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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
1章 商業都市フレンティア
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報告

それから夕の刻まで巡回を続けたが、あの男以降は目立った騒ぎは起きなかった。


月の刻のグループとの入れ替わりと報告を兼ねて、俺たちはフレンティア警備舎に戻った。

フレンティア警備舎に入ってすぐ、見た光景に目を見張った。

およそ10人近くの人が縛り上げられた状態で倒れて…いや、死んでいた。

服装も性別も、年齢もバラバラだ。

その中には、俺たちの目の前で血を吐いて死んだローブの男もいた。


警備舎に帰ってきた皆がこの光景に驚いていた。


「全員帰ったか」


奥から出てきたヒルゼ様は、数時間前よりも憔悴していた。

後ろをついて出てきた隊員も明らかに疲れていた。


今この場には、今回の計画に協力してグループ分けされた人員がほぼ全員いた。

まさかとは思った。


俺が唾を飲むと、ヒルゼ様は眉間を揉みながら口を開いた。


「あー……今目の前の遺体を見れば分かるとおり、これは今日派遣した先で犯罪をした奴らだ。そんで、こいつらは全員発狂と謎の言葉の末、吐血して死んだ。

偶然とは思えないくらいタイミングが合いすぎている。

今回の件は、ルークの班から大陸魔法使い協会の関連があるかもしれないと言われて、魔法使いの方も調査してる。明日には何かわかると思う。


貴族の方も調査したんだが、目ぼしい奴がいなくてな………」


ヒルゼ様が言葉に詰まっていると、隣に立っていた商業地区特別部隊副隊長のセイエ様がヒルゼ様の背中を叩いた。叩いた音はポンではなく、バシンッと警備舎中に響くほどの強さだった。


藤色の長髪を後ろで高くまとめているが、顔が清楚寄りでしかも女性のため、ヒルゼ様と互角の力があることをいつも錯覚しそうになる。


ヒルゼ様はセイエ様に叩かれても「なんだ、かゆいな」というくらいにさする。

お二人夫婦にしかわからないアイコンタクトを交わして、ヒルゼ様はしぶしぶ続けた。


「………テッドと仲の良いほとんどの貴族は、今南の方に居るらしくてな。テッドが身柄を拘束されたときもそっちに居た。

あいつの解放なんて仲のいい貴族以外いないと思ったんだがな……」

「だから貴族全員を調べろって言ったんだがなぁ?なのにお前ときたらめんどくさがって……」

「ぐっ……」


セイエ様はヒルゼ様を情けないと言うように肩をすくめた。

そして、しゅんと巨体を縮めるヒルゼ様を押しのけて前に出た。

しっかりと尻に敷かれている。

セイエ様は持っていた丸められた大きな紙を机の上に広げて皆に見えるように置いた。


「これは貴族街の警備隊と協力して私が調べた貴族の最近の動きだ。

さっきヒルゼが言ったとおり、テッドを懇意にする貴族で財に余裕がある奴らは、随分前から全員南の別荘に行っているようだ。

年越しの社交シーズンが始まる前に着くように行ったんだろうな。


つまりはテッドを逃したやつが他にいるってことだ。そこで、他の貴族も調べさせてもらった。紙を見てくれ。

この紙には貴族の名前と出入りした場所と日付が書いてある。

高位貴族と下級貴族は昨日、商業地区に降りてきている。

その中の貴族の姿絵を用意して、昨日テッド解放を求める貴族の対応をした門番に見せたところ……


メイウェル伯爵だとわかった」


警備舎内がざわつく。

メイウェル伯爵は、このフレンティアの商業に貢献してきた歴史ある貴族だ。


最近は検閲を緩くしてもっと商業を発展させようとするハレシュ侯爵と、

今までどおりの検閲で品質と安全性を維持した商業を継続したいメイウェル伯爵とで政策がわかれ、

商業に関する政治が滞っていた。

しかし、横領がバレて前侯爵が隠居すると同時に、貧困街の対策を充実させて、右肩上がりで信頼を回復しているハレシュ侯爵の政策の支持者が増えてきて劣勢のようだ。

互いの仲も悪くなったと聞いていた。


ハレシュ侯爵の黒い噂は回復と同じように広がっているから、関連するならハレシュ侯爵の方が妥当だ。

質素倹約、悪に手を染めてこなかったメイウェル伯爵に限ってそんなことがあるのだろうか。


俺以外もきっと同じことを思っている。

メイウェル伯爵はそれだけ誠実な人間として認識しているから。

俺たちの動揺に、セイエ様は同調して続ける。


「お前らも、メイウェル伯爵に限って悪事に手を染めることはない考えているだろう。

私も気になって調べてみたんだが……

どうやら、愛娘のアメニア令嬢がテッドと恋仲のようだ。

確かな情報ではないが…手がかりにはなる。


伯爵も大方、愛娘の頼みでしぶしぶ解放したんだろう。

明日、乗り込んで事情聴取をする。


以上だ。質問はあるか?」


セイエ様が話し終えて質問を受け付けるが、皆状況に追いついていないようだった。


俺も正直、あのテッドに恋人が、しかも貴族令嬢の恋人がいるとは思いもしなかった。


その様子にセイエ様は大きくため息をついてから、

パンッ!と、一度手を叩いた。


驚いて顔を上げると、セイエ様は清楚な顔に似つかない鬼の形相で俺たちを見ていた。

隣にいた特別部隊の隊員が「ひぇ…」と声を漏らしている。


「お前ら……それでもフレンティアを守る覚悟があるのか!?」


セイエ様による、ヒルゼ様よりも迫力のある説教が始まり、俺たちはフレンティアを守る者としての心得を植え付けられた。








「よし、解散!」


すっきりした表情でセイエ様は報告会をお開きにした。皆ぐったりとしている。


俺とハースとゼルナ3人はこの後、巡回中に現れた謎の男についてヒルゼ様と情報共有をするため、ここで待機になった。

俺たち以外はもう状況確認は終わっているらしい。


俺はセイエ様(本当はヒルゼ様にもらうべきだが、あまりにもセイエ様が頼り甲斐があったため)に許可をもらって、留守番をしているクレアとシスターに状況を話すために孤児院に戻った。

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