●第40話
組織のアジトに入る際、扉を開ける役はフレデリックに任せることになった。
観察したところ組織のアジトの扉は内開きのようなので、扉を開けると同時に最初にアジトに飛び込む特攻係だ。
「嫌な役を任せてすみません、フレデリック」
「気にしないでほしいっす。特攻は下っ端の仕事っすから」
私が謝罪をすると、フレデリックはへらりと笑ってみせた。
けれど私がフレデリックに特攻を任せようと思ったのは、今回のメンバーの中でフレデリックが下っ端だからではない。
フレデリックが適任だと思ったからだ。
「この役をフレデリックに任せようと思ったのは、フレデリックが下っ端だからではありません。フレデリックが王宮騎士団の中で一番目が良いと思ったからです」
「騎士団の中で一番っすか!?」
「ええ。私の見た限りでは」
王宮騎士団との戦闘訓練で、フレデリックは断トツで動体視力が良かった。
どれだけの火球を飛ばしても、フレデリックだけはそのすべてを避けるか弾くかして、一切の火傷をしなかったのだ。
とはいえ、王宮騎士団の中でフレデリックが一番強いかと言うと、それはまた別の話になってくる。
「フレデリックが一番なのは、動体視力に関してだけですよ。戦闘技術は騎士団長の足元にも及びません」
「上げてから落とすのはやめてほしいっす」
私にベタ褒めをされたと思っていたらしいフレデリックが、しょぼんと肩を落とした。
「落ち込むことはありません。私がフレデリックを評価していることは確かなのですから」
「でも僕は、騎士団長の足元にも及ばないんすよね?」
「私が言いたいのは、騎士団長の方が戦闘に関しては優れていますけれど、最初に扉を開けるのはフレデリックの方が向いているということです。扉を開けた瞬間に、敵の攻撃で蜂の巣になる可能性がありますからね。戦闘技術が高くても、そんな状態では攻撃を食らってしまいます。適材適所ですよ」
「集中攻撃でやられるのは、僕も同じじゃないっすか?」
「いいえ。フレデリックなら攻撃を避けきれる気がします。もし当たったとしても、急所に当たらないようには出来るはずです」
私の言葉を聞いたフレデリックが、照れくさそうに自身の頬をかいた。
「ジェイミー様は、僕のことを評価してくれてるんすね」
「ええ。扉を開ける役はフレデリックにしか頼めません。ちなみに扉さえ開けてくれれば、その後は戦闘に加わらなくても構いません。今のフレデリックに戦闘センスはありませんから。かえって邪魔になる可能性すらあります」
「だから上げてから落とすのはやめてほしいっす」
照れくさそうにしていたフレデリックが、何とも言えない複雑そうな表情になった。
全員が指定の配置についたことを確認した私たちは、ついに組織のアジトに突入することになった。
フレデリックと顔を見合わせて、頷く。
次の瞬間、フレデリックが扉を蹴破る勢いで開けた。
「手を上げて大人しく……うわっ!」
扉を開けた途端に、扉の外まで魔法が飛んできた。
それに剣のぶつかり合う音も響いてくる。
「突入!!」
騎士団長の掛け声を合図に、王宮騎士団がアジトの中へと雪崩れ込んだ。
その後ろから王宮魔法使いも突入する。
すぐにアジトの中ではたくさんの魔法の光が飛び交い、剣でのつばぜり合いの音が響いてきた。
私はみんなの後ろからアジトの中に入ると、アジト内の戦況を見て、怪我をしている味方に治癒魔法を掛け始めた。
今日の私は回復役なのだ。
それと言うのも、大人数相手なら、私が一人で相手をするよりもみんなに戦ってもらった方が良いからだ。
どれだけ高火力の魔法を使えたとしても、私の腕は二本しか無い。
一方で私以外の人間に戦闘を任せるなら、腕の数は飛躍的に増える。
私は攻撃ではなく、たくさんいる腕の持ち主を治癒する回復役に徹するのが上手い戦い方なのだ。
「くっ、強い!?」
「こっちだ。窓から逃げろ!」
戦況が悪いと判断した組織の何人かが、アジトの窓から逃げ出した。
「ぎゃあああ!!」
「窓は駄目だ!!」
しかしすぐに窓の外から叫び声が聞こえてきた。
それと言うのも、組織の者が窓の外から逃げようとすることは想定内の出来事だからだ。
想定内と言うことは当然、窓の下には私たちの味方が控えている。
窓から出てきた組織の者は、地面に降りる前に私たちの味方によって攻撃されたことだろう。
なお窓の外で指揮を執っているのはルーベンだ。
「こうなったら、こいつらを倒すしかねえ!」
「させないよ!」
私が直々に鍛えた王宮騎士団が強いことは知っていたけれど、王宮魔法使いも負けていない。
魔法という飛び道具を、敵に向けてばかすか放っている。
騎士団に近接攻撃をされ、魔法使いに遠距離攻撃をされるのは、組織の者にとって辛い状況だろう。
さらに傷を与えたそばから私が味方の回復をしてしまう。
「埒が明かねえ。まずは回復要員を落とせ! あの女だ!」
回復役の私が厄介だと踏んだ一人の男が、私に向かって突進してきた。
「あーあ。一番強い相手に挑んじゃったっすね」
その様子を見ていたフレデリックが苦笑している。
「はあ!? どういう意味だよ!?」
「こういう意味です」
私が杖をひと振りすると、男の足が氷漬けになった。
剣を武器にしているため、この男は魔法使いではないだろう。
無力化はこれで十分だ。
「なっ!? 無詠唱!?」
「何を今さら驚いているのですか。ずっと治癒魔法も無詠唱で使用していましたよ」
この男はきっと目の前の戦闘で手一杯で、私が治癒魔法を使う様子をしっかりと確認できていなかったのだろう。
「じゃあどうしてお前は戦闘に加わってねえんだよ!? アジト内を一気に焼き尽くせばそれで終わりだったじゃねえか!」
「確かに高火力の炎で焼き尽くしてしまうのが楽ではあります。ですがそれだと、煙に紛れて逃げる者が出そうですからね。近くの建物に燃え移ったら厄介ですし。こうして確実に一人ずつ制圧していくのが利口です」
アジトの中では、戦闘中の人間の数が減っている。戦闘不能になって床に倒れた者が複数出てきたからだ。
もちろん全員が組織の者だ。
「もうあなたたちに勝ち目はありません。降参した方が良いのではありませんか?」




