少女の計画日和
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私は真白のウェディングドレスに身を包み、広場へと歩み出した。
大音量のファンファーレが響く。
軍の音楽隊は、滅多にないこの大舞台に張り切って挑んでいるようだ。
ヴィルヘイム王子は三つの勲章が付けられた黒の軍服で立っている。
その彼の隣に並べば、私との身長差が分かる。
私は女の割に背が高い方だが、ヴィルヘイム王子とは二十センチ近い差があった。
「ファラレイ聖教会の最高位神父バルハント様に式典を行なっていただきます」
司会を務める貴族の一言で、椅子に座っていた白髪の老人が立ち上がった。
私とヴィルヘイム王子の後ろ、真ん中辺りに立つ。
民衆はその様子を静かに見守っている。
黒のローブで、背中には竜の紋章が描かれているバルハントの姿は、背後に太陽の光を受けて真に神のようになっていた。彼は高位の神父に、ある物をもらう。
それを胸の前で持ち、口を開いた。
「アストレア王国貴族アグリア・レーランド・ファナ」
私とヴィルヘイム王子は向かい合い、バルハントの言葉を聞く。
「貴女は、オーランド帝国王子ヴィルヘイム・オーランドとの結婚を望み、民のため、両国のため、夫のために尽くすと誓いますか?」
その問いに、心から返事をする。
「誓います」
笑顔で頷いたバルハントは、ヴィルヘイム王子に向く。
「オーランド帝国第一王子ヴィルヘイム・オーランド」
緊張という言葉を知らなそうな無表情で、彼は赤の双眸を爛々と光らせて立っている。
「貴方は、アストレア王国貴族アグリア・レーランド・ファナとの結婚を望み、民のため、両国のため、妻のために尽くすと誓いますか?」
流石の神父も少し緊張しているようだ。
民衆にも聞こえるよう大声を出さなければならないが、ちょっとだけ声が震えている。
「誓います」
国民が今か今かと、指輪の交換を待っている。
「では、これを」
バルハントはその手に抱えていた白の箱を私たちに差し出す。箱の中には白のクッションがあり、その上に指輪が丁寧に乗せられている。
その箱から指輪を取って、差し出されたヴィルヘイム王子の薬指にはめた。
次に彼が指輪を取り、私の薬指にはめる。
国民の中には見ているだけで恥ずかしくなってきたのか、眩い結婚式に照れてしまい顔を手で覆っているものもいた。
私とヴィルヘイム王子は国民の方へ向き、後ろに立つバルハントが最後の一文を口にする。
「今この瞬間を持って、アグリア・レーランド・ファナとヴィルヘイム・オーランドは夫婦となる!!」
それを聞いた国民は叫び出した。
「おめでとうございます〜!」「きゃー!」「綺麗…!」
多分、全ての国民が私の結婚を祝ってはいない。それでもこの場の空気に飲まれ祝福する者もいるし、なによりこれはこの国の大きな一歩である。
相変わらず表情を崩さないヴィルヘイム王子に惚れたのか、きらきらとした笑みを浮かべる女子もいた。
誰もが、世界の幸福の全てが今この時に詰まっているのだと、そう思っていた。
来賓の席に一人、ニタニタというような不気味な笑顔を浮かべる者がいた。いいや、大抵の人が見れば少女が花のような優しげな笑みを浮かべるように見えるのだろうが、分かるものには分かる。
それは、裏のある笑顔だった。
これから起こる悲劇を、密かに待ち侘びているのだ。
そしてその少女とは、クリーム色の髪のクレア・シーランドであった。
□■□■□
「おい、これはやばいぞ」「今日は王家の結婚式だってのに」「誰か、式場に行って伝えてきてくれ」「俺が行こう」
「頼むぞ」
そこは結婚式が行われている場所から一時間ほどの街だった。普段は動物が呑気に歩き回り人が忙しそうに働く農場は、今日は焼け野原だ。
その理由は一つ。
「おい、また来たぞ」「会場を目指しているのか?」「音があるからだ」「人の匂いが多いのか」「早く音楽隊に演奏を止めさせないと」
翼竜が、来たのだ。
経験の少ない兵士たちでは竜に対応できない。けれど今日は、優秀な軍人は皆王族の結婚式の警護にあたっているのだ。
「時間を稼ぐぞ!」
隊長の言葉に、若い隊員が空元気で返事をする。
「はやく、着けよ…!」
今しがた式場に翼竜の件を伝えに行った足の速い兵士に向けて、そう願った。
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