第240話 エロ本片手に真面目に語る修道女
「プロディは、どうしたのですか?」
案内をするから準備が出来たら来てほしいとセレスに言われた研一が、センを連れてセレスの部屋を訪ねた第一声が、この言葉であった。
不安そうに視線を彷徨わせる姿は、まるで迷子を捜している母親のようである。
「抱く時以外は、部屋に置いてるに決まってんだろ」
セレスの言葉に、素っ気ない言葉で返す研一であったが、無論、そんな雑に扱っている訳ではない。
そもそも今日は別行動を取りたいと言い出したのは、プロディの方だ。
(本当にセンちゃんと交代で、見せ付け役をする気なんだな……)
どうやらセレスティア国に入る前にしていた取り決めは、今も有効らしく、今日はセンに譲るという事らしい。
昨日はプロディと二人きりの時間なんてほとんどなかったし。
センとしても、思うところが色々あったらしく、今日はプロディの番でいいと申し出たのだが、約束は約束だからとプロディが固辞したのだ。
だが――
「部屋に置いてって! 物や道具じゃないんですよ! 貴方は人を何だと思って――」
その辺の裏事情を知らないセレスからすれば、部屋で寂しく待たされているプロディの姿しか想像出来なくて、心配なのだろう。
読んでいたであろう本を部屋に置く事さえ忘れ――
研一を押し退けそうな勢いで部屋を飛び出したかと思うと、プロディの所へ向かおうとしてしまう。
「あー、もう、面倒臭えヤツだな。心を弄って俺の事が何よりも大事だって思わせただけで、それ以外は弄っちゃいねえ。好きにしてろって命令したから、アイツの好きに過ごしてるだろうよ」
しかし、先程のような事を言えば、セレスがどんな反応をするかなんて予測済み。
操り人形の設定をプロディと共に練り直し、セレスを納得させるような言い回しは、予め用意していた。
「……嘘ではないですよね?」
「何度も言ってるだろ。俺は面倒臭え事が嫌いなんだよ。無駄にそんな下らねえ嘘なんて吐かねえよ」
「……そう、ですね。疑ってしまってごめんなさい。謝罪します」
「おう、大いに反省しろ。……それよりテメェ、手に持ってるその本は、何だ?」
そこで研一は、セレスが小脇に抱えている本に目をやる。
前の戦いで手に入れた悪意とセレスからの影響で新しい能力にでも目覚めたのか、文字が読めるようになっていたのだが――
どう考えても能力が誤作動を起こしているとしか思えなかったからだ。
「これですか? 『人気娼婦が監修した超実践的、殿方を悦ばせる為の御奉仕教本。四巻』ですが……」
だが、どうやら能力が壊れている訳でも何でもないらしい。
当たり前のような態度で、セレスが本のタイトルを教えてくれた。
「…………」
ここでどういう反応をするのが、悪党として正しいのか研一には全く解からない。
だが、黙り込むよりもマシな言葉が出てこなかった。
「昨日は私の知識不足で残念な事になってしまいました。もし私があそこで後ろの奴隷の方やプロディの分まで、貴方を楽しませる事が出来ていたなら、お二人の事を解放出来たかもしれないと思うと、悔んでも悔みきれません」
「だから次の機会があった時に後悔しないように、早速勉強を始めた、と」
見上げた心意気ではあるし、心の底から尊敬すべき姿勢だとは思う。
だとしても、こんな本を読んでいる事を他人に知られる事に、何か恥じ入る事は無いのかという想いが消えない。
「誰かを助ける為に力を尽くす事を笑う事こそ、私は恥ずべき行為だと思っているんです。例えそれがどんな形であれ、理解し難い事であったとしても、誰かを守る為の苦労や覚悟は、尊重されるべきだと思っていますから」
そんな隠しきれない研一の戸惑いを、態度から察したのか。
むしろセレスは研一の態度を諫めるように、厳かな声で言葉を紡いていく。
「…………」
清廉潔白を絵に描いたような雰囲気の修道女が、淫らな本を持って説教めいた言葉を呟いているという、あまりにも混沌とした絵面に頭が混乱して、少し黙り込んでしまう研一であったが――
言い分自体は、本当に、その通りだとは思う。
「はっ。エロ本片手に何を言っても、ふざけてるようにしか聞こえねえよ」
だからこそ、悪党である研一はセレスの言葉に頷いてやる訳には、いかない。
聞く価値もないとばかりに決意を嘲笑うように、言葉をぶつけていく。
「それにお前、自分の言葉の意味、解ってんのか? たかだか俺が二人同時に楽しんでいるのを見ただけで失神してた癖に、ちょっと本で読んだ知識増やしたくらいで、実際にやれるのかよ、男との経験の一つもない修道女様がよぉ?」
それだけで話を終わらせず、追い打ちを掛けるように言葉を畳み掛けていく。
本を読んだだけで解かった気になっているような奴に、出来る事なんて何もないという侮蔑を言葉の端に滲ませて。
だが――
「どうやら誤解があるようですね」
セレスは研一の態度に、大きな認識のズレがある事に気付いたのだろう。
そこを擦り合わせる為に、セレスは真っ直ぐに研一を見詰めて、言葉を紡いでいく。
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