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弟の訪問 エシュテル

9章後のエシュテルとカーロイのエピソードです。

本編が11章冒頭の現段階では、彼らの心情は伏せた方が今後の楽しみになるかと思い、あえてエシュテルの台詞のみで構成しています。

 忙しいでしょうにわざわざ来てくれてありがとう、カーロイ。お母様からのお見舞いもいただきました。お礼を伝えてちょうだいね。

 城下での暮らしにもだいぶ慣れたわ。乳母(ばあ)やも迎えてくれたし、手伝いもさせてくれているから、それほど肩身が狭いということもないの。屋敷よりも居心地が良いくらいかもしれない。王宮を追われたなんて、我が家には醜聞ですものね。


 ええ、だから屋敷に戻ることはできないわ。お父様がご不在の間になし崩しに……なんて。一番怒られてしまうことでしょう。少なくともお父様がお戻りになって許していただかないことには、私は帰るつもりはありません。

 あの程度のこと、ではないのよ、カーロイ。私はここで子守りをすることもあるの。身分低い女たちは家を出て働くこともあるから、見ている者が必要なのよ。それで改めて思い知ったの。子供がどれほど簡単に傷ついて、どれほど容易く……時にはとても悲しいことになってしまうのか。子供ときたら本当に、どこへでも行こうとするし何でも口に入れようとするものなの。

 ひと時たりとも目を離してはならないのだと、母親たちはうるさいほどに繰り返すの。私はまだ悲しいことを直接は見聞きしていないけど、そうするのも当然だと分かるくらい、幾らでも例が挙がるのよ。


 それを、私は――! 王女様はとても好奇心旺盛な方なの。尊い、決して傷つくことのあってはならない方なのに、私は勤めを疎かにしてしまったの。

 ミリアールトの御方は優しい方だったわ。王女様を王妃様のところへ送りにいらしてくださった。でも、あの方を疑うかどうかという問題だけではなかったのよ。王宮には子供なら溺れてしまうような池もあるし、使っていない建物に迷い込んで出られなくなってしまうかもしれない。そういうことを、考えておかなければならなかったのよ。


 ……私は悪くないと言ってくれるのは嬉しいわ。貴方はお父様を宥めようとしてくれた。あの時は、貴方に免じて追い出されないで済んだら、なんて思ってしまったものよ。でも、今なら私は私の落ち度を知っている。お孫様のことですもの、ティゼンハロム侯のお怒りも当然なのよ。

 だからお父様がお帰りになっても、私のことを言ったりしないでも良いの。それよりも――王妃様にご意見できないかしら。とても大らかな方だから、王女様のお転婆もただ微笑ましいことと思っていらっしゃるようで……。気をつけていただけるように、お母様伝てにでもどうにかならないかしら。私がそう言っていたと、伝えてくれたら嬉しいわ。


 訪ねてくれて本当に嬉しいのよ。どうもお喋りになってしまうみたい。やっぱり家族と話すのは乳母やたちとは別なのね。

 でも、あまり長居はできないでしょう。お父様は遠いミリアールトにいらっしゃる。当主の代理として、あなたも仕事が多いのでしょう? とても疲れた顔色よ。早く帰って休んだ方が良いわ。……お父様が戻られたら、そうそう私を訪ねに抜け出すこともできないから、ということでしょうけど。




 そう、ミリアールトの乱は収まったの。王妃様もきっとお喜びでしょう。王女様も、お父上に会いたくてしかたないはず。ミリアールトの姫のことは……ティゼンハロム様に連なる家の者としては喜んではいけないのでしょうけれど、でも、嬉しいわ。あんなにお美しくて優しい方が無残に亡くなるなんて考えたくないもの。

 それに貴方も安心でしょう。皆も手伝ってはくれるのでしょうけれど、お父様の代理は重荷には違いないでしょうから。ああ、まだ気を抜いてはいけないわね。最後の最後でも何か手落ちがあったなら、あの方は見逃してはくださらない。なおのこと、早く帰った方が良さそうね。


 ねえ、カーロイ。私ばかりが喋っているわ。久しぶりに弟に会えて嬉しいから、よね? 姉のお喋りに付き合ってくれているのよね? それに疲れてもいるのでしょう。顔色が悪いのは疲れているから、だから口数も少なくなってしまうのよね?

 乱は無事に鎮まったと言ったわよね? 大した戦いもなく終わったと……。それならもう心配することはないのよね? 私たちのお父様は強い方。麾下にも恵まれているはず。そんな方に限って、そんなことはあり得ないはず。


 どうして何も言ってくれないの? どうして私にこんな思いをさせるの。早く私を安心させて。こんなこと聞きたくも考えたくもないのよ。口にするだけでおかしくなりそう。でも、貴方を信じて尋ねるわ。どうか私が望む答えをくれますように。


 お父様は、ご無事なの?

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