鹿にした!!死んでしまえ!!!」
「知ってる、知ってるぞ!お前の名前も、お前の過去も、全部全部全部!!!ガイアが教えてくれた!!!」
「ガイアはお前を裁くために、私にすべてを与えたんだ!!!殺してやる!!殺してやる!!」
「死んで償え!出来損ない!!!」
「ははは!怖いのか?さっきから動いてないぞ!」
「お前はあの日、多くの人を犠牲にした!!そして、お前はクレアを、」
『閉じろ』
罵倒され続けていたクレアさんが最初に発したのは、魔法だった。
アメリア令嬢の口は閉ざされ、喋ろうと思っても口を開けないでいる。
「たしかに多くの犠牲を出した。後悔しない日はない」
俯いているクレアさんの顔は見えない。
でも、声が傷ついているみたいだ。
後ろに立つクレアさんはアメリア令嬢に近づいて頭に手を置いた。
アメリア令嬢は触れられたくないらしく、とんでもなく暴れるが、クレアさんはお構いなしにアメリア令嬢を縛り上げた。
そして、もう一度頭に手を置いた。
『解呪』
クレアさんのひと言で、あたりは黄金色に包まれて何も見えなくなる。
眩しくて、きゅっと目を瞑り、次に目を開けたときには、クレアさんの腕の中で脱力したアメリア令嬢がいた。
そして、数秒してアメリア令嬢が目を覚ました。
「あら……ここは?貴方は……?」
先ほどとは打って変わって清楚なアメリア令嬢に、僕を含めた皆で目を白黒させた。
貴族と関わることは平民の僕たちには少ないことだから、アメリア令嬢の本来の性格を知らなかったことが多分原因だ。
あたりを見回して、なぜここにいるのかわからないでいるアメリア令嬢に、メイウェル伯爵が駆け寄った。
クレアさんを押し退けて。
「アメリア……ッ!本当に、よかった……!」
「お、お父様?一体何が……」
ここだけ切り取れば、娘の完治を喜ぶ家族想いな伯爵だ。
でも、クレアさんを押し退けたことが、すべてを無に帰している。
メイウェル伯爵はクレアさんを一瞥した。
「お前がそんなに恐ろしいやつだったなんて知らなかったぞ!娘が治ったからいいものの……お前は化け物だ!」
娘の恩人になんてことを言っているのだろう。
化け物?
どうして、こんなに恩知らずなんだ。
僕は思わず怒りに震えた。
クレアさんがこんなことを言われる筋合いはないのに、どうして彼女に、しかも15歳の歳下の少女に酷いことが言えるんだ。
傷ついているのではないかと、クレアさんの顔を伺うと、クレアさんは蔑みのこもった瞳を向けて微笑んでいた。
「……治ったら駆け寄るんですね」
クレアさんはそれだけ言って、部屋を出て行った。
部屋には、クレアさんを無礼だと非難するメイウェル伯爵と、状況を掴めていないアメリア令嬢、そしてギャラリーの警備員たちが残り、空気は最悪を極めてしまった。
クレアさんの話が本当なのかとざわめき出した。
居心地が悪くなった僕は、クレアさんが気になって、すぐに後を追った。