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後編

 キャロルはハリスに呼び止められる。

「ちょっと、話があるからいっしょに来てくれないかな?」

「お話ならここで聞きますが?」

「込み入った話なんだ。時間はとらせないから」

 キャロルは仕方なくハリスについていった。連れてこられたのは校舎裏だった。

「実は君に渡したいものがあるんだ」

「あの贈り物でしたら、いただけません」

「そういわずに。ユーリを助けてくれたお礼だから」

 ねっとハリスは極上の笑顔を見せる。

「ちょっと手を出してくれるかい」

 キャロルはおずおずと右手を出した。その手に素早くブレスレットがまかれる。

「あの、これは困ります」

 キャロルが外そうとするが、ブレスレットには留め金がない。

「呪いの魔法具だよ。さようなら、キャロル・シュタイン」

「何を言って……」

 キャロルはふらりと壁に手をつく。

(体が重い。意識が……)

 そのまま、倒れて意識がなくなった。


 キャロルは、巡回していた警備員に見つかり、医務室へと運ばれた。ギルバートはキャロルが倒れたと聞いて医務室に駆け込む。そこには教官たちが渋い顔で立っていた。何があったのかと尋ねれば、呪いかもしれないと答えられた。眠っているキャロルの右腕には魔力抑えの銀の腕輪と見たことのない黒いブレスレットがはめられていた。そこへダリスとアメリアが飛び込んでくる。そして、アメリアが息をのんだ。

「これは、呪いの魔法具……」

「アメリア。どういうことだい?」

「呪いの魔法具は死や病を起させる道具ですわ。魔力の弱いものなら即死してもおかしくないくらいの呪詛がこのブレスレットには込められています。私は闇魔法が得意だからすぐにわかりましたの」

「それで、外す方法は!」

 ギルバートが尋ねる。

「破壊するか、はめた者を見つけて外させるかのどちらかです」

「こんなもの、すぐに破壊してやる!」

「駄目だ」

「なぜとめる!クロス」

「我々も奇妙に思って触れたのだが、それだけで肉が溶けたんだ。うかつには触れない」

ギルバートはすがるようにアメリアを見た。

「壊す方法をとるなら、聖水をかけ続けるしかないわ」

「光の使い手を集めて聖水を作らせろ!」

 クロスが教官たちに命令するとすぐに聖水づくりが始まった。ギルバートもすぐに水を汲み、そこに光の魔法を注ぎ込んで、キャロルの右手を桶の中につけた。だが、水はすぐに真っ黒に染まる。

「なんて強い呪いなのかしら……」

 アメリアは自分に光魔法の属性が少ないことを悔やんだ。

「アメリア、僕たちは犯人をさがそう」

「そうね」

 ダリスの提案にアメリアは頷き、そっと医務室を後にした。

 その日から医務室は関係者以外立ち入り禁止となり、空き教室に臨時の医務室ができた。


 翌日、ダリスとアメリアはハンスといっしょだったという目撃証言をいくつか拾うことができた。それをクロス・ローディアに報告した。

「ギルバートには聞かせられないな。ハンスの件は学院側で調査する。悪いがギルバートのことを頼む」

ダリスとアメリアはしっかりと頷いた。

 医務室の中では、聖水を作り続けているギルバートの姿があった。

「ギルバート少し休め」

「嫌だ」

「倒れたらもともこもないぞ」

「それでも、こんなときにじっとなどしていられない……」

「だったら、ちゃんと休養すべきですわ。そして純度の高い聖水を作り上げることです」

 アメリアは静かに訴えるように言った。

「今、先生方も必死に聖水を作ってくださっています」

「そうだぞ、ギルバートとにかく休め」

「水の交換は私たちがいたしますわ」

 そう言って、アメリアはギルバートに眠りの魔法をかけた。ダリスはその体を支え、キャロルの隣のベッドに寝かしつける。そして、二人は水の交換を交代で行った。


(キャロルが倒れたですって。いい気味)

そんなことを考えながら、教室に入ると一瞬視線が集まって、すぐにざわざわしだした。

ユーリは不愉快な顔をする。

 ひそひそとこちらを伺うような態度がなんだか気にくわなかった。

(なんなの?たかが、一生徒が倒れたってだけでしょ。なんであたしをちらちらみるのよ)

それから、不愉快なまま授業は淡々と進んでいく。

ときおり、何人かの生徒がどこかへ行って帰ってくるのが目についた。

「早く犯人が見るかるといいのにね」

「隣のクラスの子なんか光の魔法が使えないって悔しがってたわ」

「もともと光の属性は少ないもんな」

「呪いの魔道具とかどうやって手に入れたのかしら犯人」

「貴族しか知らない裏ルートとかじゃね?」

「あたし、平民でよかった。貴族同士の争いっておっそろしい」

そんなことばが、聞き耳をたてずともユーリの耳に届いた。

そして、昼休みにハリスが迎えに来て、食堂へ行った。

「なんだか上機嫌ですわね。ハリス様」

「それはね。君に害を与える毒虫をもうすぐ退治できるからだよ」

「毒虫?」

「キャロルさ」

ユーリは驚く。まさか、ハリスが自分のためにキャロルを殺そうとしているのかと思うと少し背中に寒いものが走った。けれど、それなら自分の手を汚すまでもないとユーリはほくそ笑む。

「まあ、素敵」

 ユーリはあでやかに笑った。


「キャロル!」

ギルバートは叫んで起き上がる。

「おきましたのね」

「キャロルは?」

「まだ、なんの反応もありませんわ。とりあえず、お昼ですから何か食べていらして」

「だが……」

「いったでしょう。今のあなたでは純度の高い聖水は作れないと、ちゃんと食事をしていらっしゃい」

 アメリアはぴしゃりと言い放つ。

「すまない。食事をしてくる」

「ダリスもいっしょにいってらっしゃいな」

「わかった。じゃあ、ここは頼んだよ」

 二人を医務室から追い出すと、アメリアは水替えをする。

(キャロルなら大丈夫よ。絶対に死なせたりしないわ)

 そうして何度も水を替えているうちに、パキンという音がした。魔力抑えの腕輪が割れたのだ。

「そうでしたわね。魔力抑えの腕輪も闇属性の魔道具ですものね」

 アメリアはそう独り言をつぶやきながら、また、水を替えた。だんだんと色が薄れていることにアメリアは気づく。

「もう少しの辛抱よ。キャロル」


 それから、三日が過ぎた。ハリスはクロス・ローディアに呼び出され指導室にいた。

クロスはハリスの目の前に一枚の契約書を差し出した。

「ハリス、君はなぜ魔法具を作らせた?学院の規定では、魔道具は許可なく作ってはいけないはずだが」

「魔道具は作ってはいけないのであって、作らせてはいけないとは書いてなかったので」

「では、なんのために作らせた」

「父の疲労回復のためですよ。休暇で家に帰ったらひどく疲れたようすだったので」

「では、これはなんだ?」

 クロスはもう一枚紙をだす。

 ハリスはその紙を見てちっと舌打ちした。

「これがなんだというんですか?」

「闇の手形だ。闇魔法を使って魔法具を作る。依頼者は君の名になっている」

「誰かが僕の名をかたったんでしょ。僕はこんなもの知りませんよ」

「それはどうかな。このインクは特殊でね。書いたものが触れると光だす。君が書いたものでないというなら触れてみたまえ」

 ハリスはぐっと息をのむ。

「どうした?触れないということは、君にはサインした覚えがあるということか」

 ハリスはあきらめたようにサインに触れた。するとサインは淡く光り輝いた。

「それで、作らせた魔法具は今どこにある。すぐに提出しなさい」

「なくしました」

 ハリスはにやりと笑う。

「どこで?」

 さあとハリスは、のらりくらりとクロスの質問をかわしていた。

 そのころ、医務室ではようやくブレスレッドから、闇の力が弱まり始めていた。そして、もう少しで壊せそうになったところで、キャロルの魔力が暴走し始めた。

「体を押さえろ」

 治療師が叫ぶ。

「キャロル!キャロル!落ち着け」

ギルバートはあふれる魔力の圧力に押されながらも、キャロルを抱きしめる。

「ギル……行かないで……」

 夢を見ているのか、切ない声でキャロルがうめく。

「どこにもいかない。ちゃんとここにいる。目を覚ませキャロル!」

 あふれ出る魔力が少しずつ収まっていく。ゆっくりとキャロルは目覚めた。それと同時に、ブレスレッドが外れた。

「ギルバート様?」

「ああ、そうだ。俺だ」

「私……いったい……」

「呪いをかけられたんだよ」

「ええ、もう完全にきえてますけどね」

 アメリアが切れたブレスレッドを証拠品とばかりに摘み上げ、傍らにいたダリスに渡した。

「そういえば……それは……ハリス様が……」

そこにフローレンス・マルチナ教官が聖水をもって入ってきた。

「おや、呪いは解けたようだね。ギルバート殿下、ちょっと離れなさい。治療師が具合を見れないでしょ」

 そういわれて、ギルバートはようやくキャロルから体を離した。だが、手はしっかりと握られている。

 キャロルは心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。

「マルチナ先生。これを」

 ダリスが、ブレスレッドを差し出す。フローレンスは聖水をわきの机に置いて、ブレスレッドを受け取った。そして、治療師に聞く。彼女の容体はと。

「魔力の消耗は激しいですが、体の方には異常はないようです」

「では、すこし芝居を打ってもらいましょうか」


 コンコンと指導室のドアがノックされる。

クロスはハリスを睨んだまま、どうぞと声をかけた。

「クロス。生き証人を連れてきたよ」

「生き証人?」

 ハリスはドアの方を見て、入ってきた人物にぎょっとした。

「なんで、なんで生きてるんだ!!」

 キャロルにつかみかかろうとするハンスを素早くクロスが羽交い締めにする。

「ハリス様、このたびは素敵なブレスレッドをいただきありがとうございます。おかげさまで意識不明に陥りました。幸い、呪いが弱かったようで死には至りませんでしたわ」

 くそ、くそ、くそっとハリスは地面を蹴飛ばした。

「あの野郎。何が魔力の弱いものなら即死の品だ!偽物つかませやがって」

「せっかくの頂き物ですけど、もう必要ないので外していただけますか?」

 ハリスは差し出された右手を見ながら、忌々し気にブレスレッドを引きちぎった。

「はい、これでハンス君のキャロルちゃん殺害未遂は一件落着ってことでいいかしら、クロス」

「そうだな」

 ハリスに魔法封じの手錠がかけられた。



 ハリスの一件は瞬く間に学院中に広がった。一部ではユーリがたぶらかしたのではという噂が流れていた。ユーリは悔しさを隠そうともしなかった。そして、キャロルに対する憎悪は膨れ上がっていく。


 そのころ、キャロルは実家での養生を言い渡されて寮を出ていた。

(寮のほうが気が休まるんだけど……)

 そう思いながら父の書斎に向かう。コンコンとノックすると入れと声がした。

「このたびはお騒がせして申し訳ありません」

「ああ、別にかまわん。要件はそれだけか?」

「はい、しばらくこちらで養生させていただきます」

「ふん、まあ、いいだろう」

 父は手を振って出ていくように指図した。キャロルは一礼して出て行った。

 自室に戻ると、埃っぽかった。

 窓を開けて空気を入れ替える。父にとってはキャロルはただの道具だった。キャロルの母は彼女を生んですぐに亡くなり、父は若い後妻をすぐに迎えた。そして一年後には弟が生まれ、すべての者が彼を可愛がった。生まれつき魔力の強いキャロルは小さいときから、魔力抑えの腕輪をしていた。魔力の暴走を恐れて乳母以外は接するものがいなかった。そして三つの時にギルバートとの婚約が決まった。それからは、幾人もの教師に勉強やマナーダンスを教えられた。どれもこれも厳しかった。けれど、逃げ出す場もない。ただ、週に一度だけ王宮で受けるダンスのレッスンは楽しかった。最初は少し怖かったことを思い出す。気に入られなかったらどうしようという不安でいっぱいだった。だが、ギルバートは優しい笑顔でキャロルを受け入れた。それ以来、ギルバートにもいらないと言われないようにただひたすら努力した。そして、気づけばギルバートに会うたびに心臓がどきどきとなるようになった。そして、それが恋だと気がついた時には、ユーリが彼の隣にいたのだった。

(階段から落ちて以来、ずっとかまってくれるのはとてもうれしいけれど……)

また、ただの婚約者に戻っただけなのだろうとキャロルは思った。三日ほど実家にいたが、やはり落ち着かずに、キャロルは寮に戻った。


 キャロルがいなかった三日間。ユーリはチャンスとばかりに王子に近づいた。

「ごきげんよう。ギルバート様。どうしてずっと会ってくださらなかったのですか。私さみしかったです」

「ああ、それはすまない。だが、もう君とは付き合えない」

「え?」

「君のおかげで大切な人が誰かよくわかったよ。ありがとう。ユーリ。それより、ハリスのこと残念だったね。グレンから聞いたよ。口づけを交わすほどの仲だったんだとね」

 グレンは、潔く身を引いたものの、未練が残った。だから、王子にもユーリをあきらめるよう余計な進言したのだった。

「ち、違いますわ。そんな仲ではございません。きっとグレン様が見間違ったのですわ」

 ユーリは慌てて否定した。だが、ギルバートは静かに言った。

「ユーリ、君には本当にすまないと思っている。勝手に逃げ場にしてしまった。勘違いするような言動をとったこと、心から謝るよ」

「謝ることなどありません。今まで通り、仲良くしてくだされば……」

「申し訳ないが、それはできない。すまないユーリ」

 ギルバートはそれだけ言うと去って行った。

 ユーリは茫然とする。

(どこで間違ったの?何がいけなかったの?……。違う。違うわ。あたしは悪くない。だってヒロインだもの。こんなエンディングじゃない。こんな話じゃない。きっと、キャロルがいけないんだわ。あの子も転生者なのよ。だから、いじめもなかったんだわ。もう、いいわ。何とかして消し去ってやるんだから)


 キャロルが寮に戻って一日目は学院を休んだが、二日目からはいつものように登校した。

「もう大丈夫そうね」

「ええ、ありがとうございます。アメリア様」

「実家からすぐに戻ったみたいだけど、何かあったの?」

「いいえ……ただ、あそこはあまり居心地がよくなくて……」

 キャロルはぽろりと本音をこぼしてはっとした。

「あの……今のは聞かなかったことにしてください」

「そうはいかないわ。聞いてしまったもの。大丈夫。誰にも言わないから吐き出してしまいなさい。そのほうがきっと楽よ。一人で悩んだっていいことはないわ」

 キャロルは、恥を忍んで家庭の事情を話した。

「なるほどね。なら、よかったじゃない。学院を卒業すれば、ギルバート様と結婚して王宮暮らしになるわけだし、そうなれば、家族と言えども滅多にあえるものじゃないもの。甘えられなかった分はギルバート様に甘えればいいのよ」

「そんな、甘えるなんて……」

 キャロルは顔を真っ赤にしていた。

「どうして?」

「迷惑をかけたくないんです……」

「嫌われたくないから?」

 キャロルはこくんと頷いた。

「キャロル、人に迷惑をかけないで生きられる人間なんていないのよ」

「それはそうですが……」

「ま、あなたが甘えられなくてもギルバート様が甘やかすに決まってるけどね」

「そんなことは……」

 アメリアはそっとキャロルの口に指をあてる。

「それ以上はいっちゃだめよ。自分で自分を傷つけるのはよくないことだわ」

 アメリアの指はすっと唇から離れると、キャロルは恥じ入るように俯いたはいと答えた。



 キャロルが復学してから、十日。その日も合同練習だった。

「今日は風の魔法を使って、的を落とします。では、クラスごとに並びなさい」

 そして、いつものように総合点の競い合いが始まった。風の魔法はかまいたちのような鋭い刃にする者もいれば、竜巻を起こす者もいる。扱いはそれぞれの性格がでるようだった。今回も前回同様に高速で飛ぶ的を落とす訓練だった。キャロルは魔法を練って風の刃をいくつか作った。隣では竜巻を複数作っている子がいた。

(これはチャンスだわ)

キャロルたちが、集中して的を落としていく。ユーリは静かに竜巻を見据え、増幅魔法を放った。竜巻は一気に大きくなり、生徒たちに向かって襲い掛かる。とっさにクロスとフローレンスが結界を張ったが、前に出ていたキャロルたち五人の生徒が竜巻に巻き込まれて舞い上がった。キャロルは飛ばされながら風をコントロールして、他の子たちをかばった。無事にほかの子たちを地上におろし、竜巻もおさまり安心した次の瞬間、キャロルの右腕から炎があがった。苦痛にうめきながらも、水魔法で右腕を包み込むと炎はあっさりと消えた。しかし、キャロルがひどい火傷を負ったことには変わりない。治療師が飛んできて、火傷の傷を治した。ユーリはちっ舌打ちした。風に炎を混ぜれば、焼き殺せると思ったのに、腕だけしか傷つけられない。どこまでも、うまくいかないとユーリは歯噛みした。生徒が教室に戻ったあと、訓練場には調査官とクロスが渋い顔で立っていた。

「合同練習はしばらく中止したほうがよろしいでしょうな」

「ああ、その間は要監視ということだ」

「了解しました」



ユーリの頭の中は、いつの間にかキャロルを殺すことでいっぱいになっていた。

(キャロルさえ死ねばいい、そうすればギルバートはあたしのものになる)

キャロルが一人になることがなかなかなく、ユーリはいらいらした。そして、キャロルのクラスが訓練日のときは具合が悪いと言って休むようになった。訓練日は必ず魔法の訓練とは限らず、体力作りや木刀での打ち込みなどもあり、事故を装うのは難しかった。

 それでも根気よくチャンスが訪れるのを待った。そして、ようやくチャンスが訪れたのは、進級試験が始まる三日前だった。キャロルが一人で裏庭に入るのが見えて後を追う。丁度焼却炉にゴミを入れているところだった。ユーリは事前に手に入れていた薬をハンカチにたらし、背後からキャロルの口を抑え込んだ。しばらく抵抗されたが、それはすぐに止んだ。そして、土魔法で穴を掘りキャロルを生き埋めにしようとしたその時だった。そこまでだと声が上がる。声の主はギルバートだった。

「ユーリ、キャロルを返せ」

「ど、どうして……」

 ギルバートの背後にはクロスやダリスがいた。ほかにも警備隊がいる。

「君が合同練習の日にキャロルに火傷を負わせたことが判明していたんだ。そこで監視をつけたというわけさ」

クロスがそういうと、ユーリは眉間にしわを寄せ、怒りで真っ赤になった。

「ユーリ、今なら傷害罪ですむ。キャロルを返してくれ」

 ギルバートが一歩踏み出すと、ユーリはありったけの力で火球を投げつけた。ギルバートは風魔法で払いのけた。それでもむちゃくちゃにユーリは魔法を放った。風の刃、水の槍、土の針……。ギルバートは必死でそれをかわす。

「何で、あたしじゃないのよ。なんであの子なのよ。あたしはヒロインなのに!!」

 ユーリは叫んだ。ギルバートには何のことかわからなかったが、とにかく、一瞬のスキをついて、ユーリの懐に潜り込むと、みぞおちを力任せに殴りつけた。ユーリは倒れ伏して警備隊とクロスにつれていかれた。ギルバートは急いで穴からキャロルを助け出した。


「キャロル!キャロル」

 ぺちぺちとその頬をたたくとうっすらと目を開けて、けほっとむせた。

「ギルバート様」

「すまない。俺がユーリを狂わせてしまった。そのせいで、お前の命を危険にさらした」

 紺碧の瞳が潤む。

「そんな悲しい顔をしないでください。私まで悲しくなってしまいます」

「すまない。情けない男だと思っているだろう。だが、嫌いにならないでくれ」

「嫌いになれたなら、こんなに苦しい思いはしなかったはずですわ」

「キャロル……」

 キャロルはしっかりとギルバートに抱き着いた。

「好きだからとても苦しかったです。ずっとずっと。ユーリ様と仲良くされる姿なんか見たくなかったです。これからもほかの誰かと仲良くしているあなたを見たくない。私は嫉妬深い女です。きっと、嫌われるのは私の方」

「それでも、このまま婚約者でいて欲しい」

「嫉妬深い私でも?……」

 キャロルは銀の瞳で紺碧の瞳をのぞき込む。涙のあふれるその瞳で。

「ああ、かまわない。愛してる。キャロル」

 ギルバートは泣き笑いしながら、キャロルを強く抱きしめた。



 ハリスは魔力を封じられ、鉱山での強制労働を課せられた。魔道具を売った業者も摘発され、処分された。ユーリも魔法を封じられ五年の流刑となったが、完全に精神を崩壊させ発狂して餓死した。ハリスの父は財務大臣を退き、ユーリの父は爵位を返上した。

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