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日常1

よろしくお願いします。

 「おい、早く俺たちに魔力をよこせ」傲慢な態度で僕に話しかけるのは、冒険パーティーのリーダー悠人だ。


 「ねえ、早くしてよ。あんたみたいな役立たず、それぐらいしか使いどころがないんだから」悠人に抱きつきながら嫌味を言ってくるこのビッチは、冒険パーティーのヒーラー兼副リーダの遥。


 「二人は何故、毎回あんな無能にわざわざ話しかけているんだ?暴力でもなんでも使って無理やり服従させてしまえばいいじゃないか」部屋の奥から遅れて出てきて、僕には一瞥もせず悠人と遥に話しかけているこの丸眼鏡をかけた女は唯。


 「あんた、相変わらずひどい言いようね」遥がそう言い、悠人は笑いながら首を縦に振っている。


 「二人よりは、マシじゃない?」唯は不服そうに言い返したが、すぐに悠人が口を開いた。


 「何言ってんだよ。結局お前が一番こいつにお世話になるくせに」悠人は唯の方を見て言った。


 「ん?何言ってるの?パーティーの道具としておいてるんだから、道具に対してお世話になるとかって

なんか変な感じがするんだけど。私だけ?」


 「相変わらずね、唯は。でも確かにそれもそうかも。悠人は物を大切に使う人だからそうは感じないかもね」遥が唯に同意したように言う。

 

 「まあな。俺は物に対しても人に対しても感謝の気持ちは忘れないからな」それを聞いて三人は床に畜生のように這いつくばっている僕を尻目に大声で笑った。


 「あっ、今日は私の番ね。散歩に行ってくるわ」遥はそう言って話を遮った。


 「あっ確かそうだったね」


 「そうだったって、唯あんた、昨日こいつに餌やってないでしょ」半笑いで遥が唯に聞いた。


 「だって、昨日は久しぶりに休みだったから一日中魔導書店にいってたの。でも別に一日ぐらい大丈夫でしょ?それにもし使えなくなったら新しいの取ってこればいいし」唯は特に反省した様子もなく言った。


 「それもそうか。まあいいや。それじゃあ行ってくるね私」


 「おう、行ってらっしゃい。あっでも今日は昼からダンジョンに潜るから戻って来いよ」悠人が手を振りながら遥の方を見て言った。


 「うん。覚えてるから大丈夫よ。それよりも悠人。いつもの・・・」


 「ああ、そうだな」


 そう言って二人は家を出る前に熱い接吻をした。唯は呆れたような顔をして部屋に戻っていった。


 「それじゃ、行ってくるね」そう告げると遥は僕の首輪の先を引っ張った。


 「早くしなさいよ」残虐な目でこちらを見ながらそう言った。


 街に出るといつもと変わらない、僕は憐れむような目でそこに住む人々に見られていた。


 「お母さん、なんであの人はパンツしか履いてないの?それになんで四つん這いで首輪をつけられて歩いているの?それになんか汚いし」


 どこからか子どものそんな声が聞こえてくる。母親はそういう子どもの口を急いで塞いでいた。


 「ん?どうしたの僕?」遥は柔らかな目を向ける。でも目の奥は笑っていない。


 「いや、その人・・・」


 「あーこれ?いいでしょー。この道具」遥は満面の笑みで応える。そして道具という部分を強調しているのは明らかだった。


 「えっでも、それ人・・・」


 「あっ、もしかしてあなたも同じようになりたいの?」じれったい子どもの話を遮って遥がそんなことを言った。


 「すみません!すみません!この子には言って聞かせますからどうかお許しください!」


 その子の母親が平伏しながらそう言った。


 「いやいや、いいですよ。顔をあげてください。冗談ですから」遥は笑っていたがあと少し母親の謝罪が遅ければ先ほどの言葉は事実になってたと思う。なぜなら遥は今冗談と言いながらも魔力を練り上げているのが首輪の先からチクチクとした刺激となって伝わってきているからだ。


 遥はまた歩き始めた。だが途中で疲れたのだろう。僕の上に乗ってきた。


 「ほら、早く進みなさいよ」僕の頭を手でたたきながらそう言う。腕が痛くなってきた。膝と手は既に皮膚がぼろぼろになって血がにじんでいる。僕たちが歩いた場所が一目で分かるようになっている。そしてしばらくその体勢で歩いているとついに限界がきて崩れてしまった。


 「きゃっ!危ないわね。何してるのこの愚図!」遥は人目をはばかることなく蹴ってきた。頭の先から足の先まで。これでもかというくらい蹴ってくる。それに遥かの尖った靴先が刺すような痛みも生み出している。


 「ごめんなさい、ごめんなさい。次は絶対に崩れないので許してください」口の中を噛み血の味しかしないが何とか言葉を僕は発した。それを聞いて遥はようやく蹴るのを止めてくれた。


 「次はほんとに殺すから。ほら早く立ち上がりなさい」首輪を引っ張って無理やり立たされた。


 「ほんと、なんで悠人はあんた見たいなのをパーティーにおいてるんだか分からないわ」血まみれの僕を見て遥は汚物をみるような目を向けてきた。


 「そろそろ戻ろうかしら。でもこのまま帰ったらこいつを使えなくしたこと怒られちゃうか」遥はそう言うとどこからともなく杖を取り出し、魔法を唱えた。


 「安らぎの精霊よ。この愚かにも負傷した者を癒したまえ。ヒーリング」唱え終わると、僕の周りに緑の揺らめきが現れ、みるみる内に傷が治っていった。


 「よし、これで怒られないっと」遥は満足そうに、再び四つん這いの姿勢を取るように命令して、宿に戻っていった。




ありがとうございます。

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