第235話 人形には、なり切れなくて
「え?」
信じられない光景を目にして、セレスは目を瞬かせる。
心を壊され操り人形になっていると聞かされていた筈のプロディの目から、涙が零れている事に気付いたからだ。
「プロディ、貴女、まだ心が残って……」
「あん? コイツが何だって――」
そこでセレスの態度に横を向いた研一は、初めてプロディが泣いている事に気付き、言葉を詰まらせる。
研一にだって予測出来ない事態であった。
『……申し訳ありません、研一様。人類の裏切り者でしかない私に、ここまでしてくれる方が居たのかと思うと、堪え切れなくなってしまって――』
センが繋いでくれた念話で状況を理解した研一は、即座に動き始める。
ここで下手に時間を掛けて疑われてしまえば、今までの全ての演技が水の泡になってしまうと思ったから。
「ふ、はははは! セレスだったか! 面白い女だな、気に入ったぜ!」
考えなんて何もなかった。
とりあえず高笑いして、自分に注意を引き付ける。
後は出たトコ勝負だとばかりに、思い付いた言葉を並べて、この場を乗り切る事にした。
「いいぜ。テメェの心意気に免じて、魔族軍は追い払ってやろうじゃねえか。魔族共を国から追い払い終えるまでは、テメェにも手を出さねえでいてやるよ」
「え?」
あまりにも都合が良い提案を出されて、セレスが戸惑いの声を上げてしまうと同時に、気が緩んで研一を掴んでいた手を離してしまう。
その一瞬の隙を突いて、研一はプロディを抱えてセレスから距離を取る。
「代わりに全てが終わったら、テメェは俺の女になれ! 身も心も俺に捧げるって言うんなら、コイツ等の事も考えてやるよ」
「ま、待ちなさい! それならプロディ達を置いて――」
再び近寄ろうとしてくるセレスに、研一は魔法無効化の力を放つ。
一気に魔力を掻き消された影響で脱力状態に陥ったセレスが、躓いて倒れ込む。
「はっ! そこまではテメェに都合が良過ぎるってもんだろ。テメェのその偽善者面見てたらイラついて仕方ねえからな。この身体の疼きを抑える為に、コイツ等には一晩中、頑張ってもらう予定なんだからな!」
言いながら研一はプロディを抱き締めるようにして、顔を隠した。
涙こそ流してしまったモノの操り人形めいた演技を続けてくれていたが、いつ演技に限界が来るか解からなかったし。
あまり無理もさせたくなかった。
「それにテメェのせいで魔法が解けるかもしれねえし。今日は、たっぷり可愛がって、魔法を掛け直してやるぜ」
「ま、待ってください。それなら私が今日は貴方を楽しませますから――」
これはプロディを助け出せる好機だとばかりに。
セレスは自分の言葉の意味も理解しないまま、必死で研一に追い縋るが――
「俺を嫌ってる奴を寝床になんか呼べるかよ。いつ刺されるか解かったもんじゃねえからな」
聞く価値もないとばかりに、研一は一笑に付す。
そして、セレスに弾き飛ばされて部屋の隅に飛んでいた神官長に目を向けた。
「おい、ババア! 部屋に案内しろ。三人で楽しめるだけのデカイベッドのある場所だぞ」
「は? はい、直ちに……」
突然、声を掛けられて僅かに言葉に詰まる神官長であったが、そこは先代の党首。
すぐに冷静に答えたかと思うと、研一達を部屋に案内すべく歩き始める。
「ま、待てって言ってるでしょ――」
「ここは大人しくしていなさい、党首様」
尚も諦めず研一達をセレスが引き留めようとした瞬間だった。
神官長がセレスに向けて光線のような魔法を放つ。
「く、どうしてです、先生!」
魔法が直撃した途端、それは光の檻となって一瞬でセレスを閉じ込めてしまった。
それは党首であるセレスですら、簡単には破壊出来ない程度には強固な代物らしい。
「……我が国の党首が散々の無礼、申し訳ありません、救世主様。すぐに案内させて頂きます」
あえてセレスの言葉を無視するように、神官長は歩き始める。
ここで変に研一の興味がセレスに移ってしまうよりも。
もう既に研一に汚され切っているプロディ達が、多少犯された方がマシだろうという、神官長なりの苦渋の決断であった。
「ほう、テメェは話が解かるじゃねえか。もうちょい若ければ、コイツ等と一緒に、ベッドで可愛がってやったところだってのに、残念だぜ」
「……お褒め頂き、光栄です」
この神官長の狙い自体は、研一には解からない。
だが、早く移動したい研一に取っては渡りに船の流れだ。
早くベッドの上で三人で楽しみたいぜ、という演技をしながら、センとプロディを連れて移動を始める。
だが、静かに終わる事なんて許される筈がない。
「先生! 苦しんでいる人を救う為に力はあるって、教えてくれたじゃないですか! こんなの絶対に間違ってます! 先生、センセーイ!!」
話は纏まったとばかりに去ろうとする研一達を糾弾するように、セレスが必死で叫ぶ。
結界の中に囚われて尚、諦める事無く響き続けるその声は、研一達が転移陣の間を出ても、暫く鳴りやむ事無く続いていた。
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