第238話 胃の痛い朝食
「意外ですね。貴方のような人は、奴隷といった身分の共に食事等しないと思っていました」
翌朝。
部屋に食事を運んできたセレスの第一声には、僅かな戸惑いがあった。
どうやらセレスの中で研一は、奴隷とは食卓を共にする事さえ嫌がるような、特権階級を笠にした嫌な男とでも思われているらしい。
「前にも誰かに言われた気がするが、俺はムラムラした時に、すぐコイツ等を使いてぇんでな。俺が使いたい時に飯なんて食ってたら、興覚めだろ? こういうのは変な見栄張らず、同じように過ごしてた方が色々と便利なんだよ」
それはそれで印象が悪くて好都合ではあるのだが、これから一緒に行動する上で色々と不都合が増えるのは確実。
それなら別の悪印象で上書きする事にする。
「……貴方に真っ当な人の心を期待した、私が愚かでした」
研一の狙いは成功したらしく、僅かでも研一を見直そうとしてたセレスの目に失望が色濃く浮かぶ。
どうやら昨日の事があってもセレスは、研一を心の底から見限る事は出来ないらしい。
何とか更生させる方法はないか、と思案しているのが見て取れた。
(……さすがに、いくら何でも能天気過ぎるだろう)
研一の演技を信じ込んでいるなら、どう考えても心を入れ替える可能性もない悪党だと思って当然だろうに。
優しい人間は嫌いではないし、報われるべきだとは思うが――
ここまでいくと、ただ現実が見えてない認識の甘い人間にしか見えず、好意よりも騙されないかと、研一は心配になる。
とはいえ、心配したところで今、出来る事などない。
用意された食事に目を向けた研一は、予想外に豪華な食事に僅かに驚く。
(朝食の割に結構ボリュームあるな。朝は少ししか食べないタイプなんだけど……)
焼きたてのようで湯気を立てるパンからは香ばしい匂いが立ち込め、パッと見た感じでは鳥の肉を焼いたように見える物体は、こってりと脂が乗っているように見えるモノの、肉と共に焼かれている香草のお陰で、さっぱりと食べられそうな雰囲気があり。
添えられているスープのような物は、完全に不透明な白い液体で、ホワイトシチューを思わせるが――
(どんな味がするんだろうな)
ここは異世界。
見た目通りの味がするとは限らず、けれど、食欲をそそる香りに研一は未知への期待と食欲を掻き立てられた。
「ふーん、意外と肉とか出るんだな……」
「……せんせ、神官長が色々と体力を使っているだろうから、と。わざわざ貴方達の為に用意してくれたんです。余計な気遣いだと言うなら、軽い物に取り替えますが――」
研一の発言を、朝食が多過ぎるという不満の声だと感じたのだろう。
セレスが僅かに眉を顰めつつ、それでも食事の趣味や嗜好はそれぞれだから、押し売りする訳にもいかないとばかりに食事の変更を提案する。
「ん、ああ、そういう意味じゃねえよ。殺生は禁止だとか言って肉とか魚とかは出てこないんじゃねえかと思ってただけだ」
だが、研一にそんな意図はない。
修道服のような恰好をしているし、聖職者みたいな雰囲気をしているから、当たり前のように肉が食卓の場に出てきた事に驚いただけだ。
「はい? どういう事でしょうか?」
「あー、俺の居た世界では、テメェみたいな恰好をした奴は、肉とか魚を食うのを面倒臭い理由で禁止されてる事があるんだよ。聖職者は他者を傷付けては、いけない、みたいな教えとかがあってな……」
「はあ、なるほど……」
言葉では納得したように頷くセレスだが、あまりピンとは来ていないらしい。
どうやらこの世界には、あまり存在していない概念らしかった。
「この世界には、そういう教えとか決まりとか、何か信仰みたいなモノないのか?」
「ああ、なるほど。そういう話ですか」
そこでようやくセレスは、得心がいったとばかりに頷く。
どうやら殺生禁止とかいう考えはないらしいが、信じている宗教だか教えのようなモノは存在しているようであった。
「我がセレスティア国では、光の神であり我が国名である、セレスティア様を信仰している者が多く、私も神官長も、セレスティア様の教えに従い、生きております」
「ふむ」
「とはいえ、セレスティア様の教えは、主に一つです。愛する者を裏切るな。生涯で唯一人を愛し、その愛する唯一人以外には、身も心も許してはいけない。ただ、それだけですから」
「……ほう」
(それなのにセレスさんは、国やプロディさんの為に、俺に抱かれようとしたのか……)
態度から想像するに、セレスは相当に敬虔の念が深い信者だろう。
だから研一がセンとプロディと同時に情事を楽しんでいると思っただけで卒倒し、意志とは無関係に弄ばれていると思って、必死で救おうとしている。
そんな人を国を救う為とはいえ、好きでもない男に裸を晒させるまで追い詰めた事を自覚して、研一が僅かに口籠もる。
「もう守っている者なんて、ほとんど居ない形骸化している教えですけれどね。先生くらいでしょうか、頑なに守っているのは……」
セレスが自分を挙げなかったのは、謙虚なのか。
それとも好きでも何でもない男に身体を晒し、抱かれようとした事から、もう自分は教えに背いたと思っているのか。
聞く訳にもいかず、僅かに胃が痛くなるのを感じた研一だったが――
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