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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
1章 商業都市フレンティア
21/54

クレアといっしょ (孤児院side)

時は、リリーが孤児院を出たときにまで遡る。



「クレアさん、ばいばーい!!」

「……またね」


クレアは元気いっぱいに手を振ってくるリリーに、控えめに手を振って送り出した。


リリーたちの姿が見えなくなると、クレアはひとつ、大きなあくびをした。

夢見が悪く、冬にしては汗だくで起きてしまったのだ。


(途中でいい夢を見てた気もするけど……)


夢を思い出せないクレアは、服を着替えるために中に戻った。




















「見つけた」


ローブをまとわず、銀髪をなびかせながら孤児院の中へ入っていくクレアを見て誰かがそう言った。














「クレアさんあそんであそんであそんであそんであそんでー!!!!」

「あそぼうよー」


着替えを終えてローブをまとい、フードを被ったクレアが出てきた途端、待ち構えていた4人くらいの子供たちが、クレアの足もとに抱きついてきた。

人見知りしない子供たちは、無邪気にクレアにくっついている。


(……あたたかい)


クレアはフレンティアに来てから、あたたかい人たちに囲まれていて、心が凪いでいた。

しかし、クレアが子供たちにどう触れ合えばいいか困っているのは変わらずだった。


まったく離れない子供たちにクレアが困っているのを見て、階段を登ってきた若いシスターがやってきた。

孤児院はシスターが不在の間、若いシスターが数人代わりに留守番を任されていた。


「みんな~?クレアさんが困っちゃってるでしょ?お手てをつなぐくらいにしましょうね~」

「えぇ~!やだやだやだやだ!!まほう見たい見たい見たい!!」


駄々をこねる子供たちが一層クレアに強く抱きつく。

若いシスターは困ったように自分の頬に手を当てた。


「あらあら……ごめんなさいね、クレアさん」

「いえいえ!皆優しくて、嬉しいのですが……どう、触れ合えばいいのかなって……」

「そうだったの?それなら、この子たちが言うように魔法を少し見せてあげるだけでも喜ぶわよ!

お話しできなくても、魔法で心がつながることだってあるでしょう?」


若いシスターに聞かれて、クレアは言葉が出なくなった。

クレアは遠い昔を見てどこか懐かしいようで、つらそうな顔をしていた。

フードを被っているため、他の人には見えなかっただろう。

クレアは少しうつむいて、若いシスターにこくりと頷いた。








「「「「わぁ………!!」」」」


子供たちは目の前の光景に感嘆の声を上げた。

あれから、クレアは魔法を見せると言って子供たちと庭に移動した。

実は自分も見てみたかったのだと、若いシスターもついてきた。


どの魔法がいいかと思案していたが、どんな魔法でも喜ぶと若いシスターが言うので、クレアは誰も傷つけない簡単な魔法を披露することにした。


今、庭にはクレアが生み出した色とりどりの光がそれぞれ形を変えて楽しそうに浮いている。

紫色の光をしたうさぎや、赤色の光の花など、その美しい光景はまさに楽園で、子供たちが感嘆するのも納得する。


子供たちは光に群がって、そこら中に舞う光を掴もうと手を伸ばしている。

クレアはその光景を少し離れたところで座って見ていた。








「皆、クレアさんにお礼は?」

「「「「クレアさんありがとうございました!!!」」」」

「……ふふ、どういたしまして」


あれからクレアの出した光の魔法以外も見たいと言われて、小さな花火を見せたり、息ができる水の球体に子供たちを入れて浮かばせたりした。


気づくと夕暮れごろになっていて、子供たちはお礼を言うと夕飯の準備を手伝いに庭を後にした。


クレアも子供たちの後を追って庭を去ろうとすると、魔法を見ていた若いシスターが頬に手を当てていた。


リリーたちが帰ってこないという。

今日は中央地区の孤児院で交流を終えたら、昼を少し過ぎた頃には戻ると言われていたらしいが、夕暮れになっても帰ってきていないことを不安に思っているようだ。


「何かあればシスターが一報を出すはずですが、それもなくて……」

「それは……困りましたね」


全てのシスターは魔法使い並みの魔力がなくても、神聖力と呼ばれるゼウスに与えられた神聖な力で魔力を補うことで、生活魔法と伝達魔法が使える。

しかし、それ以外の魔法は人を傷つけるとして神聖力で補ったとしても使えないようだ。

有事の際は必ず伝達魔法で一報を出すはずが、それすらないとなると、シスターの身に何かあったのかもしれない。


ここの孤児院のシスターは、魔力は少ないが神聖力が結構強い方らしく、不審者が立ち入ることができないように神聖力でも難しい結界を毎日張っているらしい。


それほどの実力者ならば、身の危険があっても結界を使ってなんとかできそうだが、一体何があったのだろうか。




若いシスターは帰ってくることを信じて全員分の夕飯を用意してくる、と言ってその場を去った。

クレアは昨日の夜のように庭に留まった。


橙色に染まる空に孤児院の反対側に建つ時計塔が映えている。

夕焼けの逆光で、時計塔から何時なのかはわからないが、時計塔の縁が夕焼けに照らされて黄金色に輝いているのがとても美しい。


クレアがその光景に見惚れていると、視界に黒い蝶が見えた。

蝶にしては見ない色だと思って、クレアは無意識に目で追ってしまう。


そのまま眺めていると、クレアは蝶の何かが揺れているのを見た。

蝶自身はふわふわと舞っているだけだが、蝶の周りの時空が揺らいでいるのだ。




(____魔法だ)




クレアは察した瞬間に、蝶に手を伸ばすことなく蝶を燃やしてしまった。

跡形もなく蝶が燃え尽きて何もなくなる。


クレアは神経を研ぎ澄まして探索魔法をかけた。

クレアの探索魔法はゼルナより性能が高く、半径3キロまで人だけでなく、魔力の残滓や魔物を辿ることができる。

しかし、気づくのが遅かったのか、それとも遠い場所からの魔法だったのか、クレアの探索に引っかかることはなかった。




「……2日以内に発ったほうがいいかな」




クレアは少し残念そうな顔で空を見上げていた。

空は雲がひとつも浮かんでいない、綺麗な橙色だった。




















「……おや、気づかれましたか」


黒い蝶を燃やされたことに気づいた誰かは、膝元で眠るリリーの頭を撫でながら呟いた。

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