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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
4章 氷の守護者グラント公国

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瞳に映る愛と後悔

どこだろう、ここ……。

色とりどりの花が咲いていて、空気がとても温かい……。

この場所を、知ってる……?

それにしては、視線が低すぎる……。


『とうさま!』


たしかに自分の体から出た言葉。

でもとても幼い。

後ろを振り返る『私』が呼んだ『とうさま』と思われる人が、『私』を抱き上げる。


『あははっ!たかーい!』

『お前はこれが好きだなぁ』


優しく微笑む『とうさま』の顔には、霧のようなものがかかっていた。

なぜか、この人が笑っているとわかった。

綺麗な小麦色の髪と、透き通った氷のような水色の瞳だけが見える。

きっと、その瞳が幸せそうに細められたからかもしれない。


『私』を片手で抱えながら、ガウン姿で『とうさま』は薔薇が咲く何個ものアーチを抜けていく。


『あら、あなた。一緒にきたんですね』

『さっき会ったら、君のところへ行くと言ったから』


『とうさま』は腰まで届く綺麗な銀髪をもった女性の額に口づけした。

彼女のピンクローズの瞳が嬉しそうに細められる。


『ふふ、それじゃあ今から三人でティータイムにしましょう。ね?────』

『あぁ、三人で。いいかい?────』


二人の色素の薄めな対比的な瞳が『私』に向けられる。

……さっき、二人が『私』を呼んだのだろうか。

その部分だけ、なぜかノイズが邪魔をする。


こんなこと、前にもあったような────。






「……ん…あれ」


私は目の前に広がる天蓋を見て、さっきのが夢だったと察した。

でも、どんな場所でどんな夢だったかもう思い出せない。


ゆっくり体を起こしてみると、額から濡れた布が落ちてきた。

ついさっき取り替えたくらい冷えているのは、寒さのせいなのか熱が下がったせいなのか。それとも。


「───起きたか」


突然声をかけられて扉のほうを見ると、そこには見慣れた方が立っていた。

ファルと似た顔立ちで少し彫りが深く、顔の左半分には大きな火傷痕が見える。長い銀髪を首の辺りで結んだものを肩から前に垂らしている、威圧感のあるこの方は。


「雪原を司る銀狼にご挨拶を申し上げます、公爵様」

「あぁ、楽にしていろ」


私が背筋を伸ばして礼をしたのは、ファルの父親でもある公爵様。私は公爵様に肩を押されてクッションを敷き詰めた壁際にもたれさせられた。

近くの椅子に座った公爵様の手にはいろんな書類。テーブルからは仕事をしていた形跡がうかがえる。


「目が覚めたと聞いて様子を見にきたら、また寝ていたからな。ファルの言伝をしにきたメルオンに、看病を頼まれてここにいた」

「それはなんだか……申し訳ありません」

「楽にしろと言っただろう」


公爵様相手に楽にできる方がすごいです、と言いたいけど落ち込んでしまうからやめておいた。

こんなに大きな体で小動物や小さな子どもが好きで、拒絶されると分かりやすく落ち込む方だから。


私が目覚めるまで多忙なのにここで仕事をしてまで看病してもらっていたとは思ってもなかった。

布が冷たかったのは、公爵様の魔法のおかげなんだろうな。


外を見ると、寝る前よりは雪がおさまっていた。

部屋の時計を見て、今は昼あたりなんだとわかる。

体に意識を集中させてみてわかったけど、魔力がぜんぜん回復してない。

寝る前よりほんの少し増えた……?くらい。

本当にどうしたんだろう、私の体……。

自分の手を見ながらそんなことを考えていると、公爵様に頭を撫でられた。

みんな頭を撫でるのが流行なのかな……?


「……ファルとハイデルからいろいろと聞いた。頑張った分、今はゆっくり休め」

「はい……」


公爵様にも休むように言われてしまった。

休まないといけないのは重々承知してる。魔力が戻らないし、熱もあるみたいだし。

でもこんなにのんびりしていて、リュカオンに万が一があったらって思うと怖い気持ちもある。

体を休めても、心が休まらない。

ちらりと公爵様を見ると、考えていることが伝わったのか、首を振られた。


「ファルとメルオンには休むように命令を出した。『シャルア』、お前も同じだ」

「そうですか……」


公爵様から命令されたら休むしかない。

二人も強制で休まされているなら大人しく従おう。この不安は少しだけ隅に置いて、今は体をいつもの調子に戻そう。

やっと頷いた私を見て、公爵様は私の頭から手を離した。


適当に髪を直しながら公爵様の持ってきた書類を盗み見る。

……やっぱり魔物のことが結構多い。

メルオンには結局聞かなかったし、公爵様に今質問したら答えてくれるかな。


「───魔物は、今年異常な動きを見せている」

「……異常、ですか?」

「あぁ」


まるで心を読んだみたいにタイミングよく魔物の話をするものだから、驚いてしまった。

こちらの様子をうかがうことなく、書類に目を通していろいろ書きながら公爵様は話を続ける。


「もともと今年は魔物の凶暴化と気候の寒冷化がぶつかることは予測されていた。会議で予想していた時期より少し早まったが、魔物が寒冷化で降りてきたのは予想通りだった。

ただ、凶暴化が厄介なことになっていた」

「例年とは違う、ということですか?」


私の問いかけに公爵様は机を指でトントンと軽く叩く。

「そうだな……」と言いながら言葉を選んでいる。

やがてまたペンを取って仕事を再開すると答えてくれた。


「上乗せ、と言う感じだ。例年の凶暴化は魔物の数や強さに影響するものだが、今年はそれに加えて瘴気が濃くなったことが挙げられる」

「瘴気が……つまり今も魔物が降りてきてるのは」

「瘴気が影響してると予想が出てる」


なんとなくわかってきた。

瘴気は、瘴気を身にまとう魔物にとって鎧みたいな機能をもつ。

外部からの変化に強くなる、なんてよく説明される。要は自然や外敵から体が守られているということ。

なんらかの原因で濃くなった瘴気を取り込んだ魔物が、瘴気によって寒冷化から守られるおかげでいまだに活発に活動できているのかもしれない。

冬眠するほどの寒さじゃないと、勘違いを起こしているのかもしれない。


「予算とか被害報告が大変そうですね……」

「一日に三回かそれ以上だ。それに加えて冬をしのぐ分の熱魔法石の嘆願書が多く、備蓄にまで手が伸びている。

だが、ファル(あいつ)のおかげでなんとかなっている」


公爵様は何枚かにまとめられた書類を渡してきた。

ファルの書いた報告書だった。

支出や期間中に起きた出来事とその対処についてなどが事細かに書かれている。


まとめると、魔物の襲来に関しては魔物がよく来る場所を過去の統計から割り出して、城よりもそっちの方へ魔法騎士の配置を集中させることで迅速な対応をしているらしい。サインとかも決めて臨機応変に対応できる訓練もしているみたい。

寒冷化対策は国民全員(ファルたちにも支給されている)に毎年配布される熱魔法石に、ファル自身や公爵城に支給される熱魔法石をできる限り分配。魔導具師から没になった魔導具で熱魔法石と似た性質をもつ魔法石を使うものを買い取り。それを何個か入れたものを市場で販売することで寒さが酷くない地域への支給を抑えて、備蓄分をできるだけ必要な地へ送るように工夫している。


そのおかげなのか支出表を見ても赤字の部分はなく、微々たるものだけど黒字でプラスに動いている。


自己犠牲というのか、国民想いというのか。

五年間見てきたのに知らない一面を見た気がした。

こんなに働いていたらあんな隈にもなる、と納得した。

それだけでもなさそうだけど……。


私が報告書を返すと、公爵様はもう見たはずなのに少し口もとに笑みを浮かべて報告書に目を通す。

自慢気だけど呆れというか……心配というか……表裏のある感情が同居していた。


「────公爵様は、ファルのこと知ってますか」


無意識に出てた。

気づいたときには手遅れで、口を手で押さえながら公爵様のほうを見ると、公爵様は目を見開いていた。

怒らせてしまったかもしれない。


でもさっきの表情からは、ファルへの愛を感じた。

こんなに優しい目をするのに、ファルのことを気にかけていないはずがないと思った。


私がここに匿ってもらうようになったせいで生まれたファルのトラウマ。

そのトラウマに、ファルがどれだけ苦しめられているか。

公爵様は知っているのではないだろうか。


公爵様は何度か口を開閉して言い淀んでいたけれど、テーブルに置かれていた紅茶をひとくち飲むと答えをくれた。


「……ファルが、悪夢やリアの言葉に苦しんでいるのは知っている」


リア、というのは公爵夫人の愛称。

公爵様はやっぱり知っていた。

公爵様は一度ため息をつくと額に手を当てた。


「リアとの間に何があったかも知っているし、性格や体調がおかしくなったのも知っている。

………もし戻れるなら君を拾いたくないくらいに後悔している」

「………」


何も返せない。

確かに元凶が私だから、私さえ拾わなければ起きなかったことだから。

私がこの件で傷つく資格はないのに、布団を強く握ってしまう。


「いや、違うな……。すぐに対処しなかった私を、殴ってやらないといけないんだ」


その悲壮に満ちた業火のように紅い瞳は、深い愛を奥に秘めていた。

後悔にうなだれる公爵様に、なんて声をかければいいのだろう。

きっと公爵様に必要なのは、私の言葉じゃないから。


やっぱり、聞くんじゃなかった。


ファルがここにいたら、余計そう思ってたかもしれない。


「……公爵様のせいじゃないです」


悪いのは私なんです、と言えない私はとっで弱い。

今言える精一杯の慰めの言葉をかけると、公爵様は顔を上げずに首を振った。


「君はあの子の支えになっている……。あそこまで立ち直れたのはあの子の強さ以外にも、君とメルオンがそばに居たおかげだ。

きっと───」


公爵様が言葉を続けていると、勢いよく扉が開いて続きは聞けなかった。

顔を見合わせて扉のほうを見ると、そこには栗毛色の髪に似合うオリーブ色の瞳を感動の涙で濡らす公爵夫人の姿があった。


「『シャルア』ちゃん!」


私を見つけた夫人は目に涙を溜めて私に抱きついてきた。


ファルがいなくてよかったと思った。


結構閑話に触れる回でした。

次回は夫人のターン……かもしれないです。

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