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没エピソード② ミリアールト語講座初級 アレクサンドル

活動報告に掲載した没エピソードの転載です。85話「戦いの予感 シャスティエ」の直後の話です。


【注意】

下ネタです。本編に入れなかったのは、「ファルカスが調子に乗りすぎじゃね?」「セクハラかつパワハラとかサイテー」「グニェーフ伯も離反するわ」等々を考えた結果「……ないな」と判断したためです。

作中では実際には起きなかったやり取りということになりますのでご留意ください。

 マズルークへの対応について一通り説明を終えると、王はふと悪戯っぽく微笑んだ。臣下の前では厳しい表情を纏うことが多いようだが、このような顔を見るとやはりこの男は君主としてはかなり若いのだと思い出させられる。


「時に、イルレシュ伯――」

「は」


 そのような感慨はもちろん表に出さず、アレクサンドルは慇懃な態度を崩さない。同盟を結んだとは形ばかり、心の裡では敵国に女王の身命を握られたものだと認識している。いつどのような場でも、隙を見せる訳にはいかなかった。


「――――、というのはミリアールト語か?」


 しかし、王の問いはあまりにも唐突で予想を外れたものだったので、さすがの彼も反応が遅れた。


「……は。左様でございますが……」

「ほう」


 王の発音はミリアールトを祖国にする者には大分奇異に響いたが、それでも母国語の単語には違いなかった。


 ――イシュテン人が異国の言葉に興味を示すなど……。


 まさか復讐を名乗ったシャスティエの意図を知られたのか、と心臓を凍らせたのだが、王は鷹揚に頷いただけだった。楽しげな王と裏腹に、女王が表情を強ばらせたのが不吉でならず、アレクサンドルとしては気が気ではない。


「そうか」


 意味ありげにシャスティエに視線を投げてから、王はまた問いを重ねる。


「では、意味は?」

「……より良い、というような……」


 警戒のあまり、子供にも分かるような簡単な意味を答えるのに不自然に間を空けてしまう。


「ほう、そうか」


 しかし王はそれも気に留めた風ではなく、やはり笑って頷いた。先ほどよりも深く、先ほどよりも愉しげに。反対にシャスティエの表情はますます硬く、色を失くしていく。


「それが何か……」


 堪りかねて反問する無礼は、意外にも咎められることはなかった。それどころか王はアレクサンドルに対してさえ朗らかに爽やかに笑いかけて見せた。


「いや、意味は大体想像がついていたが確信がなかったのでな。胸のつかえが取れた思いだ、礼を言うぞ」

「はあ……」


 曖昧に頷いたところへ、王はごくさりげない調子で付け加える。例の非常に愉しそうな――しかしどこか獰猛な笑みを浮かべたままで。


「――何しろこの者は頑として意味を教えてくれぬのだ」

「あ――!」


 不意にアレクサンドルは王の言わんとすることを察した。慌ててシャスティエの方に目をやれば、今度は顔が耳まで真っ赤に染まっている。祖父のような彼に、閨での言葉を漏らされたのを心の底から恥じ入っているのだろう。それとも燃え上がるような憤怒に煮え滾っているのだろうか。


「虐めている訳ではないと言っただろう。これで信じることができるな?」


 王が高く笑うのを聞きながら、恐らくアレクサンドルもシャスティエと同じ顔色になっていた。


 ――この男……何という……!1


 怒りと羞恥のあまりに口も聞けない有り様だったのは、きっと彼にとっては幸いだったに違いない。

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