始まり
よろしければお願いします。
ダンジョンの入り口となっている洞窟からは陰鬱な雰囲気が漏れ出していた。いや雰囲気だけではなく、動物の肉や血液の腐ったような臭いがしてくる。
「あんまり気乗りしないけど、準備はいいか、二人とも」
当然その二人に僕のことは含まれていないがそれもいつものことであり、いまさら気にすることでもないが今日はその言葉がやけに耳に残る。だってその二人のうちの一人は今日でいなくなるのだから。そう思うと自然と、心の中から幸せな気持ちがあふれてくる。
「いやだけど、報酬はいいもんね」
あまり乗り気ではないらしい。そもそも女二人は自分が汚れることを嫌っているのは知っているし、特に遥の方は唯に比べてその傾向が強い。それでも今回のクエストを受けることを了承したのには訳があった。遥は隠しているつもりかもしれないが、遥には多額の借金があることを知っておりその返済に追われていることを知っている。借りた金の使い道は服やカバンといった自分自身を飾るための高級品につぎ込まれていた。
洞窟の中に入ると早速一匹のゴブリンが短刀を振り上げ襲って来たが、悠人は難なくそれに対処した。
「さあ、行きますか」
悠人は切り落としたゴブリンの頭をサッカーボールのように横に蹴り転がし、岩に衝突した頭から目玉が一つ跳び出した。
「おっと、そういや耳を切り取っとかないとな」
懐から小さな刀を取り出し、悠人は潰れた頭に近づき耳を引っ張り綺麗に切り分けた。
「よし、お前これもっとけよ」
放り投げられた淀んだ緑色の耳を袋に詰め口を縛った。そうしてどんどんと洞窟の中へ進んでいった。もちろんゴブリンたちも馬鹿ではなく、徒党を組んで集団で襲ってきたりもしたがスキルもちの3人には全くといっていいほどかなわなかった。
「いやー楽勝だな。こんなに簡単に金貨300枚だっけ?稼げるなんてこれから俺、ゴブリン専門の剣士になろうかな」
軽口を叩きながら持っている剣を意味もなく振り回している悠人を遥と唯は何言ってんだかといった様子で見ていた。だがそんなとき、前を歩いていた3人の前にこれまで襲って来たゴブリンとは2まわり程度巨大なゴブリンが出てきた。
「うわっ、大きい・・・」
唯が目の前にいる異臭を放つゴブリンを見て声をあげた。
「ただ、でかいだけだろ?」
悠人は余裕しゃくしゃくで剣を構えなおし、すぐに切りかかった。だがその首を狙った右から左への斬撃はゴブリンのもつ巨大なこん棒で防がれてしまい、悠人が防がれたことに気が付く前にゴブリンの巨大な右こぶしが体の左側にめり込むようにして吹き飛ばされてしまった。
「「えっ・・・」」
唯と遥が声を漏らしたのはほぼ同時であり、気が付けばその巨体からは考えられない速度でゴブリンは唯の細い左腕を握り悠人と同じ方へ投げ飛ばした。勢いよく投げつけられた唯を悠人は体で受け止める形になりさらに奥の方まで吹き飛んでいった。そしてその先には事前に準備してあったであろう落とし穴があり二人はそのまま下まで落とされていき、少しした後に水に何かが落ちた時のような音がした。
「悠人!唯!」
暗闇の中に消えていった二人の方を見ながら遥は叫んだ。だが意識を向けるべきは二人ではなく自分自身であった。二人を吹き飛ばしたゴブリンは次の一撃を遥にたたきこもうとしており遥はすぐに防御の姿勢を取ったが筋肉隆々のゴブリンと比べると貧弱な体はそれをした意味もなく水きりの石のように二人とは反対の方向に吹っ飛んでいた。僕はその様子を見て笑いをこらえきれず大口を開けて笑った。
一通り笑った後、僕は先ほど3人を吹き飛ばしたゴブリンの後ろからくる、別のゴブリンに頭を下げた。そのゴブリンは一目見てこのゴブリン界隈のボスだと分かる風貌をしており、肌はしわが刻まれており片方の目は既に白く濁っていたが、身につける宝石を惜しげもなく使った冠や五指にはめられた指輪などを通して、自分が長であることを示していた。
「蒼空といったな。約束通りあの娘と他の二人を分断したぞ」
ゴブリンの長は人間に分かる言葉を話してきた。
「ありがとうございます」
改めて深く頭を下げた。
「それでは、今度はこちらの約束を聞いてもらう番だ」
「はい。ですが力を渡すのはあいつに復讐を果たしてからでもよいでしょうか」
ゴブリンの長と交わした契約は、ゴブリンたちに今回の復讐を手伝ってもらう代わりに、無期限の力の貸付であり、悠人達と交わしたものとほとんど同じであった。だがこのゴブリンどもは知らない。その力は強制的に返してもらうことも可能であることを。だがこちらが不利になるようなことはもちろん伝えておらず、単に簡単に力を増すことができるとだけ伝えて今回の計画に加わってもらった。今話しているゴブリンはゴブリンの中では異質な存在らしく、学ぼうという意思があり人間の言葉を独学で身につけたと言っていた。その学ぶことの大切さを知ったゴブリンはすぐにゴブリンたちの長になることができたのだそうだが、真に学ぶべきは人間の言葉ではなく人間の言葉の裏に隠された狡猾さであったのだ。
「もちろん、それでかまわんがもしお前が約束を反故にするようなことがあれば、この洞窟から生きては出られないと覚悟しろよ」
力強い目だ。長としての責任などゴブリンの世界とは言え侮れないものがある。それでも、前に立つのはそれよりも強い復讐心に取りつかれた男だ。
「分かっています。それよりも言われた通りの準備は・・・」
「心配いらん。全て用意してあるし下の者たちにも伝えてある」
「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」
再度頭を下げ、下に続く道を降っていった。目的の場所に着くまでの間、底の見えない道の先をを右に左に歩き続けた。
「地獄の底へ歩いて行ってる気分だ・・・いやそもそもこの世界に来る前から這いつくばっていたのか」
一人闇の中を進む中であの時の3人の会話がフラッシュバックしていた。きもかったか・・・。そもそも僕に居場所なんて最初から無かったのか。
しばらく考えながら歩いていると、下の方から声が聞こえてきた。
「いやっ、来ないで!」
遥の声が聞こえてきて考えるのを止め、少し歩調を早め目的の部屋まで急いだ。部屋、といってもただの洞窟のなかにできた40畳ほどの空間だったが天井が高く実際の大きさよりも広く感じられ、その壁際には半泣きになっている遥が必死にスキルを使っているのが分かった。
遥のスキルは人を癒す能力だけだと思われていたが、どうやらその回復量を増強することで他者の肉体を癒しとは反対に崩壊させることができるらしい。今、遥は目の前に立ちはだかる、汚れた汚物を股からぶら下げる醜く肥え太った男どもに襲われそうになるのを必死で堪えており、一人、また一人と頭から溶けるように崩れ落ちていき、そのたびに辺りには異臭が漂いそれにあてられて嘔吐を繰り返していた。
「地獄絵図だな・・・」
その空間には次々に鎖でつながれた人間がゴブリンに連れられ入っていく。ゴブリンたちは人間を部屋に押し込んだ後またすぐに来た道を戻っていき次の人間を連れてくる。部屋の中ではミンチ肉を握りつぶすような音が絶え間なく聞こえてくる。
「おえっ・・ゲホゲホ」
腹の底から湧き上がってくるものを必死に抑えようとしているが、理性ではどうにもならず無様に吐き散らしていた遥に少しの希望を与えるために、一旦男どもを部屋に入れることを止めさせた。
「終わった・・・よかった・・・助かった?」
部屋の外からその様子を見ていたが僕の姿には一切気が付いていないようだった。その後しばらく警戒していたようだったが、何も起こらないことを確信してか部屋からすぐに出ればよいものを地面に転がった男どもの死体に唾を吐きかけ、崩れかけの肉体に蹴りをかまして血肉を飛び散らせた。
「ふざけんなよ。このくそ野郎ども。誰に触れようとしてんだっての!お前ら見たいな醜い豚どもが私に触ろうとすること自体が気持ち悪いんだよ!こいつらあれだろ?どうせゴブリンごときに捕まった奴らだろ?知ってんだよ!ゴブリンどもの習性はよ!あいつらは他種族の女を孕ませるだけじゃなく、悪戯に人を弄ぶのが好きだってな!お前らはそのために利用されたんだよ!それで最後は肉塊とは笑わしてくれる!」
不満を言えるだけ言った後、部屋から出ようとしたが休憩の時間はおしまいだと言わんばかりに僕は次の作戦に移るようにゴブリンどもに指示をだし、ゴブリンたちはそれに従い、今度は人間ではなくゴブリンたち自身が部屋のなかに入っていった。
「ひっ・・・」
部屋の中に入ってきたのが人間ではなく、明らかに自分を襲う気であるゴブリンたちを見て遥は再びスキルを使おうとしたがそうはさせなかった。僕はその瞬間を待ちわびていたかのようにスキル「貸付付与」で使える力の一つ「強制返済」を使い、遥の身体からスキルを使えなくした。
「えっ、なんで!?使えない!?なんで、なんで!」
突如スキルが発動しなくなり、無様に手を振りかざしたり色々と試すが当然何も置きず、少しずつ近づいてくる自分の身長よりも少し高いゴブリン3匹に後ずさりしながら遥は叫んでいた。
「無駄だよ」
そこでようやく遥に話しかけた。僕の声を聞いて遥は目の前にいるゴブリンたちの隙間からほんの少し見える姿に自身の身に何が起こったのか理解したらしく、歯を食いしばるようにしていた。
「おい!お前!早く私のスキル返せよ!」
この状況かにおいても強い物言いの一種の馬鹿らしさが出てきたが、すぐにその考えを頭の片隅に置いた。そして遥から奪ったスキルを使って見せた。
「えっ!それ私のスキルじゃない!なんでお前が使えるんだよ!」
これまでぞんざいに扱って来た男が急に自分のスキルを使ったことに驚きが隠せない様子で目を見開いて叫んでいたが、すぐにその理由が分かったらしい。
「お前私のスキル奪っただろ!返せよ!」
「できないよ。だってこれは利息の分でもらったものだから。本来ならこれまで貸していたスキルに使う力だったりスタミナだったりで色々返してもらう必要があるんだけど、それをチャラにする代わりにスキルをもらったんだから。その代わり安心してよ。それ以外は何も取ってないから。いうなればこの世界に来る前の君本来の状態に戻しただけだよ」
遥は絶句していた。それは自分が頼りにしてきたスキルを奪われたことにより、今この場に置いて自分はただ何の力も持たない者に成り下がってしまったことへの焦りや恐怖からくるものであり、これから自分がどのような目に合うのか遥は過去に経験していたからこそ何も言葉が出せなかった。
「いや・・・いや・・・ほんとにだめ・・・やめて・・・いやなの。あの時みたいなのことは・・・助けてよ・・・」
遥の目から涙が溢れていたが助けるつもりは無かったし、むしろその姿を見るためにこれまで耐えてきたのであって、端からお前はここに来るべきではなかったんだよと思った。
次の瞬間2匹のゴブリンは遥の両手両足を抑え込み地面に押し倒した。遥は意味の無い懺悔の言葉を僕の目を見て言ってくるが、ゴブリンたちに遥を襲わせた。遥は自分の中に入ってくる異物を必死に腰をくねらせて拒もうとしたがその甲斐もなくあっけなく侵入を許してしまった。僕がとったのはスキルだけであり、体力などには一切手を出していなかったのは遥が意識を失わないようにするためだった。遥は泣き叫んでやめてと懇願するがゴブリンたちは一切手を緩めずに腰を振っていた。その醜悪な目の前の状況に思わず吐き戻してしまいそうになったが、何とか耐えてゴブリンたちにスキルを使い体力を貸しだし、ゴブリンたちは自身の力が戻ったことに気が付きさらに勢いづいて遥の中を抉った。だがしばらくすると遥の股下から信じられないほどの血が垂れ流されており、先ほどまで叫んでいた声が聞こえなくなったことに気が付いた。どうやらゴブリンたちが激しく突き刺すことで内臓が損傷してしまったらしく、痛みに耐えきれず遥は気を失ってしまったらしい。しょうがないので先ほど遥から奪った力を使いすぐに元の状態に戻し痛みを取り除いてあげた。
遥は今なお上下から突き刺されており、既に部屋の中はゴブリンたちの精液だけでなく血肉と吐瀉物の臭いが複雑に絡み合い埋め尽くされることで想像に度し難い臭気をまき散らしていて既に鼻で呼吸することはほぼ不可能な状況であった。遥も既に諦観しているようでゴブリンどもになすがままにされていた。
「そろそろか・・・」
一心不乱に腰を振るゴブリンたちの肩に長の手がかかりゴブリンたちは中から出て行った。
「おい、お前なんでこんな目に合ってるか分かるか?」
地面に這いつくばる遥を見ながらそう聞くと、口の中の血と精液を吐き捨てながら首を持ち上げ答えた。
「しらないわよ・・・そもそもお前は正当な理由のもと復讐しているつもりかもしれないが、大前提お前は私たちを裏切って一人で逃げ出しただろ。あの後どんな目にあったか知ってる?だからこれまでお前にしてきたことで恨まれる筋合いなんてないのよ!」
別に反省してほしかったわけじゃない。それでも何か一言ぐらいはあってもいいんじゃないか。そんな思いが頭の中を駆け巡ったがすぐに気持ちを切り替えた。
「そうか、お前の言い分は分かった。でも今この状況でするべきことじゃなかったのも確かだ。確かに僕は一人で逃げた。認めるよ。それでも、あれは僕が悪いのか?僕がお前たちを売ったのか?あの時のやつらと協力していたのか?違うだろ!僕たち全員がただ甘かっただけだ。誰にも責任なんてないんだよ。ただ災害に巻き込まれただけなんだよ。それにそう言うなら考えてみろよ。僕があの場で逃げ出さなかったら今も僕たちは奴隷のままだったかもしれないだろ!」
自分の言葉で興奮していくのを感じる。それでもこれまでのことを思い返すと沸々と怒りが次から次に湧いて出てきて抑えられそうにない。
「もう、いいよ。どちらにしろ僕はお前たちへの復讐はやり遂げる気だから。先に死んで後からくる二人を待ってろ」
力なく横たわるその体目掛けて刀を振り下ろし、両の腕と足を切り落とした。
「えっ、いやー!熱い!痛い!痛い!」
無くなった両手両足を探しまくるかのように転がる遥の腹を踏みつけて傷口を火で焼いて止血してやった。
「痛い!痛い!痛い!」
鼻水をまき散らし、痛みで糞尿を垂れ流しその姿はかつて見ていた姿とはまるで違っていた。
「安心しろよ。今お前から奪ったスキルで助けてやるよ」
先ほど切り落とした手足を左右逆にして傷口に押し付けた後、そのままスキルを使い火傷を治しながら引っ付けるとゲームのバグのような姿になった遥を見て、すぐに鏡を袋から取り出しその姿を見せてやった。
「え、嘘・・・」
ただのその一言に全て詰まっているのが分かった。遥は自身の身なりについてかなりの自信を持っていただけでなくその美貌をさらに底上げするための服などについても気を使っていたことは知っていたから今のゴブリンどもの体液や自分の鼻水や涙で汚れた姿は相当くるものがあったらしく、さらに腕や足が反対についているとなればそれを脳が認識することで気が触れてしまったらしい。
「はは・・・お前誰だよ」
手鏡を自分の手に持ち鏡の中の自分と話し始めたのを見て完全に壊れたことを感じ取り外で待機していたゴブリンどもを中に入れたが今度は何も抵抗することなく、おとなしくゴブリンどもの性欲のはけ口としてどこかに連れていかれた。
「これでよかったのだな」
「はい、ありがとうございます。それと今から長に今回のお礼に力を授けたいと思うので目をつむり天井を見てください」
ゴブリンの長はその言葉にゆっくり頷き天を見上げた。
「お前も僕なんかを信じるなよ。馬鹿だな」
ゴブリンの長の頭は回転しながら地面に音を立てて転がり落ちた。何が起こったのか周りのゴブリンたちは一瞬理解できていない様子だったが、すぐに現状を把握し襲ってこようとした。だけどその一瞬の迷いが命取りになりゴブリンたちの身体は次次に崩れ落ちた。その後、地上へ戻るときに大量のゴブリンたちに襲われたが遥のスキルと僕自身のスキルを使い無事に外にでることができた。「貸付付与」のスキルは力を貸すときと返すときに慣れていないと一瞬の硬直が生まれる。もちろん大きな力を貸せばそれだけ硬直時間も長くなるが、戦闘の時であれば一瞬でも相手の動きが止まればそれで充分なのでその隙を練って首を切り落とした。
外に出るとまずは大きく空気を吸い込み吐き出しそれを何度か繰り返し自分の中の汚れた気持ちを洗い流した。
「よし、帰るか」
ようやく一つ復讐を終えることができ、晴れ晴れとした気持ちを代弁したかのように頭上から太陽の光が降り注いでおり足元の影は朝よりも暗くはっきりとした輪郭をしていた。
読んでいただきありがとうございました!また次回も読んでいただけると幸いです。




