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スイ様の言うとおり!  作者: ゆう都
第三章 からまる糸
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側妃の秘密

「さぁ、教えてもらおうか」

 翠が彼をアーガルに任命した次の瞬間、彼はさっさと立ち上がって、その高い身長で翠を見下ろした。先程までの厳かな雰囲気はどこにいったと言いたくなるが、自分に膝をつかれたままより、余程いい。翠は苦笑して問いかける。

「座っても?」

「どうぞ」

 翠のために、侍従のように椅子を引いたルーカリアナに礼を言って椅子に座ると、翠が息を1つ付いて、後ろを振り返った。

「ジナオラも、ついでに聞いていいわよ」

 背後に控えたままのジナオラが、その言葉に頷く。





「その前に」

「?」

「ちゃんと名乗ってもらいましょうか。私、自分のアーガルにまで身分を隠される謂れはないと思うのだけど」

 じ、とルーカリアナを睨みつける。

「これは、失礼。では、改めて。ルーカリアナ・バレット。このヴァルモンドの武を司る近衛隊長を拝命しております。どうぞ、よしなに、お妃さま」

 騎士の礼をとったルーカリアナに、知っていたけど、と内心で溜息をつきながら、翠はふと思い出したように、あぁ、と声を漏らした。





「私のことは名前で呼んでちょうだい。アーガル全員に命じていることだから」

「かしこまりました、シスイ」





「そういえば、爵位はないの?」

「この立場になってから叙爵はされた。名乗ってはいないけど」

「……貴族が嫌いなのね。王のことはこんなに好きなのに」

 翠がくすり、と笑う。馬鹿にされたと思ったのか、ルーカリアナが眉を寄せるが、とくに文句は返ってこなかった。





「で、どうして何に対しても興味が薄いシスイが犯人探るような真似してたわけ?」

「……私の飼い主がお望みだったからよ」

 翠は、そう言いながら、手だけでジナオラを呼ぶ。ジナオラは無言で、ことの元凶になった手紙を差し出した。

「犬なら鼻をきかせてみろ……ねぇ」

 その手紙に脱力したようにルカが頭を抱える。





「じゃぁなに、シスイは陛下のお遊びに付き合ってたってわけ?」

「私のことを、アナタに無駄に疑わせることを含めて、王のお遊びよ」

 ルーカリアナも一枚噛んでいることを告げると、ルーカリアナはさらに肩を落として呻きをあげた。

「常々分かってたけど! あの方が、あえて、俺にシスイのことを言っていないって、分かってたけど!」

「それで暴走して、アーガルにまでなっちゃうんだもの。王もどこまで想像してたかしらね」

 翠が嘯く。





「まぁ、それをいっちゃえば、私もフィンとルカ、両方アーガルにしちゃって、文句言われないかしら。ジナオラが宰相だったら、国を乗っ取れちゃったわね」

「安心して。ただの元奴隷だから」

 答えたジナオラに、翠とルーカリアナは揃って、嘘つけ、と睨みつける。

「王からすれば、犯人が誰かなんて興味なかったのよ。あぁ、もっとストレートに言うならば、誰でもよかったのね。私が解決できればそれでいいし、できなくても、毒殺未遂の時みたいに煽ってやれば、相手が焦ってか、油断してか、襤褸を出すでしょうから」





 翠の言葉にルーカリアナが難しい顔をする。

「それが、分からないんだよ。なんでシスイは犯人探しを命じられるほど信用された? 陛下だって、お遊びとはいえ、怪しい人間にあえて犯人探しをさせたりする方じゃない。それに、エリツアールドだって、今まで、気難しい頭でっかちの研究命だった男が、なんでシスイに心酔してる? シスイが来るまで、あの男の顔に表情が浮かぶとこなんて見たことなかったぞ」

 フィオルナルはそれほど気難しかったのか。自分の前では常に、物腰は丁寧で、心中は闇を纏った男だったから知らなかった。翠のそんな思いを知らずに、ルーカリアナが続ける。





「今回、あの人がどれだけ荒れたか知ってるか? シスイと会わせなかった間、俺がどれほど罵られたか。敵を殲滅するとき、味方もろとも巻き込むような、めちゃくちゃな大技出そうとして、俺がそれだけ必死に止めたか。どうしてそこまで、シスイは陛下に、エリツアールドに、ここまで信用されてるわけ?」

 ルカの納得できないとばかりに翠を睨みつける。それに、翠は正直に返すことにした。





「信用とは違うわね。もちろん王だって、犯人じゃないだろう、ていう人間くらい思い当たってるわよ。アナタしかり、フィンしかり、トゥジェディしかり。でも、別に、あの人はそういう人間が万が一犯人であっても驚かないんでしょうね。そのくらい、他人を信用しない人。もちろん、それは私に関しても一緒だと思うわよ。私のことだって、信用してない。……でもね、あの人は知っている。私が犯人であることは、あり得ない、て」

 翠の言葉にルカが眉をよせる。だからその理由が知りたいのだ、と表情が語る。





「それはね……私が魔法陣の制約に縛られた、異世界人だから、よ」

「!」

 ルーカリアナも、そして背後のジナオラからも、息を飲む音が聞こえた。

「いくら魔道語に疎い王でも、使い古された『決してヴァルモンドに対して害悪を為し得ないもの』の制約の文字くらいは知っているわよ。そして、その制約が過去破られたことがないこともね」

 過去に例がないからと、翠もその前例に乗っ取っていると思うのはいささか安易だが。





「そして、私を喚び出した魔法師が……」

「エリツアールド、というわけか。だから、あの男は貴女に負い目を感じている。神殿出身だからな。人を喚び出すのには相当の葛藤があったんだろう」

「そういうことね」

 翠はあっさりとネタばらしをして、くだらないと笑って見せた。

「そういうわけで、万が一、なにかの拍子に、制約が外れる、なんて、この世界始まって以来の奇跡が起こらない限り、私はこの国を壊したりできないわ。……蓋を開ければこんなに単純。ねぇ、今ならジナオラの他には誰もいないわよ。……辞めちゃう?」

 アーガルに、なるのを。本来なら既に罷免権など消失しているが、翠はそれを隠してやるとルーカリアナに笑いかける。





「俺が、そんなことをする男だと?」

「思ってないわよ」

 ほら、やっぱり。ルーカリアナは何が合っても、アーガルの法を破れない。





「貴女が何にも心を動かされないのは、ここが異世界だから?」

 ふと、ルーカリアナが尋ねた。翠の護衛は部屋の中でもできるから、と立派に公私混同をして、部屋に居座っている。

「……」

 ルーカリアナの言葉は、しかし、翠には痛かった。本来は違うが、違う、とも答えたくない。ならばどうして、と問われれば、返せる言葉を持たないから。

「……そういうことにしておいて。……今は、これが答えよ」

 だからこそ、できるだけ正直につげる。否定と、それから、今は言えないことを、伝える。

「ふぅん」

 納得しているような、していないような、そんな顔でルーカリアナは頷いた。



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