第221話 ただの暴力
(ああ、悪い。ミリティ。我慢出来そうにない……)
ここは適当に怒っている振りでもして、適当に時間を稼いで――
怒っている研一をミリティが必死で説得でもした方が、民衆はミリティを慕うようになるし、今後の統治が楽になるのかもしれない。
リティアさえ無事で居てくれたなら、そういう結末にして、穏便に終わらせようと研一だって思っていた。
「……おい。コイツはあの裏切り者の獣人女連れて逃げたって話じゃ……」
「わ、私に振らないでよ。大体その話を聞いた途端、やっぱりあのガキは信用出来なかったって言ってたのは、アンタでしょ……」
だが、その研一の気持ちを急変させたのは、この暴動を起こしている民衆達の態度だ。
どいつもこいつも、現れた研一に事情を説明しに来るどころか、目を合わせようとすらしない。
周囲に視線を向け、自分は関係ない。
やったのは周りのコイツ等だけだと言わんばかりの態度で、隣の人間を非難しているのだ。
(……何、他人事みたいな面してんだ)
処刑台に拘束されているリティアとプロディの立ち位置。
そして、斧を持って倒れ込んでいる男の姿を見れば、馬鹿でも解かる。
プロディが居なければ、間違いなく集まった民衆でリティアを殺していた筈だ。
(抵抗出来ない人間を寄って集って殺そうとしてた連中が、今更、善良な一般市民の振りしようとしてんじゃねえよ……)
本当に、研一としてはリティアが無事なら穏便に済ますつもりでは、あったのだ。
それはある種の後ろめたさ。
何故なら、この民衆の暴動の切欠を作ったのは、間違いなく研一だ。
救世主が魔族にミリティを引き渡さず、そのまま逃げ出したせいで、激怒した魔族が攻め込んでくるなんて噂を流したから、この暴動が起きてしまったという自覚があり――
ある種の自己保身から、研一は目の前の連中を許したい部分があった。
だが――
(それでもお前等が、無関係な第三者になる訳ねえだろうが!)
だからこそ研一は、その罪とも言える失敗を少しでも取り返す為に、全力でリティアを助けに来た。
もしミリティが黒幕でリティアを切り捨てようとしている可能性を考え、らしくもなくミリティを気絶するまでぶん殴り。
今後の魔族との戦いの切り札になっていたであろう、プロディの呼び出しまで使った。
それが行動を起こした者の、最低限の責任だと思っていたからだ。
――それとは別に。
リティアには謝罪し、自分に出来る限りの願いを聞く予定であった。
「い、いや、その。俺達も騙されてたんですよ。多分獣人達の馬鹿共が流したんでしょうね。アンタ、いや、貴方様が逃げ出したって聞かされましてね……」
「そ、そうよ! コイツを殺しでもしないと、獣人達に殺されるって思ったから仕方なく……」
だが、ファブリス民の態度は、研一には理解したくないモノであった。
やっと研一に話し掛けてきたかと思えば――
ヘラヘラと笑いながら、自分達は何も悪くないんですよ、なんて軽い冗談でも言っていたような態度で擦り寄ってくる。
(これが人を殺そうとしていた人間の取る態度?)
吐き気を催す程に、我慢出来なかった。
「んな事は誰も聞いてねえんだよ!」
ヘラヘラ笑う男を蹴り飛ばし、擦り寄ってきた女を投げ飛ばす。
まるで全力で投げられたボールのように二人が勢いよく飛んでいき、即死しないとおかしい強さで壁に叩き付けられる。
「あ、ぐぅ……」
だが、何か特殊な力でも働いているのだろう。
不思議と二人に目立った外傷はなく、痛みに苦しみ蹲った。
「おい、答えろ! テメェ等、俺の戦利品に何やってんだって、俺様が聞いてやってんだよ!」
二人を吹き飛ばしても、研一の怒りは消える事はない。
百人は居るだろう民衆を一人一人睨み付けるように見回し、一番近くに居た者へと近寄っていく。
「お、俺は別に何もしてねえ! 殺そうとしたのは、あそこに居る斧持ったヤツで――」
「ほう。じゃあテメェはアレか? 俺の大事な大事な戦利品が壊される所を、笑いながら眺める為に集まったってんだな。下らねえ言い訳して無関係面してんじゃねえ!」
暴動に参加してないのなら、ともかく。
この場に居てリティアを取り囲んでいた上、言い訳がましい言葉を並べ立てる奴の話なんて聞くに堪えないとばかりに、研一は殴り飛ばす。
(ああ、くそ。この手の連中ってのは、どこの世界でも似たり寄ったりな事言いやがって……)
別に民衆の暴動なんて、研一は見た事もない。
だが、自分の意志で相手を甚振っておきながら、いざ大事になった途端、周りもやってたからとか、俺だけじゃないとか喚き散らす、無責任な輩なんて山のように見てきた。
そんなのは心を病んで引退した有名人やクリエイターのファンであったなら、嫌でも見る羽目になるのだから。
(自分の意志で人を傷付ける事を選んでおいて、被害者面しやがって!)
研一は、決して正義の味方なんかではない。
自分の力を増す為に人を傷付けるし、リティアを悪党だと思っていた時は、どうなろうが知った事かとさえ思っていたような人種だ。
故に――
利益を生む予定もなければ、何の策略にも繋がらない暴力だって、怒り任せに容赦なく揮いだってする。
「ひ、ひぃ!」
「頼む、許してくれ!」
「うるせえよ! 俺の大事な戦利品を傷付けた責任を取りやがれ!」
研一は一人も逃がさないとばかりに、次々と民衆達に襲い掛かっていく。
あるいは、もし一人でも誤解で酷い目に遭わせて済まなかった、俺達が悪かったなんてリティアに向けて謝る者が居たならば、どこかで止まれたのかもしれない。
だが――
「頼む、見逃してくれ。まだ小さい娘が居るんだ……。あの年齢なら二十年は楽しめる。娘をアンタにやる。悪い話じゃないだろ、な?」
最後の最後に残ったリティアを処刑しようとしていた斧を持っていた男の言葉に、研一は溜息を吐く事すらしなかった。
もはや冷めきった感情の抜けた目で、腰を抜かして動けなくなっている男を見下ろし――
手を伸ばしてやるのも面倒だとばかりに、転がっている男の頭を思い切り蹴り飛ばしたのであった。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。
また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。




