Twitter SS③ 友を失くした日 ファルカス
「殿下」
「……なんだ、突然」
友人と思っている相手が突然畏まった称号で呼びかけてきたので、ファルカスは眉を寄せた。彼の身分を知らなかったからとはいえ、初対面で殴り掛かって来たような奴だというのに。王子への敬意など持っていないだろうに、気持ち悪い。
「これからは殿下を称号でお呼びすることにしました。俺――私が忠誠を誓うに相応しい方と心に決めましたので」
「らしくないことを」
慣れない敬語に舌を噛みそうな顔をしているアンドラーシがおかしくて、思わず頬を緩める。同時に胸を過ぎるのは一抹の寂しさ、のような感情だ。
祖父も最近、彼を称号で呼ぶことが多くなった。もともと公私を厳に分ける方ではあったけれど、誰も聞いていないはずのふたりだけの時でさえ。ファルカスも自身の不安定な立場を理解しているから、いつまでも子供の気分ではいられないと、分かってはいるのだが。王族としてあるということは、祖父だけでなく友人も失うことらしい。
そんな感傷には蓋をして、ファルカスは表面は何も感じていないかのように振る舞う。
「いつまで持つか楽しみだな」
「この先ずっとですって」
不服げに唇を尖らせるアンドラーシの口調は、もう砕けている。
「その調子では先が思いやられるぞ」
その親しさは、子供時代の最後の名残のようなもの。すぐに失われるであろうそれを微かに惜しみながら、ファルカスは声を立てて笑った。




