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父子鷹の拳  作者: 遠野大和
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第27話

十二月二十四日、本日はジムにて生配信の映像を観覧。

何の映像かと言えば、全日本新人王決定戦である。

これは東西トーナメントの覇者がぶつかりあう、新人王戦のトリを飾る一戦。

俺が注目すべきは当然ライト級だが、基本的に全階級の選手から盗める技術が無いかチェックすべきだろう。


【本日は特別ゲストとして、先週プロデビュー戦をKО勝利で飾った御子柴裕也選手にお越し頂いております。】

【よろしくお願いします。】

【御子柴選手と言えば、ファッション雑誌のモデルなどもやっており、若い層からの人気が圧倒的ですね。】

【そう…なんですかね?そうだったら嬉しいですけど。】


解説の御子柴裕也は俺と同学年、インターハイを三年連続の優勝で飾った後、名門王拳ジムからデビューを果たした。

彼の人気ぶりはすさまじく、こうして只実況をやるだけで、ボクシングに興味のない若い女性が多数視聴するほどの影響力がある。

階級はスーパーフェザー級で、動き一つ一つから日本人離れしたセンスを感じるスター候補筆頭だ。

因みに今放送しているテレビ局は、彼のスポンサーである帝都テレビ。


「会長から見てどうなんだ?この御子柴ってのは。」

「ええ、凄いですよ。あまり使いたくない言葉ですが、天才という表現がぴったりですね。」


同感だ。

彼はまだ十八歳であり、いくら努力しようとも同じ真似の出来る者は早々おるまい。


「坊主が負けたあの高橋ってやつと比べると?」

「それは……今のままを貫くなら御子柴君が勝ちそうな気がします…けど…」


会長は敢えてその先を紡ぐことはしなかった。

それでも言いたい事は分かる。

高橋晴斗は未だボクシングをしていないのだから。

彼がやっているのは、正直只の喧嘩だ。

パンチを捌く技術を持ちながら使わず、基本であるガードもしない。

只々殴りたいという欲求だけを叩きつけている、そんな選手。


「お、来たぜ。相変わらずの風貌だなおい。」


リングへと向かう高橋選手は、緊張の欠片すら見えぬ堂々とした佇まい。

相手の身長は大体五センチ程高いくらいだが、リーチ差は十五センチ前後ある様だ。

まあ、彼にはリーチ差など関係ないだろうが。


【さあ御子柴選手、同階級注目のハードパンチャー、六戦六勝六KОという高橋選手の登場ですが、どんな展開になると予想しますか?】

【そうですね。高橋選手はいつも通り接近戦を挑んでいくと思います。相手の谷口選手がそれを捌けるか、そういう勝負ですね。】


うん、イケメンであれど答えは無難。

だが彼のパワーと圧力は、直に相対して初めて分かるもの。

傍から見ていて理解出来る類のものではない。

というよりも、声色からあまり関心が無い様に聞こえるのは気のせいだろうか。


【あ~~っと、高橋左をもらいながらも構わず直進っ!ブンブンと剛腕を振っていく。】

【…流石にあれじゃ当たらないですよ。】


高橋選手は俺の時と何も変わってない。

取り敢えず当たれば倒れるだろうと、そんな感じのスタイル。

そして相手の谷口選手は非常に冷静な立ち回りを心掛け、第一ラウンドをしっかりものにした。


【谷口選手しっかり研究してますね。ガードで受けるのではなく距離を取って躱してます。あれをされると厳しいんじゃないかなぁ、高橋選手は。】


好青年であるはずの彼から、多少の刺々しさを感じるのは気のせいか。


「セコンドからは何も言わねえのかよ。これじゃ負けちまうぞ。なあ会長。」

「どう…ですかね。」


俺は只々無言でモニターを見つめ続ける。

ここにいては分からないが、恐らく現場の空気は変わり始めているだろう。


【おっと、高橋静かに歩み寄る。二ラウンド目からは動き変えてきましたね?】

【流石にこのままだと不味いって思い始めたんでしょう。ここからは…】


その先を紡ごうとした直後、高橋選手が真っ直ぐ突っ込んでいく。

この展開は流石に予想していなかったのか、解説も完全に黙ってしまった。


【あれ?これは?御子柴選手、パンチ躱してますよこれ。】

【……みたいですね。】


同じでは無かった。

強引に突き進んではいても、ヘッドムービングのみで皮一枚躱しているのだ。

そしてついに、


【剛腕が谷口を捉えたっ!ガードの上から構わず叩きまくるぅ~っ!】

【…何故クリンチしない?】


御子柴選手は不思議そうにしているが、俺には分かる。

ガードを開けた瞬間あのパンチに晒されると想像しただけで、普通の事が出来なくなるんだ。


【凌ぐか谷口っ!?いや駄目だっ!?ガードごとっ!ガードの上から全てをねじ伏せていくぅっ!!】


気持ちの強い選手なのだろう、体は完全に揺らいでいるがガードだけは外さない。

そして高橋選手もまた、ガードの上だけを叩き続ける。


【あっとぉっ!?何だぁっ!?】

【嘘だろおい……】


誰もが異変を察した瞬間、レフェリーが割って入り試合終了。


【試合終了~~っ!まさに剛腕っ!全てをねじ伏せる拳っ!】

【腕へし折っちゃいましたね……】


モニターに映るのは衝撃的な映像。

ファイティングポーズを取ったままの谷口選手、しかし左腕の肘から先がぐにゃりと折れ曲がっているのだ。

それでも戦う意思を保ち続ける彼の姿には、感動すら覚える。


「マジかこの小僧。そのうち死人出るぞ…」

「いやはや…本当に常識が通じないね、彼。」


この男が真面目にボクシングをやり始めたら、一体どうなるのだろう。

逆に弱くなったりするのだろうか。

だがそうでないのなら、彼には伸びしろしかない。


「何か、同じ人間って感じしないですね…」

「でも人間だよ。しっかりとした戦術をもって相対すれば…きっと勝てる。」


会長の言葉もどこか空しく響く中、モニターではライト級の試合が始まろうとしていた。

東日本代表は松田隆文、西日本代表は斎藤司(さいとうつかさ)

身長は十センチくらい斎藤選手の方が大きい。


【会場のざわつきは未だ収まりませんが……今、第一ラウンドのゴングが打ち鳴らされましたっ!】


会場の空気は、どこか気もそぞろ。

先の試合のインパクトが強すぎて、皆リング上に集中できていないのだ。


「松田はインファイト上手くなってるな。会長はどう思う?」

「ええ同感です。自分の強みをしっかり活かしてますね。」


現実的な未来として、この選手とはもう一度当たる可能性がある。

だからと言っては何だが、俺も先の試合より集中できていた。

そして第一ラウンドはそこまで大きく試合が動かず、どちらにポイントを付けてもおかしくない展開。


【ここまで見てどうですか?この二人の印象は。】

【そうですね。斎藤選手はリードフロー上手く使ってますし、松田選手も頭を振って上手く的を散らせていますね。】


うん、確かに今の段階ではそれくらいしか言える事が無い。

更に第二ラウンドも、互いが距離を譲らず追いかけっこの展開が続いた。

このまま退屈な試合になるのだろうかと、そう思った第三ラウンド中盤、


【あっ…斎藤出血してますね。】

【踏み込んだ時に頭当たりましたかね。身長差もあるので、まあしょうがないと思います。】


故意ではないバッティングにより試合は一時中断。

しかし直ぐに再開、それほど深い傷ではなかったようで一安心。

だがここから一気に試合は激しさを増した。


【何と打って出たのは斎藤っ!松田も引かないっ!受けて立ったぁっ!】


焦りでもあるのだろうか、慎重な組み立てに徹していた斎藤選手が突然の猛攻。

それを松田選手が受けて立ち、試合は急に乱打戦の様相を見せ始める。

打って変わっての激しい展開に会場も大盛り上がりの中、第四ラウンド中盤、


【リング中央激しい打ち合いっ!相打ちだぁっ!あっとっ腰が落ちたのは斎藤っ!松田ラッシュを掛けるっ!】

【あ~効きましたね。これは駄目だ。】


興奮する実況と、どこか冷たい印象を受ける解説の声。

気のせいかもしれないが、もう飽きているのではなかろうか。


【斎藤ダウ~~ンっ!カウント4で立ち上がったが…レフェリー止めたぁっ!勝ったのは東日本代表、松田隆文!】

【…良い試合でしたね。】


テンション低めな声を聞き思う。

大企業がスポンサーに付くというのも、中々大変なのだなと。

こうしてやりたくもない仕事をこなさねばならないのだから。


「うちとしちゃぁ、このまま松田に勝ち進んでもらいてえところだな。」

「それはそうですけど、取り敢えずは統一郎君が勝ち続けなくては…ね?」


正にその通り、次からは六ラウンド制の試合となる。

長くなればなるほど、戦略的な戦いを要求されるので更に精進あるのみ。

そんな覚悟を秘め練習に打ち込んでいると、時が過ぎ去るのはあっという間で後になって気付くのだ。


「あ…クリスマス…」

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