魔法を見せて
「それで、私が『杖なし』か確かめに?」
「あぁ、証明書とかがあればもっといいんだが」
俺はクレアにテッドが逃げたことと、『杖なし』の場合、自分が狙われている可能性があることを伝えた。
すんなり杖なしで魔法を使うところでも見せてくれる方思ったが、クレアは渋った顔をした。
「確かに魔法は杖がなくても使えはします。ただ証明書となるとちょっと……」
「構わない。今から警備舎に行こう」
「え、あの、ちょっと……!?」
どうやら、証明書はないようだ。
それでも杖なしで魔法が使えるならば、皆の前で見せれば解決だろう。
テッドのことで頭がいっぱいだった俺は、まだ納得がいっていないクレアの手を握って孤児院をシスターに任せて後にする。
クレアは足を何度かもたつかせながら、手を引く俺の速さについてくる。
「あのっ、魔法を、見せ…、るのは全然、いいんですけど……わっ!?と、止まってください!!」
「すまない、急いでいるんだ」
話を聞く気がないほど急いでいる俺の様子に、クレアは「せめてスピード落としてください!!!」と懇願してきたのだった。
フレンティア警備舎に着くと、すでに何人かの部隊長がクレアのことを待っていた。
俺が戻ってきたのを見て、皆が後ろにいるクレアに視線を注いだ。
息が切れて膝に手をついているクレアは視線に気づかずにいる。
「ルーク、その子が例の『杖なし』か?」
「はい、証明書がないそうなので魔法だけでも見てもらおうと連れてきました」
商業区域特別部隊の部隊長であり、警備隊の中でも地位が高いヒルゼ様の問いかけに俺が答えると、クレアよりもはるかに大きい自らの巨体のヒルゼ様は、クレアと目線を合わせるために膝を曲げた。
それでもまだ大きく、立っているクレアとの視線はクレアの頭ひとつ分ほど離れていて、結局見上げる形になる。
目の前に急に現れた大男にクレアは懐かしそうな顔を見せたが、すぐにお辞儀をした。
「クレア=モルダナティスです。事情はルークさんから聞いています。私が『杖なし』か確かめたい、と」
物怖じしないクレアの態度に幾分か驚かされていたようだ。
15歳はまだまだ子供だ。一番繊細な時期でもあるし、もっと礼に欠けた態度で接してくると思ったのだろう。
昨日一緒に回ったときにも思ったが、クレアは他の15歳の子供より大人びている。
もっと年相応の態度を見せてくれたっていいのに、と密かに思っていた。
ヒルゼ様は首を傾かせてクレアに視線を合わせる。
大人には頼もしい、子供には鬼だと恐れられているヒルゼ様の顔が近づいても、クレアは震えもしなかった。
ヒルゼ様はふっと笑みをこぼした。
「もっとはっちゃけてもいいと思うんだがなぁ……。協力してくれそうだし、こっちとしては嬉しいが、お前さん____クレアはいいのか?」
「……大丈夫です。こういうのは慣れているので」
いつものことだと言うような諦めた顔でクレアが言うので、俺は少し申し訳なくなった。
クレアが早速、杖なしで魔法を使うところを見せると言ったので、俺たちは警備舎の奥に備えついている訓練場まで移動した。
魔力がなく、魔法についてあまり知らないヒルゼ様がどんな魔法でもいいと言ったので、クレアは気づいたように笑って「簡単な魔法にしますね」と答えた。
訓練場の真ん中にクレアが立ち、少し離れたところで俺たちは動向を見守る。
同期のハースは、自分の隊の筆頭魔法使いまで連れてきていた。
……疑いすぎだろ。
とはいえ、俺もクレアが魔法を発動するところを見るのは初めてだから気になっていた。
クレアが「はじめます」と合図をすると、皆がクレアに集中する。
クレアは自分の体の前に腕を水平に伸ばし、地面に手をかざす。
話しかければ射殺されそうなほど、真剣な表情で地面を見つめると、クレアは「____集まれ」と言い放った。
次の瞬間、クレアの足元にひとつの魔法陣が出現した。
違う幾何学模様が何個も調和してできた複雑な魔法陣だ。
そして、周りの気温が下がり始め、空気中の水分が視認できるようになり、その水分がクレアのかざしている手に集まって行く。
五秒もしないで周辺の水分を集め切ったクレアは、手を空の方へ向けて指を鳴らした。
強い風が起こり、目を瞑って風が止むのを待つ。
そうして目を開けると、そこには氷でできた騎士が立っていた。
一瞬のできごとに何度も瞬きしている俺たちに反して、ハースが連れてきた筆頭魔法使い、ゼルナは感動した顔で高速拍手をクレアに送っていた。
「………すっっっっごいです!!!
魔法を同時に展開すること自体難しいのに、それを杖なし、ほぼ無詠唱で!こんなことあっていいんですか!?
しかもこの氷の騎士!氷の剣なんて全然刃こぼれしなさそうな硬さでできてます!氷でこんなにできるなんて素晴らしいです!!
極めつけに魔法陣です!!!あんなに緻密かつ繊細な魔法陣を見たことがありません!相当な場数を踏んでいないと作れません。本当に15歳ですか?????」
ゼルナの高速語りはもはや詠唱のようで、聞いているこっちも圧倒される。クレアもここまで反応されるとは思っていなかったようでゼルナの反応に引いていた。




