●第36話
二週間後の週末というタイムリミットが発生したことで、私は王宮騎士団の訓練をより厳しいものにした。
通常の訓練に加えて私の対魔法使い戦メニューが加わったことで、王宮騎士団は毎日くたくたになっている。
とはいえ成長には身体を休ませることも必要なため、訓練が終わった後には全員に治癒魔法を掛けているから、筋肉への負担は減っているはずだ。
明日もこの訓練か……という精神的負担は減らないけれど、一人も欠けることなく騎士全員が訓練に顔を出してくれている。
ガッツがあってよし!
「さあ、次! 次の相手、早く前へ!」
そんなこんなで王宮騎士団を徹底的に鍛え上げている私は、今日も厳しいメニューを課した。
一人ずつ私と一対一の決闘を行ない、決闘をしていない騎士は筋トレをしながら決闘の様子を観察する。
自分自身が戦うことが一番経験になるけれど、他人の戦闘を観ることもまた経験になるからだ。
なお決闘で私に負けた騎士は、訓練後に居残りでランニングがプラスされる。
「ジェイミー様、少し休憩しないっすか? 僕たちは交代してますけど、ジェイミー様は戦闘しっぱなしじゃないっすか」
休みなく決闘を続ける私を見たフレデリックが、声をかけてきた。
けれど心配はいらない。決闘と決闘の間に、私は自分自身に治癒魔法を掛けているから。
それに。
「休んでいる時間などないのです。もう猶予はあと一週間しかないのですから!」
「何の猶予っすか?」
「生きるか死ぬかを決める戦いまでの猶予です」
「なんすか、それ。戦争でも始まるんすか?」
事情を知らないフレデリックが首を傾げた。
しかし今ここで説明をするわけにはいかない。そんな時間も無い。
「そんなようなものです。さあ早く、戦闘訓練の続きをしましょう。お喋りをする時間が惜しいです」
私がそう言うと、フレデリックが木製の剣を握った。
「じゃあ今日二度目っすけど、また僕に稽古をつけてほしいっす!」
「稽古ではなく、私を殺す気でかかってきてください」
「そんな無茶な。そりゃあ負けたくはないっすけど……でも、そのくらいの気迫が無いと駄目ってことっすね!」
「はい。遠慮をされると困るので、真剣ではなく木製の剣を武器にさせているのです。下手な遠慮などせず、全力でかかってきてください」
私の前に立ったフレデリックは、出会った頃と比べてやや凛々しくなった気がする。
人間、変わるときには数日で変わるもののようだ。
「フレデリック。魔法使い相手の戦い方、少しは覚えましたよね?」
「ジェイミー様に叩きこまれたっすから」
「では、訓練の成果を見せてください」
私はフレデリックに向けて杖を構えた。
フレデリックも木製の剣を構える。
「フレデリック、魔法使いとの戦闘で大事なことは何ですか?」
「魔法使いと戦うときは、杖から目を離さないようにするっす!」
言葉通り、フレデリックの視線は私の杖に集中している。
「そうですね。それはとても大事なことです。後ろを見たくなるようなことを言われても、安易に杖から目を離して後ろを振り返ることがないように。まあ時と場合にもよりますけれど」
説明をしながら、フレデリックに向けて火球を放つ。
杖の方向を変えて、フレデリックの頭からつま先まで、火球の乱れ撃ちだ。
「くっ……目を離さなくても、無詠唱での魔法乱れ撃ちはキツいっす!」
フレデリックは火球を避け、弾き、何とか火傷をせずにこの場に立っている。
初めての戦闘のときよりも火球の数を増やしているのに火傷が無いところを見ると、フレデリックは動体視力が良いのかもしれない。
「無詠唱で魔法を使う魔法使いは少ないですけれど、皆無ではありません。無詠唱に慣れておけば、詠唱するタイプの魔法使いにも対応できるので、頑張ってください」
「あっ! 無詠唱でも、魔法の発動前には杖が光るんすね。それさえ見てれば、どれだけ連発されても火球を避けきれる気がするっす!」
どんどん火球の数を増やしているのに、フレデリックはいまだに火傷を負っていない。
正面から一人の魔法使いと戦う場合なら、フレデリックは良い線まで行ける気がする。
……相手が無詠唱の魔法使いではないのなら。
「杖から目を離してはいけないとは言いましたけれど、杖だけに集中しすぎるのもよくありません」
「そうっすね。複数人が相手の場合は、別の敵が襲ってくるかもしれないっすからね」
「それだけではありません。相手が魔法使い一人だとしても、杖以外にも注意を向けるべきなのです」
「……がっ!?」
いきなり襲ってきた衝撃で、フレデリックが膝をついた。
それと同時に大きな石が地面に転がる。
「どう、して……」
石が地面に転がった音で、フレデリックは自分に何が起きたのかを理解したようだ。
後頭部を押さえながら石を眺めている。
「魔法は杖を使わずとも発動が可能です。杖があった方が威力は出ますけれど。とにかく。杖にばかり集中していたら、杖を持っていない方の手で魔法を使われてしまいますよ」
「対魔法使い戦……奥が深いっす」
そう言い残したフレデリックは、その場に倒れてしまった。
大きめの石が勢いよく頭に激突したため、脳が揺れているのだろう。
「ちょっとやりすぎましたかね。フレデリックには今、治癒魔法を掛けておきますね」
頭の怪我はすぐに治療をしておかないと後が怖いため、私はこの場でフレデリックに治癒魔法を掛けた。
念のため多めに治癒魔法を掛けたので、フレデリックは頭へのダメージが消えただけではなく、決闘前以上に元気になったことだろう。
「さて。私との決闘はこの辺で終わりでいいでしょう。では、みなさん。通常訓練に移ってください。私は別の用事がありますので。また訓練が終わった頃に、治癒魔法を掛けに来ますからね」
「「「ジェイミー様、ご指導ご鞭撻のほどありがとうございました!」」」
騎士たちが私に向かって、一斉に敬礼をした。
まるで彼らの上官になったみたいで……うん、気持ちが良い。
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