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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
五章。尾張と周辺国関係
120/127

110話。ノッブ解説する

文章修正の可能性有り

「まず三河の本證寺との関係についてじゃがな」


「はい」


「連中はの、長島の願証寺とは特に関わりがないんじゃよ」


「「「「え?」」」」


成政と利家だけでなく、佐久間たちも驚いた表情で信長を見ると、信長は彼らの視線を受けて「なるほど。ここからか」と家臣たちの持つ知識と自身の持つ知識の差を理解し、それに見合った解説を行うことにした。


「言い方が悪かったの。『普(・)段(・)は(・)関わりがない』とでも言うべきじゃったな」


「え? いや、同じ本願寺の一向宗なんですよね?」


「それはそうなんじゃが。うーむ、なんと言えば良いのやら……」


「あれですよね。あの人たちは同門ってだけで、特に仲が良いわけではないんですよね?」


「あぁ、うむ。 そうじゃな。それなら理解もしやすいか」


信長が言語化に困っているのを見て、横に居る恒興が助け舟を出す。


「えっと?」


同門ならやっぱり仲が良いんじゃないの? そう言いたげな成政を見て「まてまて、焦るな」と言いながら信長は話を続ける。


「あくまで連中は同門に過ぎぬのじゃ。儂らで言えば、清須におった大和守家が本家の石山本願寺で、岩倉におった伊勢守家が長島願証寺。でもって弾正忠家が三河本證寺みたいな感じなんじゃよ」


正確にたとえるなら、伊勢守家と弾正忠家の関係は微妙に違うかもしれないが、大まかなところでは間違ってはいない。


「「「あぁ」」」


同門=親戚と言う説明を受けた家臣たちはなんとなくその関係性を理解することができた。


「こんな感じだもんで、連中は敵が来たならそれぞれが一致団結もするが、普段はそうでもない。極端な話、同じ看板を使っているものの、その実態は個々で信者を増やし、個々で金儲けをしとるだけの親戚に近い関係なんじゃよ」


「……えっと、それならやっぱり俺たちは敵なんじゃないですか?」


「そこが儂とお主らの持つ知識の差じゃな。連中はのぉ、すでに滅んでいる者の為に骨を折るような連中ではないのじゃ。儂らとて大和守家や伊勢守家が他家に滅ぼされたところで『一族の恨み!』などと思わんじゃろ? せいぜいが攻める口実に利用する程度じゃろうて」


「「「あぁ」」」


利家が「親戚である三河本證寺や、長島の坊官である服部党を滅ぼした自分たちは長島から見たら敵になるんじゃないのか?」と聞けば、信長は彼らにもわかりやすい理屈で「そうじゃない」と答える。


事実、長島願証寺の見解としては、三河本證寺も蟹江の服部党も、勝手に武家の戦に参加して勝手に返り討ちに遭い、結果として滅ぼされただけの阿呆でしかない。よって、当然、その仇を討とうとは考えていないのだ。


一応同じ宗派なので抗議くらいはした。しかし、信長の目には、その抗議の根っこに『自分たちは関係ない』と言う主張がしっかりと見えていた。


そもそも長島の坊主たちからすれば、信長と仲が良い津島の商人は良い客であるし、信長の父である信秀にも十分稼がせて貰っていた関係もあるので、信長は『敵』にカテゴライズされるような相手ではないのだ。


さらに信長が尾張を統一し、権力構造と税の支払い先を一本化しててくれたおかげで、仕入れや販売に際して発生していた関税が減ったのも彼らにとっては大きな利益となっている。経費が減っても売値は変わらない。そうなれば、その差額は丸々儲けとなる。


そんな儲けを現在進行形で齎してくれてる信長に、自爆して滅ぼされた阿呆の為に長島が敵対する理由はない。せいぜいが先ほど信長が例に挙げたように、何かしらの譲歩を迫る為の口実とする程度である。


「わかったな? じゃからこそ、こちらから折れてやれば、連中は断らん。と言うか断れん」


「断れない?」


「うむ。連中にとって一番の敵は儂ら武士ではないからの」


「「「???」」」


「はぁ。……恒興はわかるか?」


本願寺にとっての一番の敵は自分たちの権益を犯そうとする武士ではないのか? 家臣たちの視線からそんな思いを感じ取った信長は、再度溜息を吐き、隣に控える恒興に確認を取る。


もしも恒興も理解していなかったら、軍議のあとで義鎮の下に行きグダグダと愚痴を吐いていたところだが、さすが恒興は格が違った。


「はい。連中にとって一番の敵は、武士ではなく他の宗派の坊主、ですよね?」


「うむ。そのとおりじゃ!」


そう。本願寺に限らず、寺社にとって武士は客(信者)に成り得る可能性のある相手だが、他の宗派の連中は違う。


もしも長島の連中が信長からの提案を受けなかった場合、信長が制圧した北伊勢の地には彼女と仲が良い臨済宗や、根来寺の寺だけが建つことになる。さらに元々信長が北伊勢を攻める理由が『伊勢神宮の荘園の回復』である以上、伊勢神宮系の神社まで作られてしまうことになる。


そうなれば北伊勢に於ける本願寺勢力はその純度と数を薄めることになってしまう。だが、彼ら本願寺系一向宗は、それを許せるような性格をしていない。


また、今の信長が、その気になれば長島願証寺の力を借りなくとも単独で北伊勢を落とせる力を持っていることは、尾張の周辺にいる者たちにとって周知の事実でもある。


よって彼ら長島願証寺は、信長からの「協力してください」と言う『頼み』ではなく「寺領をやるから協力しろ」と言う『提案』を受けざるを得ないのだ。


まぁ、一応『真っ向から敵対する』と言う選択肢もあるのだが、今回それをすれば織田家だけでなく朝廷や伊勢神宮も敵に回すことになるので、本家の石山本願寺からも『織田に協力しろ。最低でも黙認してくれ』と言う要請が出ることは間違いない。


織田としては、ここで本願寺勢力との和睦をすることで、伊勢攻めの際には後方を心配しなくとも良くなるし、本願寺と敵対している三好に対する嫌がらせにもなる。


さらに願証寺に長島の輪中以外の土地を与えることで、その戦力を分散させることもできる。


と言うのも、基本的に一度手に入れた土地を手放すことに抵抗があるのは、武士も僧も変わらないのだ。故に織田と敵対して寺領を潰されることを厭うようになれば、一揆とてそうそう起こせるものではなくなってしまう。


それと並行して伊勢神宮や根来寺、臨済宗と言った宗教を混在させることで脅威度を薄めてしまえば、本願寺とてただの一宗教集団に過ぎないのだ。


と言うか、三河のような頭の固い武士が大量に入信していたり、加賀の一向衆のように守護を追放するような連中がいるせいで色々と誤解を受けるのだが、そもそも本願寺系の一向宗はそこまで暴力的な宗教集団ではない。


加賀の場合は元が守護である冨樫氏による門徒弾圧から始まる流れで、国人や守護が民や門徒からの信用を失ったことが現在まで続く加賀一向一揆の一番大きな理由だし、石山の本願寺とて、元は京都に居たのだが、比叡山延暦寺に代表される寺社勢力の連中が阿漕な高利貸しを行う中、それをしなかった本願寺に信者が集まり、それを妬んだ寺社連中や、大量の信者を抱えることを恐れた武家から弾圧されて京都を追い出された結果、あそこで先鋭化し、自衛手段として武装蜂起を取り入れてしまったのだ。


故に彼ら本願寺一向宗が、門徒ではない武家や、他の宗派を信用しない排他的な存在となってしまうのは当然と言えば当然と言えるだろう。


ちなみに、史実に於いて『彼ら本願寺の抵抗が殊のほか激しかった』と言われるのは、彼らが戦った相手が天下人と言われた三好長慶や織田信長、徳川家康であったことや、石山や長島と言う要地に必死の構えで篭っていた為、その戦いが長期化したからに他ならない。


そんな、違う世界の史実はともかくとして。


とにもかくにも、一向宗に対しては、信者を分散させたり、織田の領民として扱うことで、彼らが織田家に対して決死の抵抗を選択出来ないようにすることが、最高の一揆対策となるのだ。


織田は一揆対策が出来る。長島願証寺は寺領を得ることが出来る。双方に損がない交渉である以上、向こうが断る可能性は極めて低い。


――ここまで聞かされれば、利家や成政だけでなく、他の家臣たちも信長に反論しようとは思わない。


(……ようやく理解したかや。まったく面倒な連中じゃのぉ)


家臣たちの目に理解の色を見た信長は、内心で溜息を吐くも「まだ話は終わっていない」と気を取り直して彼らに向き直る。


「良し。皆が連中の内情を理解したなら、次の話じゃな」


「次?」


「……今後の動きじゃ」


「あ、ハイ!」


利家の不抜けた声に少しイラッとした声を出す信長。その声色と表情で今の彼女の気分を察した利家たちは、一斉に気を引き締める。


「儂らが伊勢に出るのは年明けの二月前後じゃ。兵は先陣として二〇〇〇で本隊が三〇〇〇の計五〇〇〇程度」


「五〇〇〇、ですか」


思わず、と言った感じで呟いたのは、一門衆の次席としてこの場にいる信広だ。美濃や三河との戦を知る彼からすれば、六角や北畠を敵に回しそうな状態で五〇〇〇は少ないように思えたのだが、これには信長としても狙いがある。


「うむ。尾張全土から兵を集めれば一三〇〇〇を超える兵を集めることが出来るが、美濃の青大将が動くやもしれんからの。ここは余裕を持って動くべきじゃろ。ま、儂らが余裕を持ったからと言って向こうが余裕を持つとは限らんがな」


「……なるほど」


織田が五〇〇〇の兵を動かし、長島や伊勢神宮が味方をしてくれない状況となれば、北伊勢の国人だけで対処出来るような問題ではないことは明白。


北伊勢の国人たちは、必ずや北畠や六角に援軍を要請するだろう。しかし六角や北畠とて、表立って朝廷や伊勢神宮の荘園を回復しようとしている信長に兵を向けることは出来ない。


だが、ここで兵を出さなければ彼らは自分たちに従う国人を見捨てたことになり、彼らの大名としての格に傷が付く。


結局彼らが取る手段は、開き直って兵を出すか、義勇兵のような形にして援軍を出すか、諦めて見捨てるか。となる。


この中で見捨てる以外を選んだ場合、彼らには更なる問題が襲いかかる。

五〇〇〇の織田勢を迎え撃つ為に兵を出すのは良い。

だが、織田勢が動かなければどうなる? 

ずっと北伊勢に軍勢を張り付けるか? 

そもそも北勢四八家の誰に援軍を出す?

その維持費は?

六角に従う国人と、北畠に従う国人は同じ方向を向けるのか?


六角も北畠も今後のことを考えれば、それぞれが三〇〇〇から五〇〇〇ほどの援軍を出すはずだ。だが、北畠は南伊勢に二〇万石から三〇万石ほどの所領しか持っていないので、南伊勢での防衛戦ならともかく、北伊勢への遠征でそれだけの兵を出すのはかなり厳しいものとなる。


対して六角は、近江を中心に大和や北伊勢などで七〇万石から八〇万石ほどの所領があるので、五〇〇〇程度なら多少懐が痛む程度で済むかもしれない。


だが、それはあくまで一時的な援軍の場合だ。


それが三ヶ月も続けば、田植えの時期にぶつかるし、その間に三好や美濃の斎藤、越前の朝倉だけでなく、北近江の京極や浅井と言った国人たちが動けば家が傾くほどの出費となりかねない。


兵を引けば「見捨てた」と見なされ名を落とし、兵を引かなければ出費で実を喪失する。もしも戦に勝っても防衛戦のため得るものはない。


さらに織田の軍勢は『余裕を持って五〇〇〇』なのだ。状況によってはさらに五〇〇〇以上の援軍を出すことが出来る。極論、援軍を出す。と、噂を流すだけで良い。


そうなれば六角や北畠が取れる手段は極めて少ない。

すなわち、兵を引くか。それとも更なる援軍を派遣して徹底抗戦するか。である。


しかし、戦をしようにも、織田勢が動かねば決戦は出来ない。かと言って向こうが尾張に攻め込むなど不可能。結局だらだらと時間を引き伸ばされるだけで自軍が崩壊してしまうのは目に見えている。


このように、今回はよほど阿呆な真似をしない限り、織田には『負け』の目がない戦となることが確定している。そして、ここまで読み切っている信長に阿呆な真似をする気もさせる気もない。


故に今回は『勝ちが確定している』と言っても良い状況なのだが、それでも織田家には非常に大きな問題が立ち塞がっていた。


「わかったな? 此度の戦、儂らに負けはない。じゃが、大きな問題が一つある」


「「「???」」」


これまでの説明を受けて、自分たちも「負けはない」と考えていた所にこの発言である。「この状況で何か問題があるのか?」と首を傾げる家臣たちを前に、信長は神妙な顔で、現在予想される最大の問題を告げる。


「……誰が北伊勢を治めるか、と言うことじゃよ。……誰ぞ、行きたい者はおるか? 最低でも五万石やるぞ?」


「「「…………」」」


それは、所領が増えて困ると言う大問題。


一昔前の信玄が知れば血の涙を流しながら殴りかかってきそうな贅沢な悩みに、一同は真剣な表情で頭を抱えるのであった。


史実の本願寺についてはもっと細かい事情がありますし関係性もちゃんとありますが、逐一書いてたら話が進まないので省略。まぁ多少はね? 


三河と長島の関係に関しては作者の憶測です。拙作では三河が早期にかつ自業自得で滅ぼされたので今更騒いでもなぁって感じです。


どちらにせよ長島も石山も今のところ織田と戦う理由がありませんってお話


―――



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― 新着の感想 ―
[一言] 人材って貴重ですからね…当面補充できそうなあてってほぼないですからねー 育成していくしかないでしょうかなあ
[一言] 九州に追加人員頼むとか? 先の人員は「三河守が全員雇う事が前提の人数」だろうから その気になればそこそこの人数を選出して送れるだろうし。
[一言] まあ坊主の敵は坊主ですよね。 室町幕府や信長もキリスト教を取り込もうとしたのは比叡山と本願寺対策でしょうし。
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