43.
「シローさんは過去を変えたことってありますか?」
そんなことを考えていると、その当人が俺に疑問を投げかけてきた。いきなりのことだったので処理が追いつかず、返事が出来ずにいるとそのまま続ける。
「あるわけないですよね。過去でも未来でも、時間移動できる魔法を使うことは重罪ですし、仮に変わっていたとしても本人以外は認知できませんから。でも、もし過去を変えたらどうなるんでしょうね?」
「…………」
「魔女の言うように過去が変わった時点から、すべてが変わってしまうんでしょうか? ここでシローさんを殺せば未来のシローさんはいなくなってしまうのか……。それともいわゆるパラレルワールドみたいにシローさんがいる未来といない未来が出来てしまうんですかね?」
そこまで言われて緋乃さんの言いたいことが何となくわかってきた。つまり過去を変えるとどうなるのか――。
「そんなの誰にもわからないですよね。だから私はパラレルワールドになることに賭けたんです。ここで過去を変えても、私がいた未来は変わらない……。その理論に少し無理があるのはわかってますけど、でも、私にはもうそれを信じるしかないんです」
緋乃さんは「だから」と続けると今度こそ本当に地を蹴ってこちらに向かってきた。
「シローさんには申し訳ないですけど、裏切らせていただきます!」
――速い!
緋乃さんのスピードはこれまで見たどの動きよりも素早かった。もしかしたらすべてを話し終えたことで吹っ切れたのかもしれない。
だが沙紀もずっと油断なく戦闘態勢を崩していなかったおかげか、その動きにいち早く反応する。
「ふっ!」
まるで居合い斬りをするような一太刀。横に凪いだその一閃は俊足で移動する緋乃さんに吸い込まれていく。しかしその刹那、緋乃さんは速度を落とさずそのまま地面にダイブしてやり過ごす。それなりの勢いでダイブしたので痛みがあるはずだが、そんな様子はおくびにも出さず、今度は緋乃さんがお返しとばかりにそのまま沙紀の足を横に凪いだ。
「きゃっ」
沙紀はその人間離れした動きについて行くことができず、そのまま体制を崩し倒れてしまった。あっという間の出来事だったので、何も手を出すことが出来なかったが俺も魔法がない夢のなかでは対等以上に戦えるはずだ。手に持った金属バットを構えて緋乃さんに立ち向かう。
だが振りかぶって――そこで躊躇する。
本当にこれでいいのだろうか? 確かに緋乃さんは俺たちを騙した。このまま本気で殺しにくるだろう。しかしそれは元はといえば俺のためなのだ。未来の俺を救いたいがための行動。そして俺は緋乃さんと行動して彼女が本当はどれだけ優しいか知っているのだ。きっと今だって悩んで、それでもこうするしか方法が見つからないんだろう。そんな彼女に俺は戦ってもいいんだろうか。
そんな思いが俺を支配する。しかし戦場においてそれがいかに致命的になるのか、それを俺はわかっていなかった。
「はっ!」
緋乃さんはその隙を逃さず両手にぐっと力を込めると、まるで倒立をするかのように足を勢いよく上げて、そのまま俺の右手に蹴りを繰り出す。まるでサーカスのような芸当に思わず金属バットが手から離れる。それを確認した緋乃さんはすぐさま起き上がると丸腰の俺のみぞおちに拳をお見舞いした。
「ぐっ」
さすがMCPというべきか。体術ではまったく敵わず、俺はそのまま背負い投げをされるとその上にまたがってくる。
「動かないでください」
直後、首筋に当たった冷たいものがナイフだと気が付く。そしてその言葉は俺ではなく、やっと起き上がった沙紀に向けられたもののようだった。
「武器を捨ててください」
「……っ」
沙紀もこうなってしまえば手が出せないようで、言われた通りに木刀を捨てる。




