一章 ある街の少年と吸血鬼のお姫様 二話
次の日、たまたま休日だったリリアは朝八時にラススの街に住む魔妖狩り見習いが訓練を積むために使われるヒビィ草原の中央にて、スカイとルミルの二人に会っていた。
ちなみに二人は滞在期間中はラススの宿に泊まっているらしい。
後、現代の吸血鬼という存在は太陽の下に出ても大丈夫だと聞いたことがあるけど本当だった。
「リリア君。魔妖狩りなどの魔時を扱い戦う者たちにとって、最初に大切なのは先に基礎的な身体機能を高めることか、基礎の身体能力を差し置いても先に魔時を扱えるようになること……どちらだと思いますか?」
挨拶を済ませて、これから訓練に移る所でそう言われたので当然戸惑う。
「あ……いきなり言われても……」
「答えは五秒以内ミアよ!!」
「え? え、ええっ?」
ルミルが勝手にカウントダウンを始めるので雰囲気にのまれてしまい、必死に考える。
(いや……普通に考えたら肉体の基礎からだろうけど、そんなストレートな気がしないけど、でも魔時はエリートの人しか習得できないし、えーっと……!)
「いち……ぜ──」
「ぜ、前者の方で!!」
「外れです」
「あ、あれー……」
リリアは肩を少し落とす。
「肉体は当然ですが、人間、吸血鬼を含め、どの種族にとっても日々の生活や力仕事のやり易さが決まる根本的なものです。しかし、魔時という力は人の身体の“外側”の力である腕力や脚力とは違います」
ハキハキと喋り、スカイは胸の中央に右手のひらを当てる。
「思考や心情に左右される人の“内側”の力なのです。まあ、魔時を操る機械はありますが、あれは最初から機械が魔時を生み出したのではなく、人間から出た魔時を閉じ込めた物の効果で使えているだけですけどね」
…………魔時を扱う機械関連の仕事をしていたのに、そんな心の力とは全く知らなかった。
無知なことがとても恥ずかしいがとりあえずスゴい、そうスゴい力らしい。
「そして、魔時を扱う者にとって外側の力をいくら付けても無意味です。というのも内側の力である魔時という存在はコントロールできるようになれば、その人の扱える魔時の量だけ、身体能力が強化してくれるからです。要点をまとめると、魔時を持つ通称──魔時者にとって肉体のトレーニングは意味がなく、魔時が扱えるようになれば自動的に身体能力が強化されるということなので、魔時習得を一番始めにしましょう。ということです」
へ、へぇー……知らなかった。
なんかスゴい。
というより元々考えていたことだが、身体能力を自動的に強化可能なスゴい力など……。
「あの……スカイ。本当に魔時を僕なんかが使えるの? まだ、信じらなれなくて……」
するとスカイは自信満々な表情で答えた。
「使えます。血石に映った者の中で魔時を使えなかった者はいませんし、私の国には血石に映った者の素性諸々調べあげる吸血鬼が居るのですが、その者が『この子は調べた結果……魔時使えるようになるよ!』と言っていましたしたから」
なんかしれっと自分の素性とかもバレていてプライバシーが全然守られていないようだが、大丈夫なのだろうか?
ま、まあ……この人たちは悪い人の雰囲気がしないし……うん、しない、そう絶対しない。
後、自分に言い聞かせながら思い出したのだが、なんか少し前に近くで吸血鬼の目撃情報が会ったらしいが……それってもしかすると自分のことを調べていた吸血鬼さん……?
吸血鬼がこの近くで目撃されたなんて嘘じゃないのかなぁ、なんと思っていたけど……ま、まあ魔時が使えるようになる才能は確かな筈!
そう、確かな筈!
「そ、そうなら、使えるようになれるように頑張るよ!」
「その意気ミアよ! じゃあ、魔時を習得するために命かげの状態になるミア!」
「……………………」
やっぱり、この人たちは悪い人たちかもしれない。
「では、とりあえずこの近くで魔妖が多く潜むラシの森まで連れていきますね」
「あ、ちょ、スカイ!! 待って!!」
スカイは背中から赤い翼を出して、リリアを抱き締め飛び立つ。
その時、リリアは体が触れあっていることのドキドキとスカイの甘い香りで頭がクラクラとしていたが、気付いた時にはラシの森の中に下ろされていた。
「じゃあ頑張って下さい!」
「頑張るミアよー!」
空に浮遊しているスカイとスカイに付いてきていたルミルはそう言った後、見えない距離まで飛び去っていく。
「あ、あの! 待っ…………」
どこへ行ったのか完全に分からなくなり、助けの声も途中で止まる。
(ど、どど、どうしよう!?)
何の力も持たないリリアはもちろんパニックになる。
辺り一面は冬の季節らしく、木々の葉が枯れ落ち、森林という雰囲気は無く、見渡しやすい。
とはいえ、冬独特の静けさに包まれた森は不気味で安らぎもなく不安感を増長させる。
その上、魔妖というものは冬でも活発に活動する種族もおり──気付いた時にはもうリリアは魔妖に囲まれていた。
「……あ、え……」
思わず言葉を失う。
辺りを囲むのは五体の燃掌という魔妖。
姿は掌の形をしており、大きさは成人男性の掌ぐらい。
まあ、普通の掌とは違い──燃えているが。
人の魂を吸うことで生き永らえるとされ、敵を襲う際はゆっくりとゆっくりと近づき、五本の指から火の玉を発射する。
実力は魔妖の中でも最下層の部類だが、何も持たない少年にとっては別である。




