■外伝3「ゴースト:雨宮澪」
人は、真実を見ていない。
見ているのは、流れてきたものだけだ。
そして。
流れてきたものを、そのまま信じる。
それがどれだけ曖昧でも。
どれだけ歪んでいても。
“みんなが見ている”というだけで。
それは、真実になる。
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雨宮澪は、それを遊びとして始めた。
中学生の頃だった。
特に理由はない。
ただ、暇だった。
スマートフォンを手に入れて、SNSを触るようになった。
最初は普通だった。
写真を上げる。
日常を書く。
友達とやり取りする。
だが。
「つまんないな」
すぐに飽きた。
みんな同じことをしている。
同じような投稿。
同じような反応。
同じような流れ。
それが、面白くなかった。
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ある日。
澪は、適当に投稿した。
「この近くで変な音した」
嘘だった。
ただの思いつき。
意味もない。
だが。
数分後。
反応がついた。
「どこ?」
「怖いんだけど」
「さっき聞いたかも」
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「……え?」
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澪は、画面を見て笑った。
広がっている。
事実ではないことが。
勝手に。
まるで本当にあったかのように。
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さらに投稿する。
「さっきの、たぶん誰かが叫んでた」
嘘に、嘘を重ねる。
だが。
それでも。
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広がる。
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誰かが補足する。
誰かが証言する。
誰かが断定する。
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そして。
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“本当っぽくなる”。
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「……面白」
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その瞬間。
澪は理解した。
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真実なんて、どうでもいい。
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大事なのは。
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“どう見えるか”だ。
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それから、澪は遊びを続けた。
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適当な話題を投げる。
少しだけ現実っぽくする。
曖昧にする。
断定しない。
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それだけで。
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人は勝手に補完する。
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高校に入る頃には、フォロワーが増えていた。
人気者になっていた。
だが。
澪自身は、何も変わっていない。
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「みんな、勝手だなあ」
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画面を見ながら呟く。
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褒める人。
叩く人。
信じる人。
疑う人。
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どれも、同じだった。
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流れてきたものに、反応しているだけ。
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ある日。
澪は、少しだけ大きなことをした。
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「この店、閉店するらしい」
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嘘だった。
だが。
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数時間後。
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本当に客が減った。
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翌日。
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店主が困った顔をしていた。
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「なんでだ……」
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その様子を見て。
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澪は、少しだけ考えた。
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これは、ただの遊びじゃない。
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影響がある。
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現実が、変わる。
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「……やばいな」
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小さく呟く。
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だが。
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やめようとは思わなかった。
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むしろ。
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「もっとできるな」
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そう思った。
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大学に入ってからは、さらに広がった。
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動画。
配信。
短い投稿。
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すべてが繋がる。
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人の意識が、流れで動く。
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その中心にいる。
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それが、楽しかった。
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ある日。
カフェで配信をしていた。
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いつものように。
適当に話して。
適当に流す。
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だが。
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視線を感じた。
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顔を上げる。
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一人の男。
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静かに、こちらを見ている。
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神代昴だった。
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「なに?」
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澪は軽く言う。
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昴は答える。
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「その動き」
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「意図的か?」
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澪は笑う。
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「さあ?」
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「なんとなく?」
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昴は目を細める。
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「嘘だな」
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澪は肩をすくめる。
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「まあね」
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少しだけ間を置く。
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「でもさ」
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スマートフォンを見せる。
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「勝手に広がるんだよ?」
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「私がやってるっていうより」
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「みんながやってる感じ」
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昴は、それを見て理解する。
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この女は。
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流れを作っているのではない。
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流れそのものだ。
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「名前は?」
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「雨宮澪」
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「そうか」
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昴は、静かに言う。
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「来い」
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短く。
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それだけ。
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澪は首を傾げる。
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「どこに?」
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「面白い場所だ」
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昴は答える。
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その言葉。
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澪は少しだけ考える。
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そして。
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「いいよ」
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笑う。
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理由はない。
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だが。
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面白そうだった。
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それで十分だった。
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雨宮澪は、知っている。
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人は、真実では動かない。
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流れで動く。
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だから。
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その流れを作る者が。
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世界を動かす。
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それが。
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ゴーストの始まりだった。




