十三歳の俺と人助け 前編
「ハァー !轟掌破」
「龍鋼硬! 甘いよ。そらっ! 龍旋脚」
「護法の纏・風! そっちがな!」
『轟掌破』を俺が繰り出すと、
(体内で練った気功を掌低から打ち出す技)
師匠が『龍鋼硬』で防ぎ、
(龍気を内側に溜め防御力を瞬間的に上げる技)
出会った頃にも使っていた『龍旋脚』を返してくる。
(龍気を脚に集め放出すると共に蹴る技)
それを今度は俺が『護法の纏・風』で弾く!
(護法の纏と風の精霊魔法との合成、バトルスーツに風の属性を付与した様なもの)
攻撃と防御が交差し、そして互いに距離をとる。
「やれやれ、やっとまともに模擬戦が出来る様になったじゃないかい!」
「ああ、やっと全盛期の俺と動き的には遜色無いレベルになったからな、ある程度は撃ち合えるさ。」
「まぁ、まだ撃ち合えるだけで戦闘技術はともかく、スキルの錬度はまだまだね。この程度じゃあ、私もまだまだ負ける気はしないけどね。」
「そりゃあ自分でもわかってるよ。まだかなわねーって事は、いちいち自分自慢するなよ!」
「生意気な口だけは、昔と少しも変わらないねぇ。もう少ししごいてやらないとダメみたいだね。」
「上等だ! 今度こそはダメージを与えてやる!」
そう言いながら、再度模擬戦をはじめる。
月日は流れ、俺が師匠に拾われて十三年目となった。相も変わらず、飯の時間以外はこうして師匠と模擬戦を繰り返している。
本来は模擬戦以外にも、単純な勉強や一般常識を学んだりするのだが、七歳の時師匠にお願いした所「隠居していたから最近の事なんかわからん」と言われた為に、世界の情勢などがまるっきりわからない状態であった。
どうするか悩み、何か役に立つスキルはないかと探した所ユニークスキル『記録保管所』(アーカイブ)と言うスキルを見つけ、スキルの情報検索によって知識を得る事が出来た。
その他に、たまに街への買い出しや倒した魔物の換金したりする事以外は、ここ『業魔の森』を出ることは殆どなく、日々力を蓄えている。
この業魔の森は、魔物推定ランクAAとなっており高ランク冒険者でも滅多に来ない人外魔境の森である。
俺も結界魔法がなければ間違いなく生きてはいけない森だ。
そんな人が立ち寄らない森の中を、鍛練を終え夕食の食材を探していると不意に女性の悲鳴が木霊する。
「誰か助けてーーーー!」
~キョーヤside~
「なんだ!? 女の悲鳴! この森に立ち寄ったのか? まあいいとりあえず行ってみるか。」
声のした方へ意識を向けると、直ぐに人の気配を感知したので護法の纏・風で速度を上げて気配がした方へ向かう。
「いた!!」
女を見つけ、直ぐに魔物へと解析スキルを使う。
『解析』
フレイムタイガー
討伐ランクA
牙や爪での攻撃に加え火属性魔法も使ってくる。
基本的には群れる事をせず単体で行動する。
素材として牙、爪、毛皮がある。
「さて、どうやらあの檻の中にいる少女が悲鳴をあげたみたいだな。あれでは、火属性魔法を使われたら焼け死にだな。一応結界を張っておくか『結界魔法/反転球・魔』これでよし。じゃあサクッと終わらせるか、『精霊魔法・氷/氷帝剣』『時空魔法/転移』」
フッ、ザシュ!
少女を、檻ごと魔法反射の結界で覆い、フレイムタイガーの背後へ転移し精霊剣で頭を跳ねる!
戦闘は一秒も掛からずに終わった。
~少女side~
私は三日前に、住んでいた村の近くの森で盗賊に襲われてしまい家族とも引き離されてしまった。
幸い奴隷商人に高く売る為、私には手を出しては来なかったので純潔は守られたが遅いか早いかの違いでしかない。そして今日、非合法の奴隷商人に売る為盗賊と共にここ業魔の森に連れてこられた。
取引が終わり、奴隷の首輪を付けられ檻に入れられた時、急に魔物の雄叫びが聞こえた。
「ガルルルルル!」
「まっ、魔物だ!」
「こっ、こいつはフレイムタイガー!!」
「なっ、何!?」
「急いで逃げるぞ!」
「待て、私と商品はどうする気だ!」
「知るか! 自分でどうにかしやがれ!」
盗賊と奴隷商人は、慌てて逃げようとするが魔物はすぐさま襲いかかり、一人残らず牙や爪によって殺された。次に魔物は、私が入れられている檻に近づく。
檻に噛みついたり、爪で引き裂こうとしてくるがなかなか檻は壊れない。すると、魔物は諦めたのか檻から離れていく。
私は助かったと思い安堵するが、それは直ぐに新たな絶望によって拭いさられる。去って行ったと思った魔物は、檻から少し離れた距離から大きく口を開けて此方をむく。
すると、次第に口の辺りに火が集まりどんどん大きくなる。そして私は、それが数秒後には檻に放たれる事を察した。
「どうして、どうして私なの、なんで、何で! 誰か、誰か助けてよ! 嫌っ嫌っ、死にたくない! まだ生きたいよ! 誰か助けてーーーー!」
数秒後の絶望を思い私は泣きながら理不尽を恨む、生きるのを諦める事が出来ず生を渇望し執着する、届かないとわかっていても誰かへと助けを求める。
そして、私へと訪れる数秒後の絶望は……訪れる事はなかった。
涙で滲む視界で魔物を見ていると、いきなり魔物の頭が跳ね飛ばされた。
「えっ?」
何が起きたかわからずほうけていると、魔物がいた場所の後ろに人影がみえた。その人影は私の方へと近づいてくる。
近づいて来た人影を見ると、そこにはまだ少年と呼ぶべき年齢の男の子がいた。
髪は輝く様な銀色で、瞳は明るい金色、顔は幼さは残るがキリッとしておりかなり整っている。
何故、業魔の森にこの様な男の子がいるのか私はわからずもしかして人ではないのかと思ってしまい、
「か、神様?」
とつぶやき絶望から解放された私は意識を失った。
~キョーヤside~
フレイムタイガーを倒し、少女に近づくと少女は何かをつぶやき気絶してしまった。
「さて、どうしようこの子。流石にこのままにしておく訳にはいかないよなぁ。とりあえず家に運ぶか、師匠から何を言われるかわからんが、助けたのを見捨てるなんて守護者としては出来ん!」
少女が入っている檻を破壊し、少女を抱き抱えるとそのまま家へと帰る。家に帰り着くと少女を見た師匠から、
「なんだい、今日の夕食はその子かい。」
「そんなわけねーだろ! 悲鳴がしたから行ってみたら、フレイムタイガーに襲われていたんだよ! 他にも何人か死体があったが、恐らく身なりから判断して盗賊と奴隷商人だろう。」
「ああ、恐らく非合法の取引だろうね。たまに、人目に付かないこの森で違法取引なんかがあるからね。それで、あんたはその子をどうするんだい。」
「どうするってもなあ、守護者の矜持として見捨てる事は出来なかったから、とりあえず連れて来たってだけだからなぁ、この子が起きてこれからどうしたいか聞いてからだな。」
「そうかい、ならとりあえず部屋に寝かしときな。それから夕食の準備をしな。」
「たまには、自分で料理くらいしろよな。」
「うるさいね、キョーヤの方が料理スキル高いんだからどうせ食べるなら上手いもんがいいに決まってるさね。」
それから夕食を作り二人で食事をし、自分の部屋で記録保管所を使い文献を読んでいると、空き部屋で寝ていた少女が起きた気配がしたので、食事をもって少女が使っている部屋へと向かう。