混沌の悪夢
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私たちの結婚を祝福すべく、広場にはアストレア王国の国花であるピンクのコスモスが咲き誇っている。花言葉は乙女の純潔だ。《聖女》を有する国に相応しい。
「……」
「……」
私とヴィルヘイム王子は無言のまま、隣に立って国民に手を振る。
その時だった。
我がアストレア王国の軍隊であることを示す白の軍服を着込んだ者たちが、何か焦ったように動き回っていた。
──軍隊が動くなんて、予定にはないはずだけれど。
国民は異変に気がついていないようだ。
この場で大勢の人間に騒がれては困る。手を振ったまま、自然な素振りで辺りを見渡した。
表情からして、ヴィルヘイム王子は軍隊の動きに気が付いているようだ。真顔には変わりないが、どこか引き締まった顔つきに変わっている。
さすが、オーランド帝国軍隊のトップ。
と、黒い軍服を着込んだオーランド帝国の兵士もアストレア王国の兵士と合流して、何やら動き始めた。
テロでも見つかったのだろうか。あるいは、不審物か?
兵士たちは国民に見つかることを避けて、裏から宮殿に入って行く。やがてその姿は見えなくなってしまった。
──まったく、こんな日に何かしら。
一抹の不安を抱えながら、顔には笑みを貼り付ける。
やがて、グレアム陛下に兵士の一人が声をかけた。
耳打ちで小さく何かを告げられると、グレアム陛下は表情を変えた。分かりやすい人だ。
難しそうな顔で悩むグレアム陛下に、兵士が切羽詰まったように何かを言っている。
その勢いに飲まれたのか、グレアム陛下は頷くとコスモスの花や木々で国民からは見えない場所へ行って誰かを呼びつける。
やがて、その人物はやって来た。
──アレク兄様。
それは兄の姿だった。
グレアム陛下と兵士の話を静かに聞いた兄は、悩む間もなくすぐに判断を下したようだ。
アレク兄様はバルハントのもとへゆっくりとした足取りで向かう。
私とヴィルヘイム王子に夢中な国民は軍隊が動いていることに未だ気がついていないようだ。
アレク兄様の短い言葉に頷いたバルハントは、私とヴィルヘイム王子に目配せをして、口を開いた。
「これをもって、結婚式を終了します。国民の皆様は今しばらくこちらにいてください」
予定よりも早い終了だ。やはり何かあったのだ。
バルハントの背中を追って、私とヴィルヘイム王子が宮殿に戻ろうとした、その瞬間だった。
後ろの方の国民の一部が悲鳴を上げた。
思わずその悲鳴の方を向けば、何体もの竜が空を飛んでこちらに来ていた。
──いけない、民が危ないわ。
幸い、まだここからは距離がある。
けれど今日の式を祝おうと街では人々が溢れかえっているのだ。もう怪我人が出ているかもしれない。
現れたのは翼竜。緑の身体は他の竜に比べれば小柄だが、群れで動くためとにかく数が多いのが問題だ。
軍人ならば隙をついて逃げられるが、一般市民では数の多さに恐怖するだろう。
幸い翼竜は竜の中で一番格下の存在だ。落ち着いて動けば、まだ間に合うはず。
グレアム陛下がさっき伝えられていたのは、竜のことだったのだと理解した。
けれど、後ろを向けば肝心のグレアム陛下はいなかった。代わりに、剣に手をかけたアレク兄様がいる。
「アレク兄様、グレアム陛下はどこに?」
一刻も早く国民を落ち着かせなければ。
「グレアム陛下ならば、宮殿の中へお戻りになられた」
ヴィルヘイム王子とはまた違う冷たさの真顔で兄はそう答えた。
──逃げたのね、臆病な陛下。
民を落ち着かせるには国王の言葉が最も効果的だというのに。
仕方ない、ここは、今日の主役である私たちがなんとかしなければ。
「ヴィルヘイム王子」
「ああ、分かっている」
ああもう! 最悪の結婚式だわ。
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