第223話 これが女狂いのイカレタ救世主
「それじゃテメェは、俺との契約は破るって事でいいんだな?」
研一はリティアを捕まえつつ、静かだが強い声で尋ねる。
同時に魔力が膨れ上がり、あまりの魔力の大きさに傍で見ていたウルスス達は身体が震えるのを感じて、息を呑む。
「だから私以外の奴なら好きに持っていきなさいよ! この際、獣人じゃなくてもいいわ。そこ等に転がってる連中でも、民家に籠ってる奴でも好きなだけ――」
だが、リティアは研一の雰囲気が変わった事にも気付いていないように好き放題に捲くし立ていく。
そんな傍に居て、膨れ上がっていく魔力を感じる事さえ出来ないのかと思える程に。
あまりのリティアの無能っぷりに、周囲が呆れすら通り越した、理解出来ない存在を見るような目で見る中――
「じゃあ死ね」
「え?」
研一が魔力を溜めた拳を、リティアの腹に叩き付ける。
抱き留められたままのリティアに避ける事なんて出来る訳もなく、ただ間抜けな声を上げると研一の腕の中に抱かれる形で、ぐったりと動かなくなった。
「…………」
突然の凶行に、ウルスス達は近付くどころか声を上げる事さえ出来ない。
だが、そんな中で一人だけ研一達に向かって歩き始める者が居た。
「ま、待て。セン殿!」
それこそウルスス達獣人部隊と同時に、この場に辿り着いたセンである。
今回の戦いで戦力的に心強い活躍をしてくれた事もあり、ウルススとしては、もはやセンに戦友に近い意識を抱いている。
それが想像していた以上に危ない男の元に帰ろうとしたら、止めたくなるのが人情というものだが――
(く、駄目だ。足が動かない……)
研一から放たれる魔力の圧力が強過ぎて、動く事さえ出来ない。
それ程までに今の研一の魔力は凄まじかった。
何せ半ば意識が飛んでいる民衆達にトラウマレベルの恐怖を植え付けた挙句、今この場に居る者達からすれば、魔族軍を倒してまで欲しがっていたリティアを、あっさり殺した狂人だ。
恐怖と嫌悪いう名の悪意が、研一を急速に強くしていた。
そして――
「え?」
ウルスス達が見ている前で、殺されたと思われたリティアの身体が、ピクリと動いた。
見間違いかと自身の目を疑うウルスス達を嘲笑うようにリティアは自らの足で立ち上がると、そこから驚くべき行動に出た。
「ああ、なんて素敵な人なの。愛してるわ、ア・ナ・タ」
あれ程嫌がっていたのが嘘のようにまるで付き合い始めた恋人のような心底幸せそうな表情で研一の頬に口付けたかと思うと――
腕に手を回して、胸を押し付けるようにして抱き着く。
だが、それだけで事態は終わらない。
「研一様。新入りだけでなく、私も可愛がって頂きたく――」
まるでリティアに対抗するように、プロディが稲妻の速さで研一の隣に移動してくる。
そのまま研一の腕を取ったかと思うと、何と研一の掌を自らの豊満な胸へと押し当てた状態で身体を押し付けたのだ。
「い、今のは雷化の魔法? それにあの恰好。いや、だが、雷帝は死んだという話だし、男嫌いで有名な筈……」
別にプロディは特別男嫌いという訳でなく、自分が仕えていた主人であるマキ以外は、割とどうでもいいと思っていただけなのだが――
どうも世間的には、あまりにマキに傾倒しているモノだから、男嫌いの女好きと認識されていたらしい。
それは置いといて。
「そもそもどうしてリティアが生きているんだ? あんな膨大な魔力をぶつけられて、生きている訳が――」
「ああ、死んだぜ。リティアもプロディもな」
驚きの展開の連続に、もはや何が起きているのかも解からないとばかりに混乱するウルススに向かい、はっきりと研一は告げる。
両隣りに居て動いている筈の二人は、もう死んだのだ、と。
「正確には、どっちも俺が殺してやったって言うべきなんだろうけどな」
「どういう事だ! 確かにリティアはさっきお前が殺したように見えたが、雷帝は魔族との戦いで敵の大将と相打ちになったと聞いて――」
「それがさ、聞いてくれよ。マキーナ国の党首のマキちゃんとはさあ、魔族をぶちのめせば、マキちゃんもプロディも好きにしていいって話が付いてたんだよ。それなのに、このプロディがさ。勝手に先走って魔族を倒して、瀕死になっててさあ」
研一の言葉の途中で、プロディの腕に僅かに力が込められる。
それでも研一の気遣いや策略を台無しにしない為、必死で平静を装う。
「魔族を倒したのは私だから、マキ様には手を出すなとか死に掛けの身体で言う訳。代わりに私の身体は好きにしろって言うんだけど、さすがに死体を抱く趣味は、ねえんでな」
「それで治療して、約束通り雷帝を奴隷にした、と?」
だとすれば、言いたい事がないでもないが、それは当人同士の問題だ。
他人が口を出す事でもないと、ウルススは一応の納得を示そうとするが――
「んー、ちょいと違う」
研一は軽い調子で、ウルススの言葉を否定する。
「治療した後に魂を砕いて、俺の言いなりになるようにしてやったのさ。このリティアって女にしてやったようにさ」
無論、嘘八百の出鱈目だ。
リティアもプロディも普通に生きているし、さっきの行動も本人達の意志で、むしろ研一の方がそこまでしなくてもいいだろ、と内心で叫んでいたくらいである。
「魂を砕いた、だと!?」
だが、傍から見ているウルススからすれば――
リティアの豹変も、噂とはまるで違う男に媚びるプロディの姿も、全て研一に何かの力で操られていると考えれば、納得のいく話であった。
どういう事だとばかりに、更なる説明を求める。
「ああ、そうさ。約束を破って報酬を踏み倒そうとしたのは、コイツ等だからな。意志とか心ってモンを砕いて壊してやったのさ。人を騙して、ただ働きさせるゴミ屑には、お似合いの末路だろ?」
こうなってしまえば従順で可愛いもんだ。
なんて付け加えられた言葉に反応するように、リティアとプロディが更に研一に密着して、身体を絡めてくる。
もはや恋人同士の戯れというよりは、娼婦とのお遊びを思わせる姿であった。
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