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コーヒー


……おい、起きろ


……おい……エリサ


名前を呼ばれて目を覚まし、ベッドの上で頭だけ起こすと、超絶イケメンが機嫌の悪そうな顔でこちらを見ていた。


いつもはサラサラな金色の髪が、ほんのり濡れている。


いつもは黒っぽいかっちりした格好なのに、白シャツをゆるりと着ている。


要は、超絶イケメンの休日 〜 シャワー後Ver 〜 である。


「ま、まぶしい」


「朝だから当然だ」


「まぶしいのは朝の光ではないのですが、とりあえずおはようございます」


「コーヒーだ。降りてこい」


「はぁ」


一体何がどうなってるんだ。


自室で目を覚ましたら、この世のものとは思えないイケメンがいて、コーヒーを飲めという。


え? っていうか、何でいるの? 何で部屋に入ってきた? あの人「エリサ」って呼んだよね?


とりあえず着替えて降りよう。もたもたしていたら、ますます機嫌が悪くなりそうだ。


先方が崩した格好をしていたので、私も適度に崩していいだろう。寝巻きはさすがにまずいので、メイド服の黒ワンピースだけを着て、カチューチャやエプロンはつけずに自室を出た。


二階までコーヒーの芳ばしい香りが漂っている。


一階に降りて行くと、ヴィデル様はすでにいつもの席に座り、優雅にコーヒーを啜りながら新聞を読んでいた。


私のいつもの席にも、カップが置かれている。


先に顔を洗うべく、一旦テーブルを素通りしようとすると、クレームが入った。


「どこへ行く。冷めるぞ」


「あ、その、先に顔くらい洗いたいです」


「さっさと洗ってこい」


「はぁ」


あのお方、いつも意味が分からないが、今日は本気で意味が分からない。


分からないものは考えても仕方がないので、さっさと顔を洗ってコーヒーを飲もうっと。


顔を洗って寝癖を多少直し、洗面所から出ると、あのお方は新聞ではなくこちらを見ていた。


え、こわい。


なに? なんなの? でもかっこいい。


私が席に座り、コーヒーのカップを手に持ち、「いただきます」と言って一口飲み、「こんなに美味しいコーヒーは飲んだことがありません」というと、ヴィデル様は満足して新聞に戻った。


本当に、こんなに美味しいコーヒーは初めてだ。ヴィデル様が、私のために淹れてくれたということでいいのだろうか。


いや、過度な期待はよそう。ただの気まぐれかもしれない。


コーヒーを啜ってぼーっとしていると、朝食を持ったティオナがやってきた。しかも、ガラガラとワゴンを押してきたのだ。


「おはようございます、ヴィデル様、エリサさん。朝食をお持ちしました」


テーブルの上に、二人分の朝食が並ぶ。


澄ました顔をして配膳をするティオナだが、よく見ると笑いを堪えている。


「では、ごゆっくりお召し上がりください」


そう言って、私にだけ見えるようにウインクすると、ティオナは足取りも軽く出て行った。


ヴィデル様はまだ新聞を読んでいる。


目の前のお皿を見ると、さらに一品増えて、四皿も並んでいるではないか! しかも、大好物のフルーツがある!


ヴィデル様効果? それとも、使用人から魔道具師になったからなのか?


ま、とにかく食べよう!


「いただきます!」


元気に食べ始めると、斜めに座っている方も新聞を畳んで食べ始めた。


しばらく、食器やカトラリーの音しかしない、平和な時間が過ぎた。


そして、食事も終わろうという頃、ヴィデル様が話しかけてきた。


「今日は何をするんだ」


「ええと、昨日ヴィデル様にご指摘いただいた点について、いくつかアイディアを思いついたので、机上で検証してみようかと」


「そうか」


「あと、後ほど耐魔室について相談させてください。具体的な案を作る前に、方向性に問題ないか伺いたく」


「ああ。……そういえば、主要な魔石と無の魔石との交換レートの資料が見つかった。だが、隣国のゼフェリオの言葉と単位で書かれている。読めるか?」


「いえ、さっぱりです。でも、ヴィデル様が一度セレスティン語で読んでくだされば、必要なところは自分でメモします。単位は、変換の仕方を教えてください」


「わかった」


昨日のヴィデル様の部屋から聞こえたガタゴト音は、交換レートの資料を探す音だったのだろう。


ん? まてよ? 昨日私が寝る前、ヴィデル様って隣の部屋にいたよね。


で、朝起きたら、目の前にいたよね。


ってことは、隣の部屋で、壁一枚挟んで並んで寝てたってこと!?


いびきとか寝言とか大丈夫だったかが一瞬気になったが、今朝寝起きの間抜けな姿を見られたことを思い出し、気にするのをやめた。


「それから、今日から屋敷にいるときはここで過ごす」


「今までもそうでしたよね?」


「食事や睡眠もここで取るという意味だ」


「げっ」


あ、しまった。心の声が出てしまった。


ヴィデル様の目つきが鋭くなる。


「おまえは昨日やる気が出たと言っていたな? ……ということは、やる気の無い状態でスケジュールを立て、やる気のない日々を送っていたわけだ」


「そういう気持ちではなかった、と言い切れるかというと、うーん……確かにそういう気持ちもあったかもしれません」


「俺がおまえのスケジュールを管理する。まずは、起きろと言ったらすぐ起きろ」


どっひゃー!!

お読みいただきありがとうございます!

明日も投稿します!

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