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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
五章。尾張と周辺国関係
112/127

102話。三河の虎と鬼。ついでに今後の方針。

文章修正の可能性有り

東三河・長篠城


東三河10万石と共に卓抜した戦術指揮官である島津義弘を旗下に加えることに成功した千寿は、今後の予定のすり合わせなどを行うために、主だったものを長篠城に招集して顔合わせを行っていた。


「お初にお目にかかります。武田信玄です(ふむ。旦那様が言うだけのことはあるね。まぁ姫様と比べたら普通の娘っ子だけどさ)」


「ご丁寧にどうも。島津義弘です(なるほど。これが甲斐と信濃の2国の国主を経験した者の威、か。女としては負ける気は無いけど、為政者として考えれば侮って良い相手じゃなさそうね)」


「話は聞いていると思いますが、第一側室は島津殿となります。ですが、その地位に増長して旦那様の足を引っ張るようなら……」


「えぇ。その時は容赦なく討ち取ってくださって結構です」


殺すぞ? 最後まで言わなくても伝わるようにと殺気を向けて言葉を濁す信玄に対し、義弘は特に表情を変えることもなく、まるで当然のことのように応じる。


「それがわかっているなら結構。あぁ無論、私が堕落したと判断したなら容赦なく討ち取ってください」


「はい。もちろんです」


そんな義弘を見て(ま、大丈夫そうだね)と判断した信玄は殺気を緩めつつ、彼女の見せた覚悟に対して敬意を示す意味で自身の覚悟を語れば、義弘はしっかり信玄の目を見ながら「言われなくとも殺してやる」と告げる。


「「…………」」


それから一切言葉を発することなく睨み合うこと数十秒(当人たちはお互いの器や距離感を測っているだけであって、睨み合っているわけではないのだが)。


「「「「(剣呑すぎない?)」」」」


同席した馬場や鎌田は二人の間に生じている、何というか空間が歪むかのような重圧を感じて内心で冷や汗を流し、本能からの「動いたらやばい」と言う警告を信じて動きを止める中。


「ふむ、挨拶は大事なのは確かではある。しかし、そろそろ軍議に移りたいのだが、もう良いかね?」


登場するタイミングを見計らっていたのか、突如として挨拶の場(正確には軍議の前に両者が顔を合わせただけ)に、二人にとって逆らうことが出来ない上位者が顔を出す。


「「?!」」


馬場や鎌田らにしてみたら「もう少し早く来て欲しかった」と言った感想を抱きそうになるところであったが、最上位者故に最後に場に現れるのは当然のことなので、彼らはそのことに対して文句を言うことなく無言で頭を下げる。


同時に、上位者の声を聞いた二人も即座に睨み合いを止め、


「あ、あぁ。元々こっちは島津殿に含むところはないからね! さぁ軍議をしようじゃないか!」


「そ、そうですね!私としても先達として武田殿には教わることも多そうですから、何も不満などありませんとも! ですから軍議をしましょう!」


と、お互いを誉めそやす。


ここでお互いを蹴落とそうとする讒言が出てこないあたり、二人の誠実さが伺えるところであろう。


「そうか。なら軍議に移ろう」


「「はい!」」


二人の様子を気にすることなく普通に上座に着いた千寿に対し、男性陣はどこぞの傾奇者が温泉で天下人に『酒を一献くれまいか』と頼んだことを目撃した男たち同様に「(この人、凄ぇな!)」と言う感想を抱いたとか抱かなかったとか。


とりあえず懸念されたような争いもなく、無事に奥の序列が決まったことは事実なので、今後千寿の下で一丸となって戦うことになる彼らにとっても一安心と言ったところだろう。


そんな女の戦いと、その戦いの間に挟まれた男たちの緊張はともかくとして。


本題は軍議である。


「ま、軍議とは言っても、こちらが不自然な動きを見せない限りは今川から動くことはない。故に我々がやることは、九州勢を加えた陣列の再構築とそれぞれの備(部隊)の慣熟訓練の打ち合わせになるな」


千寿が述べたように、いくら島津義弘が優秀な戦術指揮官であっても、部隊を指揮するには部隊の人間を知らなければならないし、周囲の部隊との連携を組まなければ戦など出来ないので、訓練は絶対に必要なのである。


そして今は訓練を行うには非常に都合の良い状況でもあるので、これを利用しない手は無い。千寿がそう告げれば、軍議の参加者は全員その方針に理解を示して頷き合う。


「ま、通常なら訓練に身が入らなかったりするもんだけど、今は目の前に敵がいるからねぇ」


「ですな。兵は我らと治部殿の関係を知りません故、彼らにとって今川勢とは不倶戴天の敵。なればこそ訓練にも身が入ります」


信玄がそう言って東に目を向ければ、彼女の副官のような存在である馬場もその意見に同意する。古来より『一度の実戦は百の訓練に勝る』と言う言葉があるが、今の状態は訓練と実戦の狭間と言っても良い。


隙を見せれば攻められる。そして本格的な攻勢を受ければ自身が死ぬ可能性が高くなる。


こう言った事情が有るからこそ兵士たちは真剣に訓練を行うし、訓練の最中に作られた簡易な空堀(塹壕モドキ)はそのまま長篠城や吉田城の防御力を増すので、決して無駄にはならない。


加えて言えば、長期の滞陣となれば田畑の開墾や刈り入れの都合上、厭戦気分が広がって中弛みが発生するものだ。しかしそういった兵士たちの士気の低下に対して頭を悩ませ、何らかの対策を練ることも、現場の指揮官には必要な経験である。


なので彼らを指揮する立場に有る千寿としても、こうして6000の兵を国境に貼り付けている現状を無駄だとは思っていないし、尾張の国人衆も千寿が今川勢に対する壁となっている間に尾張の政に専念出来るのだから、現状を歓迎こそすれ「外様が何様だ!」などと非難するような気配はない。


まぁ元々この対陣そのものが、北条を油断させて今川が動き易くする為に考えられた策であり、信長の決めた方針に文句を言う者が出てこないかどうかを確認する為の策でもあるので、どう転んでも無駄にはならないのだが、千寿が『時間も兵糧も有限なので、どうせ消費するならせめて有意義に使いたい』と考えるのも当然のことと言えよう。


このように、千寿の思惑を理解している信玄たちはまだ良い。しかし彼女らとは別に「ここで戦が無い」と言うことに頭を捻る者もいるわけで。


「しかし鎮理殿……いえ、三河守様。向こうに隙が有ったなら如何なさいますか? まさか無視するわけにも参りますまい」


ここでの戦を望んで三河までやってきた九州勢を代表(ついでに誾千代の代理でもある)し、由布惟信が千寿に問いかける。


元々彼は戸次家に仕える者であり、当然吉弘家の次男である千寿とはそれなりに知った仲である。そして千寿は経験豊富な先達を軽んずるような人間ではないので、姫様としては彼に千寿の暴走を止めるストッパー(ツッコミ役)としての役割を期待しているとかしていないとか。


そんなストッパーとしての役割を期待されていた筈の彼がいきなり戦を促すようなことを言ったものだから、信玄や千寿の方針を聞かされていた義弘は目を剥き、次の瞬間には彼に対して「旦那様の方針に逆らう気か?」と殺意を飛ばしてしまう。


「お見事。さすがは由布殿」


しかし由布が言わんとしていることを正しく理解している千寿は、周囲からの不興を買う可能性を顧みずこうして問題提起をしてくれた彼に対して、怒ることはない。


それどころか朗らかに笑いかけ、その見識を褒めることで信玄や義弘の勘違いを正すこととした。


「確かに今川勢に隙があったなら、こちらが動かねば不自然です。そして、その不自然さを見抜けぬほど北条氏康と言う大名は愚かではありません。また、現段階で今川家との関係が漏れるのは確かに面白くありませんな」


そう。由布惟信は、隙を見せた今川に対して手心を加えることで違和感が生まれ、その違和感から周囲に今川家と織田家の本当の関係が露見することを懸念していたのだ。


三河に来てまだ日は浅いが、こちらの常識として『今川家と織田家は不倶戴天の間柄である』と言うことを理解すれば『実際は同盟関係にある』と言う事実を知られていないと言うことが、周囲に対してどれだけのアドバンテージを生み出すモノなのかと言うことも当然理解出来る。


どんな策を練ろうとも、今川家と織田家が互いに連絡を取り合う仲である以上、全ては筒抜けとなる。つまり、今川を使って織田を貶めようとする策も、織田を使って今川を貶めようとする策も総じて無意味なモノに成り下がるのだ。


これは今川や織田の敵にしたら、遠大かつ凶悪極まりない策である。


実際、この両家の関係を知らなかった武田は戦うことも出来ずに敗れたし、今川を頼りとした斎藤や服部党、織田大和守家も何もできずに敗れているのだから、その効果は推して知るべしと言ったところだろうか。


故に、由布は「この策が露見しても良いのか?それとも何か方策があるなら教えて欲しい」と言う意味で「今川と戦はしないのか?」と尋ねたのだ。


「では?」


「無論、向こうが隙を見せたら動きます。井伊谷は潰し、曳馬(浜松)か掛川を囲むことになるでしょう」


そして彼の問いに対する千寿の答えは「動く」であった。


「……よろしいので?」


自分が思った以上に積極的に動くつもりの千寿に対して「それだと談合も何もないんじゃないか?」と考えた由布がその真意を確認しようとすると、当の千寿は笑いながら告げる。


「先程も言ったように『向こうが隙を見せたら』です。由布殿はまだ今川治部や宰相殿のことを知らぬのでそのようなお考えになるのでしょうが、あの二人はそこまで甘くはありませんよ。あぁこの方針は確りと周知させねばなりませんな」


「……なるほど」


つまり、ここで『向こうが隙を見せたら攻める』と公言することで戦をしたがっている連中の不満を抑えつつ、あえて向こうにも聞こえるようにすることで『だから隙を晒すなよ?』と警告をするわけだ。


その警告を受けた上で隙を晒すと言うのなら? そのときは『今川に盟主たる資格なし』と判断するだけの話。


まぁ千寿に対して並々ならぬ憎悪を滾らせている雪斎なら、千寿の意図を理解した上であえて隙を晒して千寿を誘い、そのまま遠江を明け渡して過労死を狙うくらいのことはやりかねないのだが、流石の雪斎も今川家の家臣に対し、意趣返しの為だけに遠江を捨てるような真似をさせることなど不可能なので、捨て身の策を警戒する心配は無い。


「つまるところ、しばらく戦はないと思われる。しかしながら、想定外のことが発生するのも世の常である。よって方々は油断せず統治に勤しんでもらいたい」


「「「「はっ」」」」


千寿の宣言を受けて、場に居た全員が頭を下げる。


三河勢の直近の方針が『甲斐での粛清や統治に忙しい今川に対し適度なプレッシャーを与えつつ、訓練と内政に勤しむ』と言う、戦時中とは思えない程に余裕の有るものとなることが決定した瞬間である。


「あのクソガキめッ!」


数日後、千寿の行った布告を聞いてその意図を見抜いた黒衣の清掃員が、青筋を立てながら恨み言を呟く様が散見されることになるのだが、千寿に言わせれば信長が家督を継いでからこれまでが忙し過ぎたのだ。


よって千寿がその忙しさの一因であった今川に対し、こうして『次は貴様らが働く番だ』と意趣返しをするのも仕方のないことと言えよう。


そう。仕事を増やされることになった結果、常時機嫌が悪い清掃員と向き合うことを余儀なくされたどこぞの海道一の弓取りが「もう少し仲良く出来んのか」と頭を抱えようとも、それは仕方のないことなのである。

正妻の地位は姫様が抑えているので、ここで信玄と義弘が相対しても正妻戦争は勃発しません。


とりあえずこんな感じで、織田の領地拡大は小休止に入ります。

ゆっくり内政していってね! ってお話。



―――


ポイントが作者のモチベです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒衣の清掃員という表現が、じわじわときますね。
[一言] 今川はこのあと待望の本貫奪取作戦やるんだから、 ちゃんと三河側にリキ入れてる演技徹底しましょうねってことですね。 織田vs今川の緊張感が高まれば高まるほど、 北条は今川側をがら空きにして、上…
[良い点] 清掃員になってるw
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