婚姻の日
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ファンファーレが、鳴り響いた。
朝十時という早い時間に、ほぼ全ての国民が目覚めていた。それもそのはずだ。今日は、三大貴族の娘と他国の王子が結婚する日なのだから。
「皆、今日までお疲れ様。急な結婚式でこの一ヶ月ほど忙しかったでしょうけれど、よく頑張ってくれたわね」
式が始まれば、私はそのままオーランド帝国へ行くことになる。ゆっくりする時間はない。
だから、始まる前に召し使い達に最後の言葉を述べていた。
「私は結婚式が終わり次第、オーランド帝国へと向かうわ。この中には、二度と会うことのない者もいるかもしれない。けれど、私は忘れないわ」
執事も料理人も庭師も含む百人近い召し使いが、私をまっすぐ見つめていた。
こうして全員の前で話すのは、いつぶりだろうか。
「素晴らしい仕事をこなすあなた達がいたことを、オーランド帝国で思い出すでしょうね」
今頃会場になるクリスティア宮殿では最終確認として多くの召し使いが働き蟻のように動き回っていることだろう。
「さあ、最後まで気合を入れていくわよ!」
私の言葉に、「「「はい!」」」と皆が勢いよく返事をした。
たとえ私が悪役令嬢であっても、三大貴族の結婚式に携われるというのは彼らにとって一生の誇りになるのだろう。
私は階段を登り、この屋敷を見て回った。
最後に自室に辿り着く。
「アグリア様……」
「分かっているわ」
ベランダを眺めていたら、後ろからおずおずとメイドが時間を知らせた。
もう、この屋敷ともお別れだ。
そう思うとなんだか寂しい気もするが、今は新しい土地に思いを馳せるのみだろう。
私はメイドの後をついて行った。
屋敷の前で待ってくれていた馬車に乗り、クリスティア宮殿の裏門から中へと入る。
案内されて入った部屋でウェディングドレスに着替え、派手すぎない化粧を施す。
鏡に映る自分は、いつもと違うようだった。
少しだけ震える手は、冷たい。
「大丈夫、武者震いだわ」
小さく、そう言い聞かせた。
「お時間です、アグリア様。参りましょう」
宮殿で働くメイドがそう言った。
「えぇ、行きましょう」
今日が私の人生のターニングポイントだ。
絶対に、成功させる。
今日だけは、宮殿が国民に解放されている。
もちろん立ち入り禁止の区域などはあるが、国王が住む、アストレア王国最大のクリスティア宮殿が解放されるのは極めて珍しいことだ。
外から、国民が今か今かと花嫁の姿を待つ声が聞こえた。
私の結婚の失敗はオーランド帝国と商売を行う我がアストレア王国国民への裏切りにもなるのだと思うと、この両肩に乗るものの重さが伝わってきた。
「今日は三大貴族であるレーランド家の娘アグリアが結婚するに相応しい天気の日である」
急に国民が静かになったかと思えば、アストレア王国国王グレアム陛下の声がした。
オーランド帝国側の王族達の機嫌を損ねることのないよう、今日はどうやらしっかりとした正装で、誰かに作ってもらったきちんとしたセリフを言っているようだ。
「三大貴族とヴィルヘイム・オーランド王子との結婚は、我がアストレア王国国民に良い影響を及ぼすと信じている。さて、花嫁に登場していただこう」
あまり長いセリフは覚えられないのか、グレアム陛下の言葉は短かった。
ヴィルヘイム王子はすでに広場へ出て、グレアム陛下の隣にいるようだ。
あとは私が姿を見せるのみ。
重くて汚れひとつない白の扉が、目の前で開かれた。
眩い太陽の光が差し込む。
思わず細めそうになる瞳を、けれども閉じることなく前を見据えた。
──私の人生は、ここから始まる。
国民の歓声を迎えるべく、背筋を伸ばして大きな一歩を踏み出した。
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最近投稿が遅くて申し訳ないです…!




