転生王子?の憂鬱な一日
ハーシェリク(転生王子)シリーズ三巻発売記念短編。
ツイッターでのアンケートで一位となったハーシェリクのハーレム(笑)のお話です。
『転生王子と白虹の賢者』、短編『転生王女?の優雅な一日』を読後をお勧めします。
(どちらかといえば)男性向け、女体化、ハーレム?ですのでご注意ください。
またこれはギャグですので、広い心で読んで頂ければと思います。
朝日が、厚いカーテンの隙間から室内を照らしている。
部屋の主は、上質な布団で顔半分を隠し惰眠を貪っていた。
時より言葉になっていない寝言を呟き、幸せそうに微笑む部屋の主。
そんな主の安眠を妨害すべく、扉を開ける音も、足音もさせずに寝台へと歩み寄った者がいた。
布団を揺さぶられ、主は呻くとモグラのように布団に潜っていく。さらに揺さぶられると、ついに頭まですっぽりと布団に丸々と、弱々しく抗議をした。
「もうちょっとだけ……あと三分……いや五分……十分……一時間……」
「いや、増えてるから。いい加減に起きて? ハーシェ」
その声に部屋の主――ハーシェリクは、まだ起動しない脳のまま、眠気眼で渋々布団から這いずり出た。まるで墓から出てきたゾンビのような、緩慢な動作で。
ハーシェリクが起きたことを確認し、起こした者は寝台を離れカーテンを開ける。
朝の陽光が室内を満たし、ハーシェリクは眩しくて目を眇めた。
「ふあ、おはよう……」
挨拶をしつつ寝台の上で胡坐をかき、背伸びをする。そして手を口に添えて欠伸をしながら、そのまま前髪を掻き上げ、そこでハーシェリクは違和感を覚えた。
(……ん?)
まじまじと己の手を見る。
大きな手だった。
何度か手を握ったり、開いたりして、それが己の意思通り動くことを確認し、ハーシェリクは首を傾げる。
ハーシェリクは前世、運悪く交通事故に遭い死んだアラフォー一歩手前の干物女だった。そして前世の記憶を持ったまま生まれ変わった、まだ十歳にも満たない子どもである。
だが目の前の掌は、子どものものではない。大人の手だ。
疑問符がハーシェリクの頭を占領した。
「ほら、顔洗ってきて」
そんな彼に、窓を開けた者が言った。
その声にハーシェリクはビクリと肩を震わせる。女性の声だったからだ。
ハーシェリクは、外宮の私室には自分の腹心しか入室を許可していない。特に寝室は、筆頭執事しか入らない。それなのに、なぜ女性の声が聞こえるのか。
彼は恐る恐る視線を向け、そして思考が停止した。
窓を背に、女性が立っていた。
「…………誰?」
「ハーシェ、寝ぼけてるの?」
ハーシェリクの言葉に、女性が不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
短めの黒い髪に、暗い紅玉の瞳。執事服を纏った美女だった。
その色彩を持つ人間を、ハーシェリクは一人しかしらない。
「それとも熱でもある?」
女性は寝台に近寄り、心配そうに顔を歪ませて、ハーシェリクの額に掌をあてる。
「熱は、ないみたいだけど……ハーシェ?」
「は、え、くろおおおおおおっ!?」
覗き込む彼女に、ハーシェリクの思考は再起動し、絶叫した。
ハーシェリクは朝食を終え、食後のお茶を飲む。
傍から見れば普通に見えるが、とても動揺していた。
現在、ハーシェリクの周りには三人の美女がいる。
一人目は朝起こしにきた黒髪の美女。
二人目は廊下へと続く扉の前で待機している、やや垂れた蒼い瞳美女。緩い癖の金のメッシュの入った橙色の髪は肩より長めで、剣を佩いている美女。
そして三人目は、一緒に朝食をとった純白の長い髪に琥珀色の瞳の美女である。
(……ああ、また夢か。そして女体化か)
ハーシェリクはそう結論に達した。というか、その結論に達するしかなかった。
なんせ三人は性別が違えど、性格も雰囲気も変わらない。
さらに自分が成長し、十代後半の青年となっていた。もちろん金髪碧眼の正統派王子である。ただし、普通の男子と比べ、少し華奢な気がしたが。
(前は自分が女体化する夢で、今度はみんなが女体化とか……疲れているのかなぁ)
ハーシェリクは心の中で深くため息を漏らす。
「ハーシェ、おかわりは?」
「……うん、貰おうかな」
そう言ってティーポットを差し出した黒髪の美女――女体化したクロに、ハーシェリクはカップを差し出しつつ、彼女を観察する。
クロは女性になってもミステリアスな雰囲気を纏っていた。胸は大きくも小さくもなく、くびれも尻の大きさも均整のとれた美女である。さらに執事服を着て短めの黒髪を整えているせいか、前世でいうところの某歌劇団の男装麗人である。そしてとてもかいがいしい。
「元気がないね、ハーシェ」
「そんなことないよ?」
茶を注がれたカップを受け取りつつ、ハーシェリクがつぶさにクロを観察していると、別のところから声がかかり、ハーシェリクは微笑んでみせる。
視線を向ければ橙色の髪の美女――女体化したオランが心配そうな視線を向けている。彼女は三人の中で一番背が高く、胸も大きい。正直、剣を振るったり運動したりするとき、その胸は揺れて邪魔だったり痛くはないのか、と問いたくなるほどの巨乳である。
そんなどうでもいい質問をハーシェリクは飲み込み、問題ないと伝えた。
「医者を呼ぶか?」
「大丈夫、ありがとうシロ」
現実より声は高いが、容姿は全く変わらないシロはハーシェリクの答えに怪しんだ視線を向ける。ちなみに彼の胸は、貧乳ではなく絶壁である。
「ハーシェ、今日の予定を確認してもいい?」
ハーシェリクは一回だけ小さくため息を漏らすと、カップに入ったお茶を飲み干す。そしてクロに頷いてみせた。
もうなるようになれ、と思いながら。
そしてハーシェリクは、午前中の予定を消化し、昼食を終えた後、執務室で書類と格闘していた。
午前中もいろいろあった。
例えば、オラン(女)との剣術稽古。夢だというのに、前回とは真逆で運動音痴の自分に絶望するハーシェリク。体力もなく打ちひしがれていると、オランに慰められた。具体的には、そのたゆんたゆんでボインなアレを背中に押し付けられながら。周りの兵士の 視線が突き刺さって、ハーシェリクは精神的に痛かった。ちなみにソレは朝予想した通り、動くととても揺れていた。
そのあと移動中、貴族に絡まれているシロ(女)を発見した。控えめに言って激オコ状態のシロが魔法をぶちかまそうとする寸前に止めて、青ざめた貴族を逃がす。するとシロが嬉しそうに女神の微笑みを向けられ、ここでも周囲の男性陣から射殺さんばかりの視線を向けられる。理不尽である。
そして現在、ハーシェリクは積み重なった書類にうんざりしていた。
夢の中では、監査室という部署の室長をハーシェリクは就任していた。簡単に言えば、各部署が不正をしていないか、法に反していたり悪用したりしていないか、改竄はしていないか等々監査するのが職務である。
(なんで私、夢の中で仕事してるんだろう……)
きっと現実の国の現状を見て、こういった部署が必要だと思っていたのかもしれないから、夢に出てきたとは思うが。
(貴族じゃないほうがいいかな? でも数字にも法にも強い人材じゃないといけないから現状じゃ学院卒業生になる。だけどそうすると貴族か富裕層ばかりになるな……まずは人材育成から考えないと……それに公正な人物じゃないといけないし……)
ハーシェリクはつらつらと考え、そして苦笑を漏らした。夢だというのに、結局はそんなことばかり考えてしまう己に対して、だ。
ハーシェリクは万年筆を片手に書類を消化しはじめる。夢だと思いつつも、目の前に仕事があれば、やらねばと思えってしまう自分は、仕事中毒なのかもしれない、と再度苦笑を漏らすのだった。
そして未監査よりも監査済みの書類の山が増えた頃、部屋にノックの音が響き、クロ(女)が入ってきた。
「ハーシェ、バルバッセ大臣が予算の修正案について、確認事項があるときたけど、通していい?」
「えっ!?」
バルバッセ、という名にハーシェリクが反応するとクロが訝しむ。
「どうしたの?」
「な、なんでもない」
ハーシェリクは誤魔化しつつ、入室するように促した。
まさか綺麗なバルバッセ再来か、と身構えるハーシェリク。
そしてその予想は裏切られた。
「ご機嫌麗しゅう、ハーシェリク殿下」
現れたのは榛色の瞳と髪を持つ、女性だった。だが若くはない。しかし年月を重ねたからこそ目尻の皺やえくぼが蠱惑的な、肢体も肉感的な熟女だった。
(まさかのバルバッセ女体化!?)
ハーシェリクは目を見開き、口も開いたまま固まった。
「ハーシェリク殿下?」
「バ、バルバッセ、大臣?」
ついどもってしまうハーシェリク。そしてそんな彼に、バルバッセ(熟女)は頬に片手を添え、妖艶な笑みを送る。セクシー女優も真っ青な色気である。
「ふふ、殿下が間の抜けた表情も可愛らしいですわね」
そう言われハーシェリクは反射的に頬を赤く染めた。もちろん怒りではない。
「バルバッセ殿……」
「あら怖いわぁ。嫉妬する女は可愛らしいけど、しすぎては男が逃げ出しますわよ?」
不愉快そうな声音でクロが咎めると、バルバッセは余裕な表情で受け止める。
「ふふふ、それに殿下は、私の娘のどちらかと婚約する予定なのよ? 義理の息子になるのだから、いいのではなくて?」
「む、息子?」
「将来、お母様と呼んで頂けるのを楽しみにしております。では本題ですが……」
そう言ってバルバッセは持参した書類を差し出し、ハーシェリクは我に返ると職務を全うすべく書類に視線を落した。
ちなみにバルバッセ(美魔女)は、綺麗なバルバッセ(美魔女)だった。
それから予算案について意見を交わしつつ、ハーシェリクはバルバッセとクロが用意した茶を飲む。現実では敵対しているのに、微妙な気分である。
ふと、再度ノックが響き、ハーシェリクがクロに視線で合図すると、女性が入室し一礼した。
その女性を見て、ハーシェリクはバルバッセと対面した別の意味で、固まった。
「失礼いたします」
赤銅の長い髪が揺れる。
榛色の瞳が向けられ、ハーシェリクは心臓が鷲掴みされたような、息苦しさを覚えた。
「……ジーン!」
ハーシェリクは彼女の名を呼び、椅子から立ち上がると、ジーンに駆け寄る。
そして彼女の白魚のような手を掴んだ。彼女の持っていた書類が地に落ちたが、気にしてはいられなかった。
「は、ハーシェリク様……」
身長は彼女のほうが低く、ハーシェリクは見下ろすことになる。
彼女の頬が赤く染まるのをじっくりと観察できるほど、ハーシェリクはジーンを近距離で見つめた。
「あらあらまあ」
そんな二人に、バルバッセがわざとらしく口元を手で押さえながら呟く。
「……バルバッセ大臣、少しジーンをお借りしても?」
だがハーシェリクはそんな彼女に視線さえ向けず、ジーンの手を取ったまま言った。
夢だと、幻だとわかっていても、二度と会えない彼女と一時でも過ごしたかった。
自然と誰をも魅了する笑みを浮かべるハーシェリク。ジーンはさらにさらに頬を染めた。
そんなハーシェリクに、バルバッセはにやりと笑いながら答える。
「どうぞどうぞ。なんなら夜もお貸ししましょうか?」
「お母様!」
ジーンは頬を赤く染めたまま、悲鳴を上げるように親を非難した。
夜、ハーシェリクは湯船で身を清めた後、寝台に潜りこむ。夢の中で眠るとは変な気分だった。そう思いつつも、ジーンと会えて、切なくも幸せな気分を味わえた。まさに夢のようだった。
ハーシェリクは瞳を閉じる。きっと起きた時は現実に戻っているだろうと思いながら……
ギシリ、と寝台がなった。
「ん?」
パチリと目を開ける。
目の前に複数の人影があった。
「え、へ、は?」
飛び起きようとする前に、あっという間に布団をはぎ取られ、影の内の一人に腹に馬乗りにされる。さらに両手が両脇から押えられ、身動きができなくなった。
「ハーシェ……」
そう言ったのは腹に馬乗りしているクロだ。黒く薄い、丈の短いネグリジェを身に纏っている。
白くムチムチな太腿が、完全に胴を固定していた。
「ハーシェ、私たちを女としてみてくれないの?」
そう言ったのは、右手首を掴んで寝台に押し付けているオランだ。クロとデザインの違う赤いネグリジェを纏った彼女の胸は零れんばかりだった。
「ずっと一緒にいたのに……」
そう左側から耳元で囁かれハーシェリクが視線を逆方向に向ければ、白いネグリジェを纏ったシロの傾国のような美貌が間近にあった。もちろん左手首は押さえつけられている。
「嫁入り前の娘たちが何してんの!?」
ハーシェリクは悲鳴を上げる。まさか筆頭たちにあられもない姿で襲われるとは、夢にも思わなかった。否、現在夢の中だと理解はしているハーシェリクだが。
「だって、ハーシェが結婚してしまうから……」
「いやいやいやいやいや……」
クロの言い訳にハーシェリクは首を横に全力で振った。
まったく問いの答えになっていない。
どうにか逃げ出そうと身をよじるが、シロは兎も角、体術を極めているクロや騎士のオランに押えられて、運動音痴で華奢はハーシェリクに拘束がとけるはずもない。
「一夜でも……」
「お願い……」
そう両側からオランとシロが囁く。
「いやいやいやいやいやいやいや!!」
まさかの貞操……否、DでTの危機である。それが危機と呼べるかは別として。
ハーシェリクの悲鳴が木霊した。
ベリっと布団が剥がされ、ハーシェリクは寝台をころりと転がされ、意識が覚醒した。
「ハーシェ、いいかげん起きろ」
「はっ」
ハーシェリクは飛び起き、視線を寝室にさまよわせ、布団を畳んでいるクロに固定する。主の視線にクロは首を傾げた。
「なんだ?」
そんな彼を無視し、ハーシェリクは寝台の上に立ち上がると、クロの前に立つ。
そして彼の胸に両手を置いた。平らである。
「……よかった、男だ」
「阿呆か」
クロが容赦なくツッコミを入れた。
そしてハーシェリクはオランにも同じような行動し心配され、シロに真剣に男かと確認してキレられたのだった。
『転生王子と白虹の賢者』書籍化記念(とみせかけた作者の息抜き)短編でした。
これは短編『転生王女?と優雅な一日』を書き上げたととき、逆に筆頭たちが女だったら? という妄想が元です。やはり短編だからノリノリで書けました。今回も後悔はしてません(笑
ジーンも出せて満足でした……夢の中くらい、幸せな思いをしてもいいよね?
そしてやはり書いてて楽しかったのは、綺麗なバルバッセ(美魔女Ver)です。
あと女体化の胸の大きさについては、完全に作者の趣味と独断です。
それでは楽しんで頂けたら幸いです。
2017/2/19 楠 のびる




