守るから (ルークside 有)
2026.10.18 改訂
表現下手ですが、バイオレンスなシーンが出て来ます。ご注意ください。
思っていた通り、テッドはあの男と手を組んでいる。
テッドは扉を勢いよく開けて、俺を見つけるや否や、ニタリと笑った。
悪寒が走る。
リリーだけは守らないと。
俺はリリーを抱き寄せ、扉の反対側の壁に寄ってテッドに背を向ける。
今にも走り寄って来そうなテッドを、後ろから袖を引っ張る人がいた。
「ほ、本当にやるのか?鎖もついているし十分じゃないか!」
中年近い声だ。
少しずつ目が慣れてきて、水色の短い髪を小綺麗になでつけた頭の、中肉中背の弱々しい男───メイウェル伯爵だった。
テッドは煩わしそうにメイウェル伯爵の手を払い落とした。
メイウェル伯爵は向かってくるテッドに小さな悲鳴をあげながら後ずさる。
「俺のことを解放したのはアンタだろ?
今さら何を怖がってんだよ」
「わ、私は、アメリアに頼まれてっ、」
「でも、俺を利用する目的もあっただろ?」
「そ、それは………」
メイウェル伯爵の体中から汗が流れているのが遠くからでもわかる。
信じられない光景だった。
報告会の段階ではメイウェル伯爵は、娘のアメリア令嬢の頼みを断りきれずに、しぶしぶテッドを解放したと思われていた。
しかし、今の会話を聞く限り、それだけではないみたいだ。
テッドを解放してメイウェル伯爵が得られる利点はなんだ?
デメリットの方が大きい気がするが───
バキィッ!!
何かが殴られる音が聞こえて顔を上げると、メイウェル伯爵が右頬を押さえながらうずくまっていた。
テッドが殴ったようだ。
「俺に逆らうな!そしたら俺もお前に協力してやるよ」
「ひぃ………」
メイウェル伯爵は腰を抜かしている自分の足を奮い立たせて逃げていってしまった。
テッドはメイウェル伯爵を殴ったと思われる右腕を回しながらこちらを向く。
「邪魔もいなくなったし……楽しませてもらおうか。お前に捕まえられてから、お前にはずっとムカついてたんだよ………」
リリーが震えながら俺に強く抱きついた。
────────────
バキッ、ボコッ
バキッ!!
ドゴッ
「おいおい……こんなもんかよぉ!?」
バキッ
視界が霞む。
息が切れる。
あいつ、今なんて言った?
耳が聞こえない。
あれからどれだけ殴られた?
全身が痛いはずなのに、もう何も感じない。
体が、熱い。
はっ、こんなん、絶対折ってるだろ……。
腕の中で、リリーが震えてる。
大丈夫って、言ってやらないと。
リリーは心配性だから………。
でも、もう力が、入らない……………
もう、寝てもいいかな。
ドサッ
「…………おや、これはまた……派手にやりましたね」
再び扉が開いたのは、ルークが殴られてから1刻、ルークが倒れる瞬間だった。
フードを目深にかぶった男は部屋に入り、テッドに近づくと、テッドは男に両膝をついて、手の甲を重ね、体の前で四角を作るように腕を突き出した。
「エルセ様ッ!是非、俺に全知全能の力をッ!!」
テッドの狂信的な懇願に、エルセと呼ばれた男はテッドを蔑む。
(不潔な犬………まあ、いいか)
男はふっと笑ったかと思うと、テッドの頭に手を置き呪文を唱えた。
呪文が紡がれるたびに、テッドの顔はどんどん綻んでいく。
「あなたは今、『全知全能』を手に入れました。これからもガイア様の教えに従いましょう」
「はいッ!!!!」
本当に従順になった。
男は最初の頃のテッドと比べて、また笑った。
「そうですねぇ……手始めに、そこの女の子を殺しましょうか」
「………………ぇ」
そう言った男は視線の先───リリーを指差した。
突然鬼に見つかったような恐怖に、リリーは体をびくりと大きく震わせた。
テッドはぐるんっと頭をリリーの方へ向けて立ち上がる。
テッドの巨体は、リリーにはどこまでも伸びる壁のように大きく、金縛りに遭ったようにリリーは体が動かなくなった。
「お、おじさん……?」
リリーを連れてきたときの優しさはない。
リリーは、近づいてくるテッドを見ていることしかできない。
リリーのはるか頭上でテッドが腕を上げる。
リリーはテッドの腕が振り下ろされる瞬間が、とてもスローモーションに見えて、頭の中が真っ白になる。
(もうダメ───)
リリーがぎゅっと目をつぶったのと、
ゴッ
と鈍い音が聞こえたのはほぼ同じだった。
「っな、コイツ…………!!」
「………へぇ」
鈍い音に続いて聞こえたテッドの怒りに震えた声。
リリーはいつまで経っても痛くないことを不思議に思って、そろそろと目を開ける。
リリーはその場で固まってしまった。
リリーを庇うように覆い被さったルークが、息を切らしながら、頭から血を流していた。
ルークがまだ動けることが予想外だったのか、テッドは鬼の形相でルークを見る。
ルークは咳き込みながらリリーをまた抱きしめ直して、テッドを睨んだ。
「昔から、サンドバッグには…慣れてんだよ……。だから、……………リリーには手を出すな」
ルークの執念深く鋭い眼光の強さにテッドは少し怯む。
しかし、テッドはまたニタリと笑った。
「こんなボロいサンドバッグ、殴りがいねぇだろ!!殴らせろ………邪魔しやがって………!」
そう言ってまた、テッドからの一方的な暴力にルークが耐えはじめた。
リリーは涙を流しながらルークの服を掴む。
「ルーク……、たおれちゃうよ…………」
「はは……リリー、お前は俺が絶対に……守るから」
ルークはリリーに笑ってみせる。
リリーはルークから目を逸らしてうつむく。
とってもくるしそう。
リリーのせい?
リリーが子どもだから、ルークがたおれちゃう。
やだよ。ルークは、いつも、リリーのはなしをきいてくれて。
リリーがねるまで、手をにぎってくれて。
みんなにやさしくてかっこいい、おにいちゃんなのに…………!
ルークがたおれるのはやだ。
でも、リリーじゃなにもできない。
「クレアさんたすけて………………!」
リリーは誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
「その願い、確かに聞き届けました」




